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書店が消えてゆく現実を何とかしようと、この秋「BOOK MEETS NEXT 2023」の取り組み

篠田博之月刊『創』編集長
9月13日の会見(筆者撮影)

 ここに掲げた写真は2023年9月13日に行われた「BOOK MEETS NEXT 2023」についての記者会見だ。中央は近藤敏貴・出版文化産業振興財団理事長、右が松木修一・同財団専務理事、左が大垣書店の大垣守弘会長だ。

 全国各地で街の書店が次々と姿を消している。書店自体は存続していても店舗を構えずにいわゆる学校関係への外商だけにするといったケースもある。昔は駅を降りると必ず本屋さんがあり、待ち合わせ場所でもあり文化の拠点でもあった。今も同じ地区に何軒も書店があるところはあるが、東京でも駅の近くに1軒も書店がないという地区も目に付くようになった。

 書店店頭にたくさん並べられた雑誌や書籍を眺めるだけでも楽しかったし、新たな本との出会いもあった。そういう機会がどんどん奪われ、目に見える形で書店がなくなっていくのを心配する声は大きく広がりつつある。

 何とかならないものかと多くの取り組みがなされ始めているが、2022年から始められたのが「BOOK MEETS NEXT」だ。10月27日の「読書週間」を皮切りに11月1日「本の日」も含めて読書推進月間を設け、様々なイベントなどを展開しているのだが、今年はそれを大規模な取り組みにしようという計画が進められている。

その運動の要となっているのが一般財団法人 出版文化産業振興財団(JPIC)だが、9月13日の会見に先立って、松木修一専務理事兼事務局長に秋以降の取り組みについて話を聞いているので、そのインタビューをここに公開しよう。

 JPICは1991年3月に設立した団体で、理事長は近藤敏貴・日本出版取次協会会長・トーハン社長。副理事長には、出版取次協会副会長や日本書籍出版協会理事長、日本雑誌協会理事長、日本書店商業組合連合会会長など業界団体の代表が名を連ねる役員構成となっている。

今年2年目は大きな取り組みに

――JPICが推進している「BOOK MEETS NEXT」は今年2年目だと思いますが、主にどういう取り組みを進めているのかお話いただけますか。

松木 多くの皆さんに本屋さんに足を運んでいただこうという取り組みは、既に様々な形でなされていますが、それぞれ別々にやられていたので、それをできるだけまとめよう、あるいはまとめるだけでなく、新たな取り組みもやりましょうということで、昨年から「BOOK MEETS NEXT」を始めました。

 この1年間の取り組みのおかげで、業界の中では、秋は「BOOK MEETS NEXT」で一丸となってやろうという理解が進んだと思いますけれど、一般の方々はまだ「なに? それ」という感じだと思います。そこで今年のテーマは一般の方々、特にあまり書店さんに足を運ばれないような方々に対してアピールをする、本屋さんに来てもらうということに注力しようと考えています。

 例えば東京都書店商業組合の「木曜日は本曜日」という画期的な取り組みは、東京都の支援もあって、素晴らしいコンテンツが作成され、その動画を何万人も見ておられる状況ですが、今年は「BOOK MEETS NEXT」の中でも動画を作って発信しようと計画しています。著名人や影響力のある方々に出ていただいてYoutube等で配信して「本屋さんに行こう」と声をかけるという取り組みですね。東京都書店商業組合さんの「木曜日は本曜日」も継続されますので、協力し合いながら進めていければと思っています。

 昨年もアンバサダーという形で作家の今村翔吾さんや元野球監督の栗山英樹さんに入っていただいて、JPICはこんな団体でこんな構成ですとアピールしました。オープニングイベントは新宿紀伊国屋さんのホールでやり、その後、全国の約2000軒の書店で3500の企画を展開していただきました。本屋さんに行くと面白いことをやってるよ、というのを、店頭で展開していただき、ホームページに、どの書店で何をやっているのかお知らせしました。

 とにかく目的は本屋さんに行ってもらうことです。デジタルキャンペーンをやって、何回か本屋さんに行くと抽選に当たりますよ、みたいなこともさせていただきました。

京都ブックサミットや店頭での取り組みも

松木 今年は10月17日に東京でオープニングイベントを行いますが、そのほかにも大きなイベントを考えています。例えば。文化庁が京都に移りましたので、京都ブックサミットと銘打って、京都で2日間、本の今と未来について考え議論しようと計画しています。事前に京都に伺い京都府知事・京都市長にもお会いして協力を要請しています。ただのお祭りじゃなくて、将来に向けてみんなで話し合って、「書店はワクワクするところ」と発信をしたいということですね。

 それから11月1~2日に、浅草でTOKYO RIGHTS MEETING(東京版権説明会)というのを、海外から多くの出版社やエージェントをお呼びして開催します。日本のコンテンツを買ってもらおうということで、既に60社以上日本の出版社が出展をする予定になっています。

