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ハリウッド俳優に懲役20年。Netflixの名前を使った詐欺

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
(写真:イメージマート)

 NetflixやHBOなどのおかげで急激にコンテンツの海外進出が進む中、そこに目をつけた悪質な詐欺に判決が下された。懲役は20年。加えて、200人以上の被害者に2億3,000万ドルを払い戻すようにも命令されている。

 被告人は、「ホワイト・クロウ 伝説のダンサー」などに出演した俳優ザック・エイヴァリー(35)。本名は、ザッカリー・ホーウィッツ。彼が立ち上げたワン・イン・ミリオン・キャピタルという会社は、小さな映画の海外配給権を買い取り、後にその権利をNetflixやHBOに転売して儲けを出すことをふれ込みに、2014年から2019年にかけて出資を募った。投資した人々には、半年以内に25%から45%の利益をプラスしてお金を返すと約束。その約束を守るために、新たな被害者を見つけては先に投資した人に払い、また次の被害者を探すということを繰り返した。彼が集めたお金は、最低でも6億5,000万ドルに上るとされる。

 だが、実際に配給権を買った映画は1本もないと、ホーウィッツは裁判で認めた。投資家を説得するために見せたNetflixやHBOとの契約書も、署名やメールのやり取りも偽造だ。NetflixやHBOも、ホーウィッツとビジネスをしたことはないと供述している。

 それら巨額のお金は、ホーウィッツの贅沢なライフスタイルのために使われた。この間、彼は、試写室やワインセラーなどを備えた570万ドルの豪邸を購入。ほかにも、家のインテリアに70万ドル、ベンツやアウディに60万ドル、旅行に34万ドル、ラスベガスのカジノとナイトクラブに13万ドルを費やした。時には自分が出演する作品に資金を提供することもしたようだが、それらのお金が詐欺で集められたものなのかどうかは今のところ不明なようだ。

最初に騙したのは大学時代の友人

 ホーウィッツは1986年、カリフォルニア州バークレー生まれ。10歳の時に両親が離婚、母と一緒にフロリダ、続いてインディアナ州に移住した。インディアナ大学ではフットボールチームに所属し、プロ選手になることも夢見たが、ケガをして断念。大学での専攻は心理学で、卒業後は博士号を取得すべく、シカゴ・スクール・オブ・プロフェッショナル・サイコロジーに進学した。

 映画デビューは2009年の「G.E.D.」(日本未公開)。2014年には、ブラッド・ピット主演作「フューリー」にノークレジットで出演した。最近作は、オリヴィア・マン、ブルース・ダーンらと共演した「The Gateway」(日本未公開)。

 ホーウィッツは昨年4月に逮捕され、100万ドルの保釈金を払って保釈された。10月の裁判で、有罪を認めている。妻との間にふたりの幼い息子をもつ彼は、二度とこのようなことはしないから子供たちのそばに居させて欲しいと裁判で嘆願したが、この罪はきわめて悪質だと、検察官。そもそも、最初に騙した相手は大学時代の友人だったのである。「彼はまず、まさかこの人が自分を騙すことはないだろうと思ってくれる人を裏切ることから始めた。そしてその人たちと家族から、将来のために蓄えたお金を奪い取ったのだ」と、検察側は主張している。

 海外は、ハリウッド業界において成長が続いている市場。配信業界でも新会員の伸びが顕著なのは、今や北米ではなく海外だ。だが、その仕組みは複雑で、それを専門としない人にはなかなかわかりづらい。そんな中、ハリウッド史上最大規模の詐欺が起きてしまったというわけだ。

 しかし、嘘はいつかばれるもの。こだわりのマイホームも売りに出され、7年以上にわたってホーウィッツが作り上げてきた幻想は崩れた。映画の世界でも悪役には必ずしもハッピーエンドはないのだということを、彼は今さらながら思い出しているだろうか。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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