先端企業は「データ」時代を先取り
IBMが先日、気象予測データの配信サービスを始めたというニュースの裏側にあるIBMの戦略は単に気象予報会社になるということではない。さらに、気象予測サービスをAI(人工知能)コンピューティング「ワトソン」が気象データを分析するデータを販売する、ということだけにとどまらない。気象データは、農業や漁業だけではなく、人間の購買活動、企業活動、経済活動にも実は大きな影響を及ぼす。
折しも今年に入り、インテルのブライアン・クルザニッチCEOが「インテルはデータカンパニーになる」と述べ、2014年にIBMのジニー・ロメッティCEOは「データは21世紀の新たな天然資源である」と言い(図1)、共にデータにフォーカスするビジネス企業へと脱皮することを宣言している。
図1 IBMのジニー・ロメッティCEOのメッセージ
IBMが確度の高い気象データの販売という事実と、データは新たな天然資源と述べた事実、データ解析に欠かせないAIワトソンを活用するという事実、さらにIoTビジネスでの解析から気象データという要素が企業の生産性や売り上げに大きな影響を及ぼしているという事実、これらの事実から見えてくるものは何か。
データを情報に変えると価値を生む
IoTシステムで最も重要なことは、ビッグアナログデータを情報に変えること、である。センサからのデータを単に寄せ集めるだけでは何も見えてこない。センサデータをセンサフュージョン(センサハブ)を通して、収集し、さらに解析することで初めて見えてくることがある。この「気づき」が生産性を上げたり売り上げを上げたりするソリューションとなる。振動や回転の動き、圧力、磁気などのセンサからの情報に加え、その時の温度や湿度などのデータも含めた総合的なデータ解析によって、顧客に有効なソリューションを見つけられるようになる。気象データもその一翼を担うことが多いのである。
気象予測は、雨具製造や販売は言うまでもなく、ビールやアイスクリームの売り上げにも直結する。野球やサッカーなどのスポーツイベント、デパートやショッピングモールの売り上げなどにも影響を及ぼす。近年の豪雨や大きな台風なども経済活動全体に響く。土砂崩れや河川の崩壊、津波などの災害は建築産業にとっても大きく影響する。IBMは昨年、気象予報を提供する会社TWC(The Weather Company)を買収し、気象情報を提供しているが、TWCのマーク・グルダースリーブ氏によると、エルニーニョはタイのGDPに4半期当たり2%の影響を与え、自動車事故の23%が天候によって発生し、電力網の障害の78%が天候に関連しているという。
気象予測には、地図上で地域ごとにメッシュを作り各点ごとの気象データをスーパーコンピュータで集め、何時間後の温度や湿度、気圧などのデータ変化を計算する。メッシュ点の数が多ければ多いほど正確な情報が得られる。IBMはスーパーコンピュータ「ブルージーン」を持っている。気象予報には各メッシュ点の空間情報と、予測するための時間情報が必要で、時間微分の偏微分方程式をスパコンで解いて予報を得る。
このほど気象データを提供するのは、そのデータをワトソンで解析してデータを情報に変換するというサービスも提供できる可能性があるからだ。IBMはそのデータをワトソンで解析するだけでなく、顧客の持つセンサデータもワトソンで解析することで、顧客の売り上げ向上につながる情報を提供できる。全てのデータを解析するツールがワトソンである。だからこそ、IBMはデータを最重要視する企業へと歩みを強めている。
「週刊エコノミスト」に近いうちに、インテル社の戦略をレポートする予定だが、インテル社もIBM同様、「データ」を最重要課題とする企業を指向する。今後の大きなメガトレンドである、AI、クラウド、IoT、5Gを自社のビジネスにどう取り込むかが企業の成長を左右する。IBMもインテルもその答えを出した。ハードウエアとソフトウエアを武器にサービスを提供するIBM、やはりソフトウエアを埋め込んでハードウエア(CPU)をサービスと共に提供する半導体メーカーのインテル。共にハードとソフトをフル活用してサービスを提供する企業である。
日本の企業はどうか。また時々口を挟んできたか霞が関は半導体産業にはダンマリ作戦進行中だ。半導体企業からのAIチップや5Gチップなどが聞こえてこない。ぜひ、奮起していただきたい。
(2017/03/30)