 11月7日にはBOOK EXPOという、日本の出版社がブースを出して、大阪周辺の書店さんに対して商談をするという企画があり、200社以上が大阪に集まる予定です。その方々を翌日京都にお呼びして、前述した京都ブックサミットを盛り上げて頂きたいと考えています。また東京版権説明会と同じような関西版権説明会も検討中です。

 11月23日までの「BOOK MEETS NEXT 2023」期間中には、全国の書店さんで様々な取り組みを行います。映画化の連動企画があったり、スタンプラリーをしたり、オリジナルのブックカバーをそれに合わせて作ったり、作家のサイン会をやったり、今までにないような様々な企画を店頭でやって、全国的に盛り上げていこうという取り組みです。

 映画は「BOOK MEETS NEXT 2023」で制作するわけでなく、ある大手の出版社さんが協力されてちょうどこのタイミングで、図書館とか本を題材にしたアニメーションがロードショー公開されますので、それに連動させて取り組みを行います。映画ですから大きな宣伝にもなりますし、特別な拡材のようなものも作っていこうということになっています。

 「BOOK MEETS NEXT 2023」については、テレビや新聞や多くのマスコミに取材していただいて、本屋が面白いことやってるよというのを発信していただかないと一般の方に知っていただけないので、そのためには映画化ですとかYoutubeとか、SNSも使って、いろいろな発信を行おうと、今年はそれを目指してやっています。

 書店店頭の取り組みについても、全取次が横断型で全書店様に対して、かなり大規模に呼びかけていく予定です。

議員連盟の動き、政府の骨太方針での言及

――書店の活性化というのは日本の文化を守ることでもあるとして、書店業界はいろいろなロビー活動も行ってきたわけですが、この1年間、自民党議員による「街の本屋さんを元気にして、日本の文化を守る議員連盟」(通称・書店議連)の動きが目立ちます。2017年に発足した当初は40名ほどだったのが今や154名と、自民党の議連として最大規模になっています。この議連との交渉の窓口もJPICが担っているそうですが、この1年間の経緯を教えていただけますか。

松木 以前は「全国の書店経営者を支える議員連盟」という名称でした。書店の経営者を支える議連は6年ほど前からあったのですね。一部の書店有志の方々が、知り合いの自民党議員に、いま書店がこんなに大変な状況なんだとお伝えして、ロビー活動をしてきたわけです。コロナ禍で一時、活動はあまりできなかったようですが、書店がどんどんなくなっていくという状況の中で、昨年からまた活発に活動をしています。

 全国市町村のうち「書店ゼロ」の自治体が26・2%に達したというJPIC調査のデータも昨年の議連総会で報告させていただきました。新聞・テレビで報じられて話題になりました。

 その自民党の議連の働きかけで政府の骨太方針(経済財政運営と改革の基本方針2023)に出版支援の文言が盛り込まれたりしています。

 ちなみに今年、閣議決定されて、国としての出された骨太方針の中で、例えば「中堅・中小企業の活力向上」という項に「切れ目のない継続的な中小企業等の業界再構築」という文言があって、そこに「出版業及び書籍・雑誌小売業などの産業構造も支援」という注釈がつけられました。また「文化芸術・スポーツの振興」という項では「書籍を含む文字・活字文化、文化観光による新たな価値創造」という表現が出てきます。

 これまではあまり出版とか書籍・雑誌小売業といった表現は出てこなかったんですけれど、今年はそういう表現が入りました。これは政府の大方針で、じゃあ具体的にどうしてくれるんでしょうかという話はこれからです。骨太方針に入ったから自動的に予算が付くわけではないので、今後、具体的に施策だとか政策だとかが動き出すたびに何をするかというのが、これからの課題だと思います。

 議員連盟は5月に「第一次提言」というのを発表しました。「不公正な競争環境等の是正」は公正取引委員会に、「書店と図書館の連携促進」については文科省に、「新たな価値創造への事業展開を支援」については経産省、財務省に、「文化向上・文化保護、読書活動推進、地方創生、DX化、観光振興等の観点からの支援」は文科省・文化庁、内閣府、総務省、観光庁にというふうに取り組むことを課題として掲げています。我々民間が言うよりも。関係省庁からすると議員が働きかけた方がインパクトが大きいわけですね。それぞれの省庁で取り組みが始められている施策もあります。

図書館界とも新たな協力体制の構築

――出版界と図書館は、いわゆる複本問題(図書館がベストセラーなどを何冊も抱えて貸し出しを行うことに出版社や著者から反発が起きていた)などで対立する局面もあったのですが、さすがにこれだけ書店が無くなる深刻な危機が進行するなかで協力を深めようという動きになっているようですね。

