今さら人に聞けない「三国志」の魅力を「5分」で解説 650年読まれ続ける人気コンテンツ
三国志を題材にした歴史シミュレーションゲーム「三國志」シリーズ(コーエーテクモゲームス)の最新作「三國志14」が発売されました。同じことをテーマに14作出し続けて、いまだに売れ続けているのですよね。さて、この“原作”は約650年前に書かれたとされる小説で、中国で長年愛され続け、現在の日本人の心もガッチリつかんでいます。そんなスーパーコンテンツともいえる「三国志」ですが、実は「今さら人に聞けない。でも読むのは面倒」という人もいるでしょう。そんな方たちへ三国志の魅力を「5分」で解説します。
◇意外にハッキリしない原作
歴史百科事典の「国史大辞典」(吉川弘文館)によると、一般でいうところの三国志の正式名称は「三国志演義」となります。中国・三国時代(西暦200年前後)の史実をベースに、脚色を加えた小説です。史実7割、虚構3割といったところだそうで、元末期・明初期、羅本(字は貫中)の作とされますが、唐の末期以降には既に講釈が存在したそうです。要するに、中国でも長い間人気のコンテンツでありながらも、ハッキリしない部分があるのです。なぜこんなことをいちいち説明するの?といえば、「三国志」という歴史書があるからです。ただし通常「三国志」というときは、ほぼ三国志演義のことを指しているのです。
そんな三国志の“入り口”になったのは、現代日本であれば、まず吉川英治の小説でしょう。続いて横山光輝のマンガ、NHKの人形劇でしょうか。そしてゲーム「三國志」シリーズという感じです。他にもマンガ「蒼天航路」や映画「レッドクリフ」、ゲーム「三國無双」シリーズなど多くの作品があり、そこから三国志のファンになった人もいるでしょう。マンガ「龍狼伝」のように、大胆にアレンジした作品も目につきますね。
三国志の魅力と言えば、個性的なたくさんのキャラクターと、重厚でドラマチックな物語がガッチリかみ合っていることでしょう。ありがちな説明で恐縮ですが、王道なのです。もちろん、昔から語り継がれている物語や童話などは多くありますが、大人がのめり込み、バリバリに熱く語れる、650年にわたるロングセラーコンテンツは、そうそう思いつきません。
三国志のストーリーを一言で説明すれば「国の再興を目指した英雄たちと、その遺志を受け継ぐ天才軍師の物語」になります。それだと具体性に欠けるので、もう少し説明してみましょう。
◇孔明の死で実質的な幕
漢王朝の血を引く青年・劉備(りゅうび)が、関羽(かんう)と張飛(ちょうひ)と義兄弟の絆を結び、滅びゆく漢の再興を目指します。多くの英雄が争う中で、劉備のライバル・曹操(そうそう)が台頭、中国の北半分を制します。
関羽、張飛という豪傑はいるものの小勢力の劉備でしたが、天才軍師の諸葛孔明(しょかつ・こうめい)を口説いて引き込むと流れが変わります。天下統一を狙う曹操は、南方の勢力・呉(ご)を倒すため進撃しますが、劉備は孔明の作戦に従って呉と組み、曹操を撃破します。さらに劉備は、西方の蜀(しょく)を奪取。曹操、呉と共に天下を三分することに成功します。
しかしライバルの曹操は死に、漢も滅びます。そして孔明の反対を押し切って呉と戦った劉備は大敗し、失意のうちに亡くなります。遺志を継いだ孔明は、曹操が実質的に建国した魏(ぎ)との戦いに挑みますが、志半ばで倒れ、実質的に物語の幕を降ろします。
孔明の死後約30年後、劉備が建国した蜀は、魏に滅ぼされます。そして魏・呉・蜀のいずれも天下は統一できず、孔明のライバル・司馬仲達(しば・ちゅうたつ)の子孫が建国した新国家・晋が天下を統一します。
◇膨大なキャラに名場面盛りだくさん
三国志の最大の魅力と言われたら、まず多彩で個性的な人物(キャラクター)でしょう。主人公の劉備も人気ですが、他の主要メンバーも負けていません。劉備の義兄弟で後に神様になるほどの人気を集めた関羽、“三国志の真の主人公”ともいわれる有能な野心家の曹操、相手の行動や天候までを予測してしまうスーパー軍師の孔明、力押しで権力の頂点に上り詰めた董卓(とうたく)、武勇では並ぶものがいないものの主君を裏切り続ける呂布(りょふ)、孔明の進撃を阻止して、晩年に魏を実質的に乗っ取った仲達……。挙げればキリがありません。
