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韓国ツアー選手が全英女子オープンに出場したら10試合出場停止!?なぜ国内からの参加が“ゼロ”なのか?

金明昱スポーツライター
韓国で人気のパク・ヒョンギョンも全英出場資格はあるが辞退(写真・KLPGA)

 今週開催の米女子ツアーのメジャー「AIG女子オープン(全英女子)」(8月22~25日)。日本勢は渋野日向子、畑岡奈紗、古江彩佳、笹生優花、西村優菜、西郷真央の米ツアーを主戦場とする選手だけでなく、日本ツアーからも山下美夢有、岩井明愛と千怜姉妹、竹田麗央や小祝さくらなどが出場する。大会史上最多の19人が参戦予定という。

 世界ランキングの高い順に出場権が降りてきたことで、急きょ出場を決めた選手が増えたこともそうだが、米ツアーで戦いたい日本選手の意欲の高さがうかがえる。会場も“聖地”と言われるセントアンドリュース・オールドコースというのも挑戦意欲を掻き立てる理由の一つだろう。

 日本勢の数は、米国の22人に次いで2番目の多さ。ちなみに“ゴルフ強国”と言われる韓国勢は14人だ。これにはやはり“少ない”と言わざるを得ない。というのも日本ツアー選手の申ジエを除く、「13人」すべてが米ツアーを主戦場とする選手だからだ。

 つまり、韓国ツアーからは1人も全英女子オープンに出場しない。日本からの参戦がこれだけ多いのにもかかわらず、韓国ツアーからは誰一人として出場しない。なぜこんなことが起きているのか。

 結論から言えば、同週に韓国ツアーのメジャー「ハンファクラシック」が開催されるからで、欠場すれば“罰”が与えられるからだ。それも想像以上のペナルティのようだ。

出場権が繰り下がっても誰も出場しない“異常さ”

 韓国女子プロゴルフツアー(KLPGAツアー)の賞罰分科委員会の「第3条 第15条 第3項(出場停止)」の海外出場に関する規定がある。そこには「KLPGAのレギュラーツアー選手は、KLPGAメジャー大会が海外ツアーと同一期間に開催される場合、KLPGAメジャー大会に義務的に参加しなければならない」と明記されている。

 つまり、海外メジャーの出場資格を満たしていても、国内メジャーを優先しなければならないという事情がある。一般紙「中央日報」が韓国ツアー関係者に話を聞いたところによると「もし、この大会(ハンファクラシック)に出場しなければ、10試合出場停止と罰金を支払う必要があると聞いている」という。

「国内ツアー10試合の出場停止」とは衝撃の処分内容だが、確かにこれでは全英女子オープンに出たくても、セントアンドリュースでプレーしたいと心の中で思っていても、「全英に出場する」とは口が裂けても言えないだろう。

 今季、韓国ツアー3勝でポイントと賞金ランキング1位のパク・ヒョンギョンや今季日本ツアーの「ワールドレディスチャンピオンシップサロンパスカップ」で3位のイ・イェウォンなど、全英女子オープンの出場資格を満たしている選手は複数いるが辞退している。そうなると出場権が繰り下がるのだが、誰一人、手を挙げる者がいなかった。

日本ツアーと比較しても韓国ツアーは“後退”している?

 「中央日報」は韓国ツアーのこうした“鎖国”的な政策に対し、日本ツアーと比較してこう伝えている。

「KLPGAツアーとは反対に日本女子プロゴルフ協会(JLPGA)は、選手たちの海外進出を奨励している。JLPGA所属の選手が、米ツアーメジャー大会に出場すれば、日本の国内大会(3日間競技)の4倍のポイントが与えられる。日本女子ツアーの積極的な支援のおかげで、米ツアーメジャー大会で日本の選手が活躍している。今季のエビアン選手権では古江彩佳、全米女子オープンでは笹生優花が優勝した。海外ツアーの交流が増え、JLPGAツアー自体の競争力も強化された」

 昨年10月、韓国で開催されている米ツアー「BMWレディスチャンピオンシップ」をKLPGAは非公認試合と決め、同日程で韓国ツアーの開催を敢行した。そのため国内選手たちは、自分の国で開催される米ツアーに一人も出ることができなかった。

 毎年、世界で戦えるトップレベルのゴルファーを輩出している韓国ツアー。人気と実力を備えたスター選手の流出を防ぎたい気持ちも分かるが、せっかくの海外メジャー挑戦のチャンスを“あえて”与えないのは、もったいない気がしてならない。

スポーツライター

1977年7月27日生。大阪府出身の在日コリアン3世。朝鮮新報記者時代に社会、スポーツ、平壌での取材など幅広い分野で執筆。その後、編プロなどを経てフリーに。サッカー北朝鮮代表が2010年南アフリカW杯出場を決めたあと、代表チームと関係者を日本のメディアとして初めて平壌で取材することに成功し『Number』に寄稿。11年からは女子プロゴルフトーナメントの取材も開始し、日韓の女子プロと親交を深める。現在はJリーグ、ACL、代表戦と女子ゴルフを中心に週刊誌、専門誌、スポーツ専門サイトなど多媒体に執筆中。

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