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大相撲九州場所あす開催 元関脇・琴勇輝の荒磯親方が自身の「相撲の原点」である福岡思い出の店を語る

飯塚さきスポーツライター/相撲ライター
大好きなステーキを前にご満悦の元関脇・琴勇輝の荒磯親方(写真:すべて筆者撮影)

大相撲九州場所が、12日から始まる。新鮮な魚介にもつ鍋、水炊き、ラーメンなど、名物であふれる福岡の地に訪れることを、多くの力士が毎年楽しみにしていることは言うまでもない。外出制限のあったコロナ禍が明け、今年ようやく九州場所の醍醐味が戻ってきたといえるだろう。

場所の開催を前に、「自分の相撲の原点である店にぜひ来てほしい」と、元関脇・琴勇輝の荒磯親方に声をかけていただいた。そこは、もつ鍋屋でもラーメン屋でもなく、なんとステーキレストラン。なぜ、ここが親方の原点なのか。店の扉を開いて親方の軌跡を追った。

荒磯親方が師匠と「面談」した思い出の店

訪れたのは、福岡市中央区六本松に位置する「炭火焼レストラン牛王」。ステーキやハンバーグが自慢のレストランだ。親方は、入門前の高校1年生の11月に、この店で佐渡ヶ嶽親方と「面談」を果たした。「こんなにおいしいものを食べさせてもらえるなら入門して頑張ろうと、もう帰りの新幹線の中では決めていましたね」と話す。

炭火焼レストラン牛王の外観。通りに面する赤い看板がわかりやすい
炭火焼レストラン牛王の外観。通りに面する赤い看板がわかりやすい

店を切り盛りするのは、オーナーシェフの川上勝さん。もともとは大至さんのファンで、店の化粧まわしまで贈ったことがあるのだそう。

「今場所の中日(11月19日)で、この店は37年になります。いまの琴ノ若関の誕生日と同じなんですよ。26日は先代(元横綱・琴櫻)のお誕生日ですが、うちの次男と同じです。不思議なご縁を感じますね」

そんな川上さんの作る料理は角界でも評判を呼び、佐渡ヶ嶽部屋の力士たちをはじめ、現在の武蔵川親方、二子山親方らも熱心に足を運んでいるという。

食べ応え抜群の肉料理が評判を呼ぶ

2007年の11月に同店で師匠と面談後、翌2008年3月場所で初土俵を踏んだ荒磯親方。以来、九州場所になるとこの店を訪れ、自身への発奮材料にしていたという。

「若い衆の頃は親方に連れてきてもらっていましたが、やっぱり関取に上がって自分のお金でここに来たいと思って頑張れましたね。上がってからは、自分だけではなく、付け人たちも連れてきて食べさせました。信じられない量食っていましたよ(笑)。いまでもこうして、自分の家族や気の置けない仲間たちと一緒に来ています」

荒磯親方の力士としての原点であり、現役時代のパワーの源でもあった同店の料理。実際に味わってみて、そのおいしさに驚愕した。

ソフトサラミやミートローフの前菜から始まり、箸でホロホロと肉が崩れるテールスープ。さらに香草バターが載ったハンバーグはジューシーで食べ応え抜群!

同店自慢のハンバーグ。筆者の分(写真右)は150g、親方は倍の300g
同店自慢のハンバーグ。筆者の分(写真右)は150g、親方は倍の300g

そしていよいよメインのヒレステーキ。かなりレアな断面ながら、あっという間にナイフが皿に到達してしまう柔らかさだ。ひと口嚙んだ瞬間、いままで味わったことのない食感と肉の甘みに驚嘆し、思わず天高く両拳を突き上げてしまった(親方大笑い)。

ヒレステーキ300g(親方の分)。少なくとも筆者の人生史上ではおそらく最もおいしかった
ヒレステーキ300g(親方の分)。少なくとも筆者の人生史上ではおそらく最もおいしかった

ほかにも、ジューシーな肉にさっぱりと合わせる「梅肉ライス」や、奄美大島産のプラムを使ったシャーベット、自家製のティラミスなど、最後まで味覚が踊り喜ぶ夕食に大満足。多くの角界関係者が足繫く通うのも無理はないと思わされた。

胃袋も心もつかまれ いざ本場所へ

絶品料理を振る舞う川上さんのことを、荒磯親方は「自分にとっては九州のお父さんのよう」と言って慕う。

「現役の頃から、何かといったら電話をくれて、いつも気にかけてくださっていました。そのたびに近況報告をしたり、時には愚痴を聞いてもらったり。自分にとっては、ただのおいしいごはん屋さんじゃなくて、九州のお父さんみたいな感じ。こうしていつまでも足を運んで顔を見せることが、少しでも恩返しになればいいなと思っています」

力士の体を作る食事。単に体の栄養になるだけでなく、人と人の心をつなぎ、力士の精神すらをも支える食事が、ここに存在していた。現役力士たちもきっと、心身を満たす福岡グルメを存分に味わい、出陣の準備は万全であろう。九州場所は明日、いよいよ初日を迎える。

食事の後、親方の「九州のお父さん」こと店主の川上さん(写真右)と。ごちそうさまでした
食事の後、親方の「九州のお父さん」こと店主の川上さん(写真右)と。ごちそうさまでした

取材協力

炭火焼レストラン牛王

〒810-0044 福岡市中央区六本松3丁目16-28

092-731-3802

スポーツライター/相撲ライター

1989(平成元)年生まれ、さいたま市出身。早稲田大学国際教養学部卒業。ベースボール・マガジン社に勤務後、2018年に独立。フリーのスポーツライター・相撲ライターとして『相撲』(同社)、『Number Web』(文藝春秋)などで執筆中。2019年ラグビーワールドカップでは、アメリカ代表チーム通訳として1カ月間帯同した。著書に『日本で力士になるということ 外国出身力士の魂』、構成・インタビューを担当した横綱・照ノ富士の著書『奈落の底から見上げた明日』。

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