かまいたちの傑作漫才「『となりのトトロ』を観たことがない人」は山内以外に存在するのか?
中川家が優勝を飾った第1回大会からちょうど20年となる『M-1グランプリ』(ABCテレビ)。「優勝をすれば一夜で運命が変わる」と言われ、これまで16組のチャンピオンを輩出。また、頂点には届かずとも爪痕を残したコンビはその後の仕事が激増するなど、多くの芸人たちが『M-1』をきっかけにブレークした。
視聴者としても過去16回、思い出のコンビや印象に残っているネタがたくさんある。笑い飯の「奈良県立歴史博物館」や「鳥人」、フットボールアワーの「SMタクシー」、ブラックマヨネーズの「ボウリング」、チュートリアルの「バーベキュー」、南海キャンディーズの「歌のお姉さん」、和牛の「旅館の仲居さん」、ミルクボーイの「コーンフレーク」など、挙げだしたらきりがない。
劇場などで何度も披露されているお馴染みのネタであっても、『M-1』の独特の緊張感と熱狂に後押しされ、爆発的な笑いを巻き起こすこともある。
かまいたち・山内の自慢「『トトロ』を観たことがない」
筆者的に近年で大笑いしたのが、かまいたちが2019年大会の最終決戦で披露した「トトロを観ていない自慢」だ。このネタは、濱家が「何か自慢はあるか?」と問いかけ、山内は「映画『となりのトトロ』を1回も観たことがない」と得意げに答えるもの。
濱家から「そんなことは何の自慢にもならない」と一蹴されるが、山内は「みんな1回は『となりのトトロ』を観たことがあるけど、俺は観ていない。レンタルもしたことがない。何回も繰り返された再放送の網も全部くぐりぬけてきた」と熱弁。さらに濱家に「自慢というのは手品とかのことを言う」と諭されると、「手品が上手い人はほかにもいる。その点『トトロ』は、1度観たらどうにもならない」と未鑑賞には戻れないことを強調する。
ちなみに『となりのトトロ』とは、巨匠・宮崎駿監督が手がけたアニメ映画。田舎へ引っ越してきた少女たちが、不思議な生きもの・トトロと交流するファンタジーだ。1988年の劇場公開時、『火垂るの墓』と同時上映されて興行収入11億7千万円を記録。山内が話すようにこれまで何度もテレビ放送されたことから、幅広い世代が同作を鑑賞している。
そんな国民的なアニメ作品とあって、山内は未鑑賞である自分はオンリーワンの存在だと胸を張る(『M-1』のときは、「『トトロ』を観たことがない人はいますか?」と観客に挙手を求めて数名の手が挙がった。もしここで手が挙がらなかった場合はオチが変わっていたという)。
2020年8月14日更新のYouTubeチャンネル『かまいたちチャンネル』のなかでも濱家から鑑賞をすすめられるが、山内は頑なに拒否。『トトロ』についての知識は主人公の少女のひとり・メイの名前くらいで、人気キャラクター・まっくろくろすけに関しては「聞いたことがある」という程度だ。
「『トトロ』を観たことがない人」を取材してみた
それにしても、山内のように「『トトロ』を観たことがない人」は実際にどれくらいいるのだろうか。
気になった筆者は、大阪の専門学校で映像制作を学んでいる約20名の学生を調査。たしかにみんな「『トトロ』を観たことがある」と回答した。しかし、たったひとり「観たことがない」という映画監督志望の20代女性を見つけ出した。
「なぜ観ていないのか」と尋ねると、該当学生は「うちの親が、宮崎駿監督の映画が苦手なんです。その影響で『トトロ』を観ていません」と答えた。
かまいたちのネタのことは知っているそうで、学生は「もしも自分があの場にいれば、『観ていません』と手を挙げていたかもしれない」と笑う。ちなみに、山内同様「メイちゃんは知っている」とのことだった。
ほかにも「『魔女の宅急便』(1989年)、『崖の上のポニョ』(2008年)も観たことがありません。可愛らしいキャラクターが出てくる作品には、どうしても興味が持てないんです」という。一方で、「『もののけ姫』(1997年)と『千と千尋の神隠し』(2001年)はテレビ放映で鑑賞したことがあります。どちらもすごくおもしろかった」と2作品については絶賛。
「今後『トトロ』を鑑賞する予定はあるか」と聞くと、「山内さんと同じく、わざわざレンタルをしてまで観ようとは思いません。もし配信されたとしても鑑賞するつもりはありません。『トトロ』を観た上で苦手だと言っている親の影響もありますが、それよりも自分が好みとしている世界観に合わない気がして」と、山内とは正反対に自慢する様子もなく淡々と語ってくれた。
山内は、2021年4月13日オンエア『これ余談なんですけど』(テレビ朝日系)のなかで、息子が『トトロ』にハマっていながら、自身はその時点でも観ていないことを明かしている。だが、家族につられて「遂に」という展開もあるのではないか。これからも彼の『トトロ』情報を注意深く見守っていきたい。