Yahoo!ニュース

【箱根駅伝2区候補たち・順大編】三浦の3年連続も有力だが、10マイルで学生新の浅井が急浮上

寺田辰朗陸上競技ライター
前回の箱根駅伝7区を走る浅井皓貴(当時順大2年)(写真:アフロ)

 箱根駅伝前回5位の順大が12月13日、さくらキャンパスで箱根駅伝に向けての共同記者会見を行った。主将で3000m障害世界陸上6位入賞の三浦龍司(4年)は「全日本(大学駅伝)の後に設定した5位に到達したい。個人的には最後なので自分が納得できる走りを」と抱負を話した。

 5000m高校記録保持者、新人の吉岡大翔(1年)への注目度も高い。「駅伝に対して自分の希望区間を持たないことにしている」が、序盤の1区や3区への出場が予想されている。

 順大の注目点は誰がエース区間の2区を走るのか。三浦が3年連続で出場する可能性が高いと思われていたが、甲佐10マイル(約16