センター試験はトイレも行けない?~センター試験のトラブル、クレーム対応を考える
センター試験シリーズその2、今回はセンター試験のトラブルです。
2016年1月12日付記
センター試験については、2016年1月12日記事の
の2本もあわせてどうぞ。
試験前に交通事故、損害賠償は?
『判例速報』2008年2月号には
「交通事故によりセンター試験を受験できなかった学生が、浪人生活を余儀なくされたとして、損害賠償請求を行った事案」
が掲載されています。
2004年1月、センター試験直前に交通事故にあった高校生はセンター試験を受験できず、浪人することになります。
治療費、入学費用、予備校受講料、損害慰謝料などは争いにならなかったのですが、交通事故によって浪人することになって浪人した分、就業が遅れることについての休業損害、それからセンター試験が受験できなかったことによる精神的苦痛に対する慰謝料などが争点となりました。
2008年、仙台地裁の判決では
1:休業損害については、事故に遭遇したことと1年間就業が遅れることとの相当因果関係を認めるに足りる証拠はない
2:事故によりセンター試験を受験できず、精神的苦痛を被った事実は認め、100万円の慰謝料を認める
というものでした。
しかし、交通事故が原因で浪人したとして、休業損害などをどこまで認めるかどうかは認定が難しいところです。
記事では類似の判例として
岡山地裁勝山支部平成元年8月16日判決(交通民22・4・911)と
大阪地裁平成9年6月30日判決(交通民30・3・933)
を紹介しています。
岡山地裁の判決では大卒男子労働者平均賃金を元にした1年分の勤労収入を損害として認めています。
一方、大阪地裁は因果関係を否定。
仮に大学受験をしていて合格したかどうかはわかりません。それで判断を下すしかないわけで、まあ難しいところです。
カンニングは防げる?
2011年、京都大二次試験などでYahoo!知恵袋を利用したカンニング事件が発覚。
19歳の浪人生が携帯電話を使っていたことが判明し逮捕されました(その後、不起訴処分)。
この事件がきっかけで2012年から携帯電話などの電子機器は電源を切ってカバンにはしまわないことが試験の注意事項に盛り込まれました。
正確には、毎時間、試験前に電源を切ってからカバンなどにしまうように指示するそうです。
ただし、これでカンニングが防げるか、と言えばちょっと疑問です。
そもそも、センター試験の試験運営を行う大学教職員向けの『監督要領』は分厚く、しかも意味不明、あるいは矛盾した項目があります。
『月刊高校教育』2012年6月号の「大学入試監督はクレーム対応の歴史だった」(小野田正利・大阪大学大学院人間科学研究科教授)にはカンニングについて次のような記載がありました。
カンニングの摘発(具体的証拠の確認)は、極めて難しいことが多く、また、もしそれが誤認であった場合には受験生本人と周りの受験生に与える動揺が大きくなるので、必ず試験会場の監督者全員で確認をして明白でない限りは、発見に努めるのではなく「未然防止=させないような雰囲気を作ること」に留意することとなっています。
そのためには試験会場(教室)内の巡回しかありません。
ところが、これもやりすぎると他の受験生から苦情を寄せられることになります。
記事にはこうあります。
試験監督者がしつこく室内巡視をすることは「ほどほどに」となり、立ち止まって受験生の様子を見ることは控えるように、しかし他方でカンニングなどの不正行為をさせないようにすることは怠らないように、というはなはだ矛盾した指示が、当然のごとく出てきます。「結局、どうせえちゅうねん!」
本当にどうしろと?
理科・社会の2科目受験、トイレはどうする?
