Yahoo!ニュース

ハリー王子:「アメリカに来たのは苦しみのサイクルを断ち切るため」

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

 妻メーガン妃とともにアメリカに引っ越したのは、代々続く苦しみのサイクルを断ち切りたかったから。西海岸時間13日にリリースされた「Armchair Expert」の新しいエピソードで、ハリー王子が大きな決断をした背景を明かした。

 このポッドキャストは、俳優ダックス・シェパードが、女優モニカ・パッドマンと一緒に2018年にスタートしたポッドキャスト。3歳の時に両親が離婚、その後3度も再婚した母に育てられたシェパードは、トラウマに悩まされたり、依存症を克服してきたりした経験をもつ。妻は「アナと雪の女王」のアナの声も務める女優のクリステン・ベルで、ハリー王子とメーガン妃ほどではないにしろ、パパラッチに追いかけられてもきた。そんな共通点も手伝ってか、ハリー王子は、シェパードとパッドマンを相手に、90分弱にわたってざっくばらんに心の健康やメディアについて語っている。

「僕は何年にもわたって世界のいろいろな場所に行き、人々が苦しむ様子を自分の目で見てきた。そうやって、それらの人たちに思いやりをもてるようになったんだ。僕は非常に恵まれた立場に生まれたが、そのおかげでそういった機会を得られ、自分を教育することができたんだよ。どこへ行っても僕は人々に質問をし、答をもらった。だからこそ、今、自分自身の葛藤を隠さずに話せるのだと思う。自分の問題を語るのは、愚痴をいうことと同じではない。自分の辛い体験をシェアすることで、誰かを元気付けてあげ、ポジティブな影響を与えることができるのだと僕は思っている」と、ハリー王子。内面で苦しんでいても、外に向けていつも微笑んでいないといけない王子という立場にいることで、より辛い思いをしたのではと聞かれると、「それが仕事だからね。笑って、耐えること。20代前半の頃の僕は、『こんな仕事はやりたくない。ここにいたくない。ママに何が起こったかを見てよ。同じことが自分にも起こるとわかっていて、妻をもち、家族を築くことなんてできない』と思っていた」と打ち明けた。

メーガン妃は彼の内面の怒りを見抜いていた

 そんな彼の心を解放してくれたのは、心理カウンセリングだ。カウンセリングを勧めてくれたのは、当時はまだ恋人だったメーガン妃だったという。「彼女は僕が傷ついていることを見抜いていた。自分でコントロールできないことのために、僕の中で怒りが募っていることが、彼女には見て取れたんだよ」というハリー王子は、メーガン妃に出会う前は絶望を感じていたとも述べる。「大きな絶望を感じたことは、主に3度ある。1度目は、子供の頃、母と車に乗っていて、パパラッチに追いかけられた時。2度目はアフガニスタンでアパッチヘリコプターに乗っていた時。3度目は妻と一緒になってからだ」と、メーガン妃と結婚して幸せになっても、彼女が王室に入って受けた扱いのせいで新たな苦しみを得たことを示唆した。

 とは言え、メーガン妃も、英国王室に入るのがどんなことかわかっていたのではというのは、よく指摘されることだ。ここでもそれを聞かれると、ハリー王子は「もちろん、彼女は(王室に入ることで)公の人物、セレブリティになることはわかっていた。でも、プライベートライフもあると思っていたんだよ。なのに、外に出れば追いかけられ、中にいてもソーシャルメディアのせいで逃げられなかったんだ。それはすごくアンフェア。自分を自分で守れない立場にいるなら、とくにそうだ」と、愛する妻を弁護した。さらに「イギリスのメディアのひどさはイギリス人以外にはわからないだろう」とも付け加えている。

 夫妻が今、L.A.から車で2時間ほどの距離にある海辺の街サンタバーバラに住むようになったのも、「イギリスのメディアのおかげ」だそうだ。あまりにひどくなりすぎて、逆に割り切れ、大きな決断ができたというのである。「奴らに対し、もうお前たちのことなんか怖くないぞと思えるところまできたんだ。その意味では彼らに感謝しないとね」と、ハリー王子。だが、もっと大きな理由は、息子や、まもなく生まれてくる娘のために、王室に続く苦しみのサイクルから抜け出すことだった。メーガン妃と一緒に受けたオプラ・ウィンフリーとのテレビインタビューでも、ハリー王子は、父や兄のことを「囚われの身になっている」と語っていた。

「人生で大事なのは、サイクルを断ち切ること。僕は、苦しみのサイクルをわが子に引き継がせたくなかった。以前の僕は(自分もそのサイクルにいることを)知らなかったが、わかってからは、『どうやってこれを変えればいいのか?』と考えてきた。それでアメリカに来たのさ。そんなことは人生の計画にはなかったよ。でも、家族ファースト、心の健康ファーストの結果、そうなった」と、ハリー王子。彼はまた、「人生はローラーコースター。悪いことが起こったら、そこから何かを学ぶべき。次に同じようなことが起きた時、対処できるようにね」ともいう。

 ハリー王子によると、プリンセスの座を捨てたメーガン妃は「プリンセスよりも素敵な人生を自分で作り上げることができるのよ」と、よく言っているとのこと。彼らがサンタバーバラで達成しようとしているのは、まさにそれなのだ。外からどう言われようとも、このふたりは、ひたすら耳をふさぎ、ローラーコースターの高いところを楽しもうとしているのである。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

猿渡由紀の最近の記事