松木 書店も著者も厳しい状況が進む中で、文科省が間に入り、JPICが業界の窓口となって、有識者を集めて、もう一回ちゃんと話し合おうという場を作ろうとしてます。お互いがもう一度現状を認識し合いながら、何ができるのか話し合おうという準備が進んでいます。

 以前から貸与権とか複本をめぐって双方が言い合ってきたんですけれど、ちゃんと話しあって、複本がやめられないならこういうことはできないのかとか、こういうことをやるから作家さんも協力してくれとか、街の書店を守るためにどうするのかなど、話し合って共同の声明的なものを出せればと思っています。

 20年以上もかかっているいろいろな問題が一気に解決するわけではないかもしれませんが、継続的な出版活動や著者の仕事ができなければ図書館だって本は入ってきませんし、このままいくと書店だけじゃなくて図書館にも影響が出ますということで、一回ちゃんと話しましょうということです。図書館関係者、出版社、著者の代表が、それぞれの課題を理解しあってそこから始めようということですね。

書店ゼロの市町村の増加、一方で独立系書店の動きも

――先ほど書店がない自治体が26・2%というお話がありましたが、あれはJPICが調査をしているのですか。

松木 日本出版インフラセンター(JPO)がいま一番、書店さんを把握されていると思います。昔はトーハンさんや日販さん調べとか、出版科学研究所さん調べとかあったんですが、いまはJPOさんのデータが一番多い。そのデータの中から我々が調べました。

 実は書店さんの定義がなかなか難しくて、古本屋さんもそうだし、カフェを併設しているとか、外商だけというのも書店は書店なのです。ただ我々が考えているのは、街で子どもたちやお年寄りがふらっと入って本に出会える場所。ウェブ書店でなくお店のある書店ですね。我々はJPOさんのデータから、坪数がまず登録されていること、外商じゃなくお店があるということ、新刊の取り扱い口座があるという、それをベースに出させていただいてます。

――出版社と直取引の独立系書店は入ってないということですか。

松木 独立系でも取次の口座を持ってらっしゃるところはあるんですね。完全に古書しかやっていないところは入ってないですね。セレクトショップ的なところも把握した上でやらなくちゃいけない。そのあたり、もう少し進化させたいとは思っています。

――書店ゼロの自治体が何%という時は基本は県単位なのですか。

松木 県単位ですね。どの県は書店が何軒あって何%というのは新聞などにデータを提供しています。

――例えば東京都のようなところは、もっと細かい地域の調査もしてるんですか。

松木 しています。ただ細かいところまでは公表していません。書店ゼロと発表したら古書店からうちは入っていないのかといった声があがることも考えられますので。データ公表は昨年の9月に初めてやったんですが、今年もやろうと思っています。

 商店ゼロが26・2%と公表しましたが、実はあと1軒しかないというところを入れると45・4%。残された1軒がなくなるとそれらの自治体はゼロ軒になりますから、たぶんこのまま行けば5年のうちに日本の半分の自治体から本屋がなくなるという事態が訪れるのです。

 ネットで注文できるからいいのではと言う人もいますが、やっぱり新たに本と出会うという体験はリアル書店ならではです。たまたま本屋に行ったら面白い本に出会ったという世界がなくなるのは、大きなマイナスではないかと思います。韓国などではもっと本屋を守ろうとしているし、出版が国際競争力を高める土台だという考え方です。日本はなかなかそこまでは行ってないですね。

 若い人に影響力のあるアーティストとか、インフルエンサーで本が好きだという人に発信してもらって、あの人も本が好きなのか、じゃあオレも本屋に行ってみようかなというふうにしなきゃいけないと思っています。「BOOK MEETS MEXT」の取り組みもその一環ですが。

――昔から自治体や学校などと協力して読書推進運動を行っていますが、これもJPICの大きな取り組みですね。

松木 もともと読書推進運動などがJPICのメインの活動です。読書アドバイザー養成とか読み聞かせサポーター講習会など様々な取り組みを行っています。子どもたちが本と出会う機会をもっと作っていかないといけないと思います。

月刊『創』編集長

月刊『創』編集長・篠田博之1951年茨城県生まれ。一橋大卒。1981年より月刊『創』(つくる)編集長。82年に創出版を設立、現在、代表も兼務。東京新聞にコラム「週刊誌を読む」を十数年にわたり連載。北海道新聞、中国新聞などにも転載されている。日本ペンクラブ言論表現委員会副委員長。東京経済大学大学院講師。著書は『増補版 ドキュメント死刑囚』(ちくま新書)、『生涯編集者』(創出版)他共著多数。専門はメディア批評だが、宮崎勤死刑囚(既に執行)と12年間関わり、和歌山カレー事件の林眞須美死刑囚とも10年以上にわたり接触。その他、元オウム麻原教祖の三女など、多くの事件当事者の手記を『創』に掲載してきた。

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