イスラエル・パレスチナ情勢 これまでの動きをわかりやすく解説
イスラム組織ハマスのイスラエルへの攻撃。いまだに戦闘は続いており、まだ争いは長期化しそうだ。
今回の紛争では、まずハマスがイスラエル国内で大規模なテロ攻撃を実施し、それに報復するためにイスラエル国防軍(IDF)がガザに空爆などを行っている。
筆者はここまで日本政府やイスラエル政府の関係者などに取材をしてきたが、10月7日早朝に始まった今回のテロ事件について、取材や報道などから得られた現時点までの情報をまとめてみたい。
■ 何が起きたのか
イスラエル祝祭日であった10月7日(土)の6時30分、パレスチナ武装勢力(ハマスと、過激派武装組織イスラム聖戦)が、ガザ地区からイスラエルに数千発のロケット弾を発射した。さらに1500人の戦闘員がイスラエル側の検問などを破って、対応に当たったイスラエル軍(IDF)兵士や、外国人を含む市民を殺害した。さらに数百人が誘拐され、ガザで拘束されている。テルアビブでもロケット弾により建物が損傷するケースも出ている。
これまでイスラエル側で1400人ほどの死亡者が確認されており、そのうち、外国人は235名死亡で、74人が行方不明になっている。国籍は41カ国に広がっている。
ハマスは今回の攻撃を、イスラエルがエルサレム旧市街内のユダヤ教とイスラム教の聖地であるアルアクサ・モスクを冒涜したことに対する報復であると表明している。またイスラエルへ攻撃をするよう、レバノンやイラク、シリア、イエメンのイスラム武装勢力に呼びかけている。10月8日以降、レバノンのシーア派組織ヒズボラが、イスラエルとの国境付近にあるイスラエル軍の拠点を砲撃している。10月10日と14日にはシリアからイスラエルに砲撃があり、22日にはイスラエル軍がダマスカスに2回、アレッポへ3回、ミサイル攻撃した。
イスラエル領内で攻撃を実行したのは、ハマスの軍事部門「カッサム旅団」。カッサム旅団は、1カ所に長く滞在しないことから「ゲスト」とも呼ばれるムハンマド・デイフ司令官が率いている。デイフは過去に何度も暗殺を逃れているが、片目がないとの噂もある。またガザ地区の指導者とされるヤヒヤ・シンワルも首謀者の一人だと見られている。
そしてカッサム旅団の中で、実際に今回の銃撃テロを行ったのは特殊部隊である「ヌフバ」だ。ヌフバは、ハマス指導部から選ばれた精鋭たちで、一般のガザ住民の5倍近い給料を受け取っており、かなり訓練されている。
イスラエルで殺害されたヌフバの戦闘員らの持ち物には、ハマスからの指示が書かれたメモも発見されている。イスラエル人に対する殺害や誘拐についての指示が細かく書かれていた。
イスラエルの国内情報機関であるシンベトは、ヌフバを壊滅させるべく、戦闘員らの殺害を狙っている。そのために、イスラエル国防軍は、ヌフバ戦闘員らを狙うための「Nili(ニリ)」という特別チームを創設。ニリの作戦にはイスラエルの諜報機関であるモサドも関わるという。
■ 背景
長年衝突を繰り返してきたイスラエルとパレスチナ。パレスチナ解放機構(PLO)はパレスチナ人を代表する政治組織で、最大勢力であるファタハを含むパレスチナ諸派で構成されている。
もともとファタハを中心としてパレスチナ自治政府(PA)が発足したのが1995年のこと。ハマスは、ファタハと長く対立の関係にあり、2007年6月に武力でガザ地区を掌握し、以降はガザを事実上統治。それ以降、ヨルダン川西岸をPAが、ガザ地区をハマスが統治する状況が継続している。
今回のテロ攻撃は、1973年10月6日に勃発したユダヤ暦で神聖な日「ヨム・キプール」(贖罪の日)から50周年に当たるタイミングだった。
さらにイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ政権が、「史上最も右翼」と言われる連立政権で警戒されていた。連立政党の「宗教シオニズム」のベツァレル・スモトリッチ党首が財務相と、西岸地区の入植政策を担当する大臣にも就任した。ヨルダン川西岸地域では入植活動を活発化させ、西岸地区で武装勢力と衝突が起きるなど緊張が高まっていた。
またイスラエル政府は、イスラム教スンニ派の雄と呼ばれるサウジアラビアとの国交正常化に向けた話し合いを続けている最中だった。その交渉を、テロを起こすことでハマス側が頓挫させたかったとも指摘されている。
■ 日本の反応
日本政府は、ハマスなどのパレスチナ武装勢力によるテロ攻撃を断固として非難している。その上で、以下の3点が重要であるとのメッセージを発信している。
「人質となっている人々の即時解放および一般市民の安全が確保されること」
「すべての当事者が国際法に従って行動すること」
「事態が早期に沈静化すること」
岸田文雄首相は、ハマスの大規模攻撃以降、EU、エジプト、サウジアラビア、ヨルダン、カタール、UAEの首脳らと電話会談を行っている。さらにデンマークの首脳と会談し、ガザ地区の人道状況改善や事態の沈静化に向けて共に取り組むことを確認した。また、エジプトとヨルダンには邦人退避の際の協力を確認している。
10月24日には、UNRWA(国連パレスチナ難民救済事業機関)やICRC(赤十字国際委員会)を通じて、日本としてガザ地区に対する1000万ドルの緊急人道支援を発表した。
上川陽子外相も、10月12日にイスラエルのエリ・コーヘン外相と、エジプトのサーメハ・シュクリ外相と電話会談を実施して、事態の早期沈静化を期待する旨を伝えている。また邦人の安全確保にも協力要請した。さらに時系列順に、ヨルダンやUAE、カタール、パレスチナ、韓国、サウジアラビア、イラン、フランス、イギリス、オーストラリアと電話会談し、さらにG7の外相電話会合も行った。パレスチナとは、人道的な対処について議論している。
上川外相は、10月21日にエジプトのカイロで開催されたカイロ平和サミットに出席。エジプトやパレスチナ、イギリス、フランス、ノルウェー、ブラジルの首脳と意見交換している。
これらに加えて、岡野正敬外務事務次官がイスラエルのギラッド・コーヘン駐日大使と会談し、イスラエル国民との連帯と、今回のテロ攻撃に対する断固たる非難を表明して、イスラエルが国際法に従って自国や自国民を守る権利を有することは当然であると伝えている。
■ 各国のガザに対する人道支援
アメリカは、水や食料、医療などの分野でガザ地区に1億ドルを拠出すると発表。EU(欧州連合)は、ガザ地区に7500 万ユーロの人道援助を発表。湾岸協力理事会(GCC)も、1億ドルを拠出する。
そのほかでは、イギリスは3000万ポンドの援助、ドイツは5000万ユーロ、フランスは1000万ユーロの拠出を発表した。
中国の王毅外相は10月23日、コーヘン・イスラエル外相と電話会談し、すべての国家に自衛権があると語った。だがガザの市民に対する被害について非難し、国際法違反には断固として反対すると発言した。また同日、パレスチナのリヤード・マリキ外相と電話会談を行い、 二国家解決を支持する中国の立場を確認した 。
ロシアは、外務次官が中国の中東問題特使と会談。中国と一緒に、パレスチナ問題について、早期に正しい軌道に戻すために動きたいと述べている。ロシアも二国家解決なしには地域は安定しないと主張している。