【ライヴ・レポート】アイアン・メイデン/2024年9月26日(木)東京ガーデンシアター
2024年9月下旬、日本列島はアイアン・メイデンの襲撃下にある。
“THE FUTURE PAST WORLD TOUR 2024”の一環として実現したジャパン・ツアー。サムライ化したマスコット・キャラクターのエディが日本刀を掲げるジャケットの『戦術』(2021)と新宿歌舞伎町ばりのサイバーSFのイディオムを取り入れた『サムホエア・イン・タイム』(1986)という2枚のアルバムを軸に組まれたセット・リストが話題を呼んでいるが、どちらも日本をモチーフのひとつとした作品だ。2020年5月に予定されていた来日公演がコロナ禍で中止になったことで、8年ぶりに実現したツアーは、バンドにとっても日本のファンにとっても特別な想いのあるものだろう。ジャパン・ツアー中盤の2024年9月26日、東京ガーデンシアター公演には、そんな想いが生み出すエネルギーが開演前から充満していた。
バンドと共に人生を過ごしてきた年季の入ったベテランから十代とおぼしき若いファン、日本のみならず世界各国から集まってきたファンまで、メイデンの音楽は世代も人種も超えて世界をひとつにする。イントロで流れる映画『ブレードランナー』テーマ曲に「1987年の日本武道館初進出のときと同じだ...」と涙出来るのはオールド・ファンの特権だが、「サムホエア・イン・タイム」からショーが始まると、会場はひとつの意思で突き進む運動体となっていく。
両アルバムからのナンバーを主とした前半、とにかくメンバー6人いずれも絶好調だ。ブルース・ディッキンソンは伸びやかでパワフルなヴォーカルでバンド全体を引っ張っていくし、スティーヴ・ハリスのベースは重低音でバリバリと空間を引き裂く。ニコ・マクブレインは疾走ナンバーからタメを効かせたビートまで、メイデンの楽曲が必要とするあらゆるリズムを叩き出し、デイヴ・マーレイ、エイドリアン・スミス、ヤニック・ガースのトリプル・リード・ギターもお互いをプッシュしあい、高めあう。さすがに往年のように全力疾走とまでは行かないものの、全員がステージ狭しと動きまくり(もしニコがドラム・キットを前にしていなかったら、彼も走り回っていただろう)新旧のナンバーにさらなるスリルをもたらしていた。
「ストレンジャー・イン・ア・ストレンジ・ランド」「ヘヴン・キャン・ウェイト」や「ザ・ライティング・オン・ザ・ウォール」「ザ・デス・オブ・ザ・ケルツ」などピックアップ2作からの気合いが入りまくった演奏に加えて、今回のツアーでは“非”定番のレア・クラシックスも披露される。『魔力の刻印 The Number Of The Beast』(1982)からの「ザ・プリズナー」では“元ネタ”であるTVシリーズ『プリズナーNo.6』の映像を映しだし、『第七の予言 Seventh Son Of A Seventh Son』(1988)の「キャン・アイ・プレイ・ウィズ・マッドネス」では同曲のミュージック・ビデオをバックに流すなど、映像スクリーンをフルに生かしたヴィジュアル面の趣向もあった。
(後者のビデオにはモンティ・パイソンのグレアム・チャップマンが出演していることから、ブルースはTVシリーズ『空飛ぶモンティ・パイソン』の名セリフにちなんで「And now for something completely different」と紹介していた)
そして今回のツアーで“裏”ハイライトといえるのが「アレキサンダー・ザ・グレート」だ。『サムホエア・イン・タイム』のラストを飾る大曲だが、同作に伴うツアーでも演奏されなかったため、今回のショーならではの嬉しいプレゼントとなった。
「魔力の刻印 The Number Of The Beast」「誇り高き戦い Run To The Hills」「審判の日 Hallowed Be Thy Name」など、普通のバンドだったらプレイしなかったら暴動が起きるレベルの代表曲がセット・リストから落ちていたが、8千人収容といわれる会場に集まった観衆にまったく不満を抱かせず、完膚無きまでにねじ伏せてしまうメイデンの音楽力に圧倒される2時間だった。
もちろん彼らのライヴに来たらぜひ聴きたい「フィア・オブ・ザ・ダーク」「鋼鉄の処女 Iron Maiden」「明日なき戦い The Trooper」は終盤、観衆にトドメを刺さんとばかりにプレイ。ラスト「ウェイステッド・イヤーズ」で会場を制圧して、ステージを後にした。
音楽だけで誰をも牛耳る力を持ちながら、それだけでは済まそうとしないのがメイデンのメイデンたる由縁だ。スクリーンにはさまざまな映像が映されるが、よく見ると小ネタが幾つも仕込まれている。日本語で記された“待合室・天国”と風俗店めいたネオン看板があって、しばらく考えて「ヘヴン・キャン・ウェイト」か!...と気付くなど、油断がならない。これからライヴに向かう方は、バンドのライヴ・パフォーマンスに加えて、ステージ上で起こっていることすべてに注意していただきたい。
メイデンのライヴではおなじみ約3メートルの大型エディも登場する。しかも今回は3人という大盤振る舞いだ。早くも2曲目「ストレンジャー・イン・ア・ストレンジ・ランド」で姿を現す西部劇エディはあまり目立った動きは見せないものの、「ヘヴン・キャン・ウェイト」のサイバー・エディはブルースと火花を散らす銃撃戦を繰り広げる。「鋼鉄の処女」にはヨロイ姿の戦術エディが登場するが、片足立ちをしたり刀を振り回し、合掌してみせるなど、細かい動きもこなす。バンドと共に、エディも進化していくのだ。
2024年9月22日(日)、愛知・スカイホール豊田からスタートした“THE FUTURE PAST WORLD TOUR 2024”ジャパン・ツアーも大阪、東京公演を経ていよいよ終盤戦。9月28日(土)・29日(日)の神奈川・ぴあアリーナMM公演を残すのみだ(両日とも当日券を販売予定 ※28日は若干枚数のみ販売)。アイアン・メイデン×日本の激突は、あらゆる“戦術”が繰り広げられる空前のライヴだ。
【THE FUTURE PAST WORLD TOUR 2024】
9月22日(日) 愛知・スカイホール豊田
9月24日(火) 大阪・大阪城ホール
9月26日(木) 東京・東京ガーデンシアター
9月28日(土) 神奈川・ぴあアリーナMM
9月29日(日) 神奈川・ぴあアリーナMM【追加公演】
【ツアー公式サイト】