ホロコースト時代にユダヤ人を救出し映画「シンドラーのリスト」のモデルになったシンドラー生誕115年
映画「シンドラーのリスト」上映から30年
1993年に公開されたスティーブン・スピルバーグ監督の映画「シンドラーのリスト」が今年で上映30年を迎える。「シンドラーのリスト」はナチスドイツがユダヤ人を迫害していた第2次大戦時に、ユダヤ人を工場労働者として雇用することによって、ユダヤ人を救ったドイツ人実業家の実話を元にしたホロコースト映画の代表的な作品。アカデミー最優秀作品賞・監督賞を受賞するなどスピルバーグ監督の代表作でもある。
スピルバーグ監督はユダヤ人だが、戦後のアメリカに生まれたため、彼自身はホロコーストを経験していないが、南カリフォルニア大学にショア財団研究所を設立するために、多額の寄付を行っている。1994年に設立された南カリフォルニア大学ショア財団研究所は、20年以上にわたって、ホロコーストに関するあらゆるデータや生存者の証言を集めてデジタル化して保存したり、録画した証言をYouTubeで全世界に配信したりしている。またホロコーストだけでなく、アルメニア、ルワンダやグアテマラの大虐殺など55,000以上の証言を集めている。またデジタル化された映像をホロコーストの教育に活用されている。
▼「シンドラーのリスト」25周年オフィシャル・トレイラー
▼「シンドラーのリスト」(1993年)トレーラー
シンドラーに救出されたユダヤ人の証言やシンドラー自身についても進む「記憶のデジタル化」
1908年4月28日がオスカー・シンドラーの誕生日だった。生きていれば今年2023年で115歳である。イスラエルにはホロコースト犠牲者を追悼したヤド・バシェムという博物館がある。ヤド・バシェムには約480万人のホロコースト犠牲者のデータベースがあり、それらは世界中からネット経由で閲覧することもできる。約600万人のユダヤ人が殺害されたが、データベースに登録されていない残りの120万人は名前が判明していない。第2次世界大戦が終結して約80年が経過し、ホロコースト生存者の高齢化が進んできた。生存者が心身ともに健康なうちにホロコースト時代の経験や記憶を証言として動画で録画してネットで世界中から視聴してもらう「記憶のデジタル化」が進められている。
現在、ヤド・ヴァシェムだけでなく世界中の多くのホロコースト博物館、大学、ユダヤ機関がホロコースト生存者らの証言をデジタル化して後世に伝えようとしている。ホロコーストの当時の記憶と経験を自ら証言できる生存者らがいなくなると、「ホロコーストはなかった」という"ホロコースト否定論"が世界中に蔓延することによって「ホロコーストはなかった」という虚構がいつの間にか事実になってしまいかねない。いわゆる歴史修正主義だ。
ヤド・バシェムではホロコーストの犠牲者や生存者の情報や経験、遺品のデジタル化だけでなく、ホロコースト時代にユダヤ人を救出した人らの情報もデジタル化して発信している。シンドラーの情報や写真、救出されたユダヤ人による証言などもデジタル化されて発信している。シンドラーは、1962年に「諸国民の中の正義の人」として認定されヤド・バシェムに植樹もしていた。
ホロコースト犠牲者の身元確認とデータベース構築も進められているが、ナチスドイツによって完全に消失したユダヤ人集落などもあり、全ての犠牲者の名前や写真を収集してデータベースに格納することは難航している。ヤド・ヴァシェムにある480万人のデータベースのうち、写真もありパーソナルヒストリーもある犠牲者は少ない。
シンドラーは30年前に映画化されてから世界的にも有名人になったので、ホロコーストの犠牲になったユダヤ人よりも情報は多く、世界中の人から閲覧されている。現在でもシンドラーに救われたユダヤ人の子孫(「シンドラーのユダヤ人」)は全世界で8500人以上いる。ヤド・バシェムではシンドラーに救出されたユダヤ人の証言もデジタル化して世界に配信している。
▼シンドラーに救出されたユダヤ人の証言動画
▼シンドラー生誕115年をアピールするヤド・バシェムのSNS