北朝鮮テロ支援国家再指定を中国はどう受け止めているか?
中国特使の帰国と同時に、トランプ大統領は北朝鮮をテロ支援国家に再指定。また単独追加制裁の企業の中に中国企業がある。北朝鮮との交渉が芳しくなかった中国への援護射撃と圧力強化という二つの側面から考察する。
◆テロ支援国家再指定に関する中国の反応
習近平総書記の特使として17日から20日まで北朝鮮を訪問していた中共対外聯絡部の宋濤部長が、どうやら金正恩委員長との会談ができぬまま帰国した可能性が高い。少なくとも会談したという情報は流れていない。
本来ならアジア歴訪後に北朝鮮をテロ支援国家に再指定するはずだったトランプ大統領は、宋濤部長が帰国するのを待って北朝鮮をテロ支援国家に再指定することを閣議決定した。それは本当にギリギリまで待ったという感じで、20日から21日にかけた真夜中に、ワシントンにいる中国人の民主活動家から再指定に関するメッセージが届いた。
中国政府の通信社である新華社の電子版「新華網」ワシントン支局は、21日10:14更新版で、「アメリカが北朝鮮をテロ支援国家リストに再指定」という記事を掲載。ティラーソン国務長官が記者会見で「北朝鮮をテロ支援国家に再指定したことは大きな象徴的意味合いはあっても、実際上の影響には限りがある」と言ったと報道している。
日本の報道では「中国への圧力強化か」というニュアンスの報道が多いが、新華網の場合は「切り取り方」が異なる。新華網ではさらに、さまざまな大学の有識者の声を拾って、主として「北朝鮮を刺激するだけで、米朝間の緊張が高まるのではないか」といった類の解説も緩やかに展開している。
中国の外交部報道官は、「朝鮮半島は目下、非常に複雑でデリケートな状況にある。関係各方面は、情勢の緩和に利するよう、そして関係者が対話の席に戻り対話と協議を通して朝鮮半島問題を解決すべく行動すべきだ」と回答している。
テロ支援国家指定は、中国が北朝鮮と交渉する際の北に対する圧力の一つとなり得て、ある意味、トランプ大統領の習近平国家主席に対する援護射撃とも位置付けることができる。
◆アメリカの独自追加制裁、「中国企業も対象」に関して
アメリカの財務省は21日、北朝鮮への独自追加制裁として、北朝鮮の海運会社と船舶20隻のほか、北朝鮮と取引のある中国の貿易会社3社と個人一人を新たに制裁対象とした。
中国の企業名は「丹東科華経貿有限公司、丹東祥和商貿有限公司、丹東市鴻達貿易有限公司」で、個人名は孫嗣東。孫嗣東は丹東東源実業有限公司の経営者である。そのため「4社」という数え方もできるので、報道によっては「中国企業3社」というのもあれば、「中国企業4社」というのも見られる。孫嗣東はFBIが早くから追跡していた。また丹東の関係企業に関しては、中国自身もアメリカの協力を得ながら追跡してきた過去がある。
しかし中国外交部は記者会見で「これに関しては予断を許さない。詳細な事情を掌握した上で改めて述べたい」と回答し、意思表示を避けた。
中国共産党が管轄する中央テレビ局CCTVも、「アメリカが北朝鮮をテロ支援国家と再指定し、新たな独自の追加制裁も発表した」とのみ言っただけで、それ以外に関しては一切、触れていない。
中国共産党系列の「青年報」は、「中国は国連安保理で決議された制裁に関しては完全に履行するが、それ以外の独自制裁に関しては問題の解決につながらないと考えている」という、中国のいつもの見解を報じている。アメリカに関しては、アメリカ国内法である「ロング・アーム管轄権(アメリカのある州の非居住者が、その州と最小限度の接触を有すれば、そのような非居住者に対して、その州の裁判所の司法管轄権が及ぶとする州法)」を国際社会に持ち出すべきではなく、これは米中関係に不利となると釘を刺している。
「余計なお世話だ」という意味だ。
特に、8月に日本が独自に追加制裁を課すとして中国企業名を挙げたことに関しては、中国外交部は「他国から指図される覚えはない」として強烈な不満を表明したことがある。したがって、アメリカの決定に対して、日本が「そうだ、そうだ、その通りだ!」と称賛(追随?)すると、中国は激しい嫌悪感を覚えるであろうことは明らかだ。
◆中米関係は損なわれていない
このように微妙ながらも、今のところ中米関係は損なわれていないと見ていい。
アメリカ国務省のナウアート(Heather Nauert)報道官も、今般のトランプ政権の決定に関して以下のように述べている。
――新たな制裁は平壌をさらに孤立させるための行動の一つであって、この制裁の中に中国企業が入っていたからと言って、北京が北朝鮮問題を解決する意欲を下げるとは思わない。われわれ(アメリカ)と中国の関係は非常に良好で、この関係が変わることはない。
つまり、トランプ政権の一連の動きは、中国から見ても「北朝鮮問題解決のための中国の秘策」を今後も遂行するに当たっての範囲内と見ていいだろう。すなわち、ギリギリではあるものの、中国への援護射撃となっていると、中国は受け取っているとみなしていいということだ。今後、中国外交部からの新たな反応があるかもしれないが、そこに激しい不満が含まれているとすれば、それは日本がトランプ政権の動きを、まるで日本の功績であるかのごときニュアンスで自慢した場合への不満と考えることができよう。
p.s. なお、このコラムを書いた後に中国外交部報道官は追加制裁に関して「一方的な措置には反対する」と表明したが、それほど激しいものではなかった。