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異次元緩和を続ける理由のひとつ、黒田総裁の物価見通しは正しいのか

久保田博幸金融アナリスト
(写真:つのだよしお/アフロ)

 日銀の黒田総裁はインド南部ベンガルールで開かれた20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議後に記者会見し、消費者物価の上昇は大半が企業による原材料高による価格転嫁の結果だと指摘。日銀は、過去の原材料費上昇の影響が薄れるのに伴い、2023年度、2024年度に消費者物価指数(CPI)のコア指数(除く生鮮食品)の上昇率が2%を下回る水準に鈍化すると見込んでいるとした(27日付ロイター)。

 黒田総裁が総裁に就任し、最初に迎えた2013年4月4日の金融政策決定会合で「量的・質的金融緩和の導入」を決めた。コアCPIの2%という物価目標に対しては、2年程度の期間を念頭に置いて、早期に実現するため、マネタリーベース(現金通貨プラス日銀当座預金)および長期国債・ETFの保有額を2年間で2倍程度とし、長期国債の平均残存年数を現行の2倍以上にするなど、量・質ともに次元の違う金融緩和を行うことになる。

 2013年4月4日には展望レポートが発表されている。ここで2013年度の物価見通しをプラス0.7%と置いていた。この物価とは消費者物価指数(除く生鮮食品)である。これに対して、総務省の経済白書内のデータの「物価」から2013年の物価をみると前年比プラス0.4%となっていた。年度と年、さらに日銀のコアに対し、総務省は総合という違いはあり、あくまで参考程度だが、展望レポートと年毎の比較を行ってみた。

2013年4月の展望レポート、コアCPI年度予測+0.7%、同年のCPI+0.4%

2014年4月の展望レポート、コアCPI同年度予測+3.3%、同年のCPI+2.7%

2015年4月の展望レポート、コアCPI同年度予測+0.8%、同年のCPI+0.8%

2016年4月の展望レポート、コアCPI同年度予測+0.5%、同年のCPI-0.1%

2017年4月の展望レポート、コアCPI同年度予測+1.4%、同年のCPI+0.5%

2018年4月の展望レポート、コアCPI同年度予測+1.3%、同年のCPI+1.0%

2019年4月の展望レポート、コアCPI同年度予測-0.7%~-0.3%、同年のCPI0.0%

2021年4月の展望レポート、コアCPI同年度予測+0.5%、同年のCPI-0.2%

2022年4月の展望レポート、コアCPI同年度予測+1.9%、

 このふたつを比較対象とするのにはやや無理があるが、日銀の政策委員の見通しと現実の数値にはどうやら乖離がありそうなことはわかるかと思う。展望レポートには翌年度の見通しも出ており、これと実際の翌年度の比較を行うともっと誤差が出てくると予想される。

 何が言いたいのかと言えば、たとえ物価の番人である日銀の総裁であろうと、将来の物価を正確に言い当てることは難しいということである。たとえば2021年4月の展望レポートでの2023年度の物価見通しは+1.1%となっていた。2021年1月の消費者物価指数は4%を超えている。

 黒田総裁の発言によれば、2023年度、2024年度に消費者物価指数(CPI)のコア指数(除く生鮮食品)の上昇率が2%を下回る水準に鈍化するそうであるが、そうなると1月の4%台が仮にピークだとしても、年度後半にはコアCPIがゼロ近くの数値となる必要も出てこよう。2%を下回ると言う数値はあまり現実的ではないのではなかろうか。

 いやいや突発的な予測困難な出来事、たとえば新型コロナウイルスの世界的な感染とかロシアによるウクライナ侵攻みたいな事態が発生すると急激な物価変動も起こりうるのではとの見方もあろう。そもそも将来予測はそのような想定外の出来事の発生までは予測できないことで、現実的にはあまり意味がないと個人的には思っている。だからこそ、総裁の2%を下回るという予測はあくまで希望的な観測でしかないように思うのである。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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