Yahoo!ニュース

大谷獲得の積極路線エンジェルス、イチローを見送った解体モードのマーリンズ、転換期の両軍それぞれの戦略

豊浦彰太郎Baseball Writer
エンジェルスには大谷獲得により数年後をターゲットにとする再建に向かう手もあった(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

エンジェルスとマーリンズ、この両球団はともに世代交代・再建への曲がり角にあった。しかし、このオフ前者は大谷翔平を射止めるなど勝負モードを緩めず、イチローを引き止めなかった後者は徹底的な解体に着手した。果たして真の勝利者はどちらだろう。

日本のMLBファンが2018年もっとも注目する球団の一つがエンジェルスだろう。言うまでもない。大谷翔平が加わったからだ。2月中旬のキャンプインからメディアが殺到し、彼の一挙手一投足が報じられるはずだ。

エンジェルスの鼻息は荒い。このオフは、まずシーズン中にタイガースから獲得しオプトアウト(契約期間内の破棄)の権利を有するジャスティン・アップトン(2球団計で35本塁打&109打点)を5年1億6000万ドルで引き留めた。大谷獲得後も、過去30本塁打&30盗塁を記録したこともあるベテラン二塁手イアン・キンズラーをタイガースから若手マイナーリーガーとの交換で獲得した。

一方、このオフ現地ではマーリンズのファイヤセールぶりが話題になっている。2017年の二冠王(59本塁打&132打点)でMVPのジャンカルロ・スタントンをヤンキースに放出したことや、イチローとの再契約を見送ったことは日本でも良く知られているが、その前に首位打者1度、盗塁王2度のディー・ゴードンをマリナーズにトレードしている。また、他にも若い主力選手たちの放出の噂で持ちきりだ。

この2チームは全く両極端の動きを見せており、ストーブリーグの勝ち組と負け組かのようなコントラストだ。しかし、実は本来の状況は似通っていた。レギュラークラスの戦力はソコソコで、もうひと踏ん張りの補強を行えば十分ポストシーズン進出の可能性もある(実際、2017年のエンジェルスは2年連続負け越しも、終盤まで辛うじて可能性を残していた)。しかし、一方では両球団とも超高額年俸選手を抱え、それが中長期のチーム編成上の障害となっていた。また、マイナー組織の有望株枯渇化が深刻で、全球団中最低レベルと評されるほどだったのだ。

それぞれ状況を少々突っ込んで紹介しよう。エンジェルスのマイク・トラウトは間違いなく球界最高のプレーヤーで、2017年の年俸は1925万ドルとそのパフォーマンスからするとむしろ割安だったが、2018年には3325万ドルへ跳ね上がり、そのまま2020年まで契約が続く。

抜群の強肩を利したアクロバティックな守備で知られる遊撃手のアンデルトン・シモンズも17年の年俸は800万ドルでしかないが、それが18年1100万ドル、19年1300万ドルとなり、契約最終年の2020年には1500万ドルとなる。

この2人はまだ良い。年俸に見合う働きを見せているし、契約最終年でも30歳前後と衰えが懸念される年齢ではないからだ。問題はアルバート・プーホルスだ。かつては史上最高の打者とも評されたが、37歳だった2017年はパワーはまだそれなりも出塁率の低下や守備や走塁での貢献がほぼ皆無だったことで、WAR(メジャー最低水準の選手を起用した場合に比較して、どれだけ勝利数の増加または減少に影響を与えたかを示すセイバー指標)はメジャー最低の-2.0を記録してしまった。そんな彼にエンジェルスは今季2700万ドルを払い、19年は2800万ドル、20年2900万ドル、41歳で迎える21年には3000万ドルを費やさねばならない。これは、完全に不良債権と呼んで良い。エンジェルスとしては、プーホルスを引き取ってくれるなら交換相手はなしで、なおかつその年俸のそれなりの部分を負担しても良いと考えているはずだ。2020年の年俸はこの3人分だけで7725万ドルとなる。これは低予算球団のチーム総額に匹敵する水準だ。これでは継続的に優勝争いをできる戦力を備えるのは難しい。