ヒーローだけでなく、ダメ人間がいるのもポイントです。劉備の息子で、孔明が必死で守った蜀を滅ぼしてしまい、敵国の暮らしを心の底から楽しんだ劉禅(りゅうぜん)なんて、人間の弱さがよく出ていて、しみじみと感じるものがあります。
三国志の武将の数なら100人、それ以上言えるファンも少なくないでしょう。ちなみに、ゲーム「三國志14」の登場人物は1000人いて、皆に生き様があります。
そして人物と共に、物語の各所に出てくるさまざまな名場面が物語にいろどりを添えます。劉備と関羽、張飛が義兄弟になる「桃園の誓い」、絶世の美女が自らを犠牲にして呂布と董卓をたぶらかして争うように仕向ける「連環の計」、劉備が孔明を懸命に口説く「三顧の礼」、曹操が火計で大敗する「赤壁の戦い」、孔明と仲達が激突する「五丈原の戦い」などがあります。名場面も挙げていくとキリがありません。
さらに架空の「三国志演義」と、史実である歴史書「三国志」を比較し、違いを見つける楽しみもあります。中には中国語の原文を読むファンもいますし、三国志の舞台を訪れる“聖地巡礼”もあります。ネットの意見交換も盛んですから終わりがありません。なぜ、多くの人が意見をいったり、調べ物をするまでになるかといえば、話が面白いところに加えて、物語がハッピーエンドではないからでしょう。読む人の思い入れが強くなり、その思いが増幅される……という側面があるのは確かです。
◇ゲームとの相性抜群
三国志には、小説やマンガ、アニメ、映画など、多くの表現手法(メディア)が存在しますが、相性が抜群なのはゲームでしょう。ゲーム以外のコンテンツは、一つのストーリーしかありませんが、ゲームはプレーヤー次第で無数のストーリーがあるからですね。例えば曹操は、関羽を部下にすることを強く望みながら、果たせませんでした。しかしゲームで曹操をプレーし、関羽を配下に置けば歴史を変えたことになり、プレーヤーの興奮度は最高潮に達するわけですね。ゲームはもともと、果たせなかったことを“実現”するところに面白さがありますが、歴史系ゲームではその長所がストレートに出ます。
また「三國志」シリーズは、1985年に発売された第1弾から数年に一度のペースで発売され続けています。別の視点で見ると、三国志というコンテンツが数年に一度リフレッシュされ、そのたびに三国志の物語が語られる効果は大きいでしょう。
しかし、不思議なこともあります。いくらゲームのシステムを変更しているとはいえ、数年に一度の短いペースで、同じ物語のゲームを発売しても、売れることです。他の歴史ゲームが人気シリーズになっているかといえば、そうでもなく「信長の野望」シリーズぐらいでしょうか。そこで以前、多くの歴史ゲームを手掛けるシブサワ・コウさんに「なぜ他の歴史ゲームを出してシリーズ化しないのですか?」と(図々しく)質問したことがあります。その答えは「売れないから」という明快な回答でした。売れるからシリーズ化され、シリーズ化されるから何度も語られるわけです。そして三国志が、繰り返しに耐えられるだけの深みのあるコンテンツという証なのでしょう。
ただ、その三国志にも弱点はあります。物語が長いため初心者の敷居がそれなりに高いことです。現在は手軽に楽しめるエンタメコンテンツが山ほどあります。三国志の小説はビジュアルに弱さがあり、読書好きでないと理解するのも大変でしょう。横山光輝のマンガは比較的敷居が低いと思われますが60冊もあります(『ワンピース』ほどではありませんが)。人形劇もかなりのボリュームで全部見るのに時間がかかります。ゲームも、ゲーム自体に不慣れな人はルールを理解するのに苦労するでしょう。
それでも、メディアが多いのは強みでしょう。三国志に少しでも興味を持つのであれば、自分に合うメディアを選び、重い扉を開けばびっくりする世界が広がっているかもしれません。一人でもそういう人が新たに増えれば、「三国志」好きとしてはとてもうれしく思うのです。
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