理科・社会は国立大受験者などだと2科目を受験することになります。
1科目の試験時間は60分。
2科目だと120分、これに答案回収などの中間時間10分を含め130分です。
この中間時間にトイレ休憩は認められていません。
大学入試センターのトップページにはセンター試験期間中、わざわざ「平成26 年度大学入試センター試験に関する情報」として、注意書きの中に次の一文がありました。
「試験時間は130分ですので,あらかじめトイレ等を済ませ入室してください」
しかし、受験生がどうしてもトイレに行きたい、と言った場合は認めざるを得ません。
2012年には「原則禁止」と緩やかなものだったのですが、案の定、トイレ休憩を申し出る受験生が続出。
大阪市立大では
まあ、確かに答え合わせなどはできてしまいますね。
そうした指摘が、大学入試センターの注意書きから「原則」が消えた理由ということになるのでしょう。
しかし、センター試験という受験生にとっては勝負どころの大一番、130分もの間、トイレに行かずに我慢できるものでしょうか?
受験生に対しては、トイレに行きたくなったら我慢せずに行くようにした方がいいです、と言えます。
一方、センター試験を運営する大学教職員の方には、ご愁傷様です、としか言えません。
内田樹、センター試験からの解放に喜ぶ
少し前まで神戸女学院大教授・入試部長だった内田樹さんのブログでも、センター試験への言及がありました。
センター試験の運営マニュアル(『監督要領』)は相当分厚く、人によっては
2センチあるとも、
マニュアルのカドで入試センターか文部科学省の関係者を殴り殺そうと思ったが、マニュアルの重さでこちらが殺されてしまう
とも言われています。
私は現物を見たことがないのでいずれ見てみたいと思います。
貧乏ゆすりにまで対応
大学教員の個人サイトやブログを見ていくと、このセンター試験への恨みというか愚痴というかどうでもいいトラブルがよく出てきます。
田尾和俊・四国学院大教授のブログには、貧乏ゆすりまで対応しているとありました。
別室対応は言ったもの勝ち?
藤森かよこ・福山市立大教授のブログには別室対応についても触れられています。
なんか、ここまで行くとむしろ、他の受験生に対して不公平なんじゃないでしょうか、大学入試センター様。
「5分ごとに体操しなければ集中」できないヤツなど、仮に大学入試でうまく行っても社会でうまく行くわけもなく。
それとも、大事な会議でも5分ごとに体操する?(爆笑)
そんな特別対応を求められても、
「それは他の受験生に対して不公平になります。静かに受けられないなら退室してください。受験は認められません」
で、済む話なんじゃないでしょうかね?
センター参加元祖の慶応がセンター撤退をした理由
もちろん、若い受験生の人生を左右するセンター試験は適切に運営されるべきです。
不正や不公平などがあってはなりませんし、その点で運営の大学教職員には緊張感が求められるのは無理からぬところです。
しかし、一方で、ここまで受験生をお客様扱いにしていいのか、という疑問はぬぐえません。
センター試験でここまで甘やかされた受験生が学生になり、いざ就活を迎えると不条理・不公平の嵐。
学生は損をしますし、企業側も甘えた学生の対応に振り回されます。結局、誰も得をしないワナ。
大学教職員を疲弊させる一方で、誰も得をしないセンター試験のクレーム対応の現状は改善されるべきではないでしょうか。
文部科学省・大学入試センターの再検討が待たれるところです。
なお、ここまで他人事のごとく読まれてきた読者のうち、高校教職員の方に悲しいお知らせが。
センター試験を廃止して、達成度テストに変更するという動きが文部科学省の審議会から出ています。
複数回受験を認めることも盛り込まれていますが、これだけ細かい運営を大学が年に2回も3回もやるのは無理。
となると、お鉢が回ってくるのが、高校です。ほーらね、高校教職員の方、背筋が凍りません?
そういえば、2012年から慶応義塾大はセンター試験利用入試を廃止しました。
慶応義塾大は1990年のセンター試験の初回から参加している私立大で、シンボル的な存在でもありました。
廃止の背景としては
●センター試験では問題が易しすぎて、受験生間の差がつかない
●到達度テスト導入の地ならしとして廃止を決めた
など諸説飛び交っています。
が、コトの真相としては、センター試験の過剰な「お客様対応」がバカらしい、というあたり、なのかもしれません。
追記 記事公開後に、こんなのが。
【速報】センター試験会場で早くもやらかした奴がいるぞwwwwwwwwww
これも、特別室で対応、とか言わないですよね?大学入試センター様?