一方、マーリンズはどうだったか。スタントンとは2014年オフに13年総額3億2500万ドルという桁違いの長期高額契約を結んでいた。しかも、その年俸は契約期間内でボトムヘビーに設定されており、17年には1450万ドルだったが18年は一挙に2500万ドルとなり、その後もじわじわ上昇が続く(最終2年は若干下がるが)。2027年までの契約残総額は約3億ドルだ。その彼をなんとかヤンキースに送り込むトレードを成立させたが、マーリンズは場合によっては年俸の一部を今後も負担せねばならず(オプトアウトの権利が設定されている2020年オフにスタントンがそれを行使せず残留した場合、マーリンズは3000万ドルをヤンキースに支払う)、かつヤンキースからの交換相手は超トップクラスの有望株と言えるほどではなかった。まだ27歳の二冠王&MVP放出の見返りとしては正直言って大したことはない。これも、全てスタントンの高年俸(トレード拒否権)のせいだ。スタントンのトレードは、年俸負担から解き放たれることに意味があるのであって、将来を嘱望される若手をがっちり獲得するためのものではなかったのだ。だからこそ、スタントン放出だけでは足りず、JT・リアルミュートやマーセル・オズーナらまだ年俸も安くFAまでの年数も残っている(言い換えれば、今後数年安く使える)若きスターまで放出の噂が絶えないのだ。

エンジェルスやマーリンズには大別すると2つの選択肢があった。1つには、戦力的には持ち腐れとも取れるスーパースター(エンジェルスにとってのトラウト、マーリンズにとってのスタントン)を放出し彼らへの超高額年俸支払いの負担から解放されることにより、中長期的な編成上の自由度を確保するとともに、将来を担う若手有望株を手に入れ、マイナー組織をテコ入れすることだ。

もうひとつは、現有勢力にさらに補強を加えこの先1〜2年に勝負を賭けるというものだ。この場合、再建という大きな課題は先送りするということを意味する。

そして、エンジェルスとマーリンズ、それぞれが採った戦略はすでに述べた通りだ。同じ状況にありながら、一方は補強にもう一方は解体に向かったのだ。

現地メディアの評価は、概してエンジェルスの方がマーリンズより良好だ。しかし、ぼくの意見は反対だ。エンジェルスが獲得した大谷はまだ若く年俸もタダ同然?でかつ今後6年間も拘束できる。したがって、「大谷を獲得したから今勝負に出る」ではなく、トラウトを放出しトップクラスの有望な若手を複数獲得して、3〜4年後を目標に彼らを育成しながら全体の戦力を整備する方が得策だと思う。エンジェルスは格好のチャンスを見送ってしまっているように思えてならない。

マーリンズは、決して間違った動きをしているとは言えないと思う。同球団は過去にも何度かファイヤセールを敢行し、地元ファンを大いに失望させて来た歴史がある。その分このオフから支配権を得たデレク・ジーターを含む新オーナーグループへの期待は大きいものがあっただけに、顰蹙を買っているようだ。しかし、これはジーターらは信念を持って進むべき道を邁進していると言えなくもない。

2018年にどちらが結果を出すか、また今後数年のスパンで評価した場合、どちらが真の「勝ち組」か。しっかりと見守って行きたい。

Baseball Writer

福岡県出身で、少年時代は太平洋クラブ~クラウンライターのファン。1971年のオリオールズ来日以来のMLBマニアで、本業の合間を縫って北米48球場を訪れた。北京、台北、台中、シドニーでもメジャーを観戦。近年は渡米時に球場跡地や野球博物館巡りにも精を出す。『SLUGGER』『J SPORTS』『まぐまぐ』のポータルサイト『mine』でも執筆中で、03-08年はスカパー!で、16年からはDAZNでMLB中継の解説を担当。著書に『ビジネスマンの視点で見たMLBとNPB』(彩流社)

豊浦彰太郎の最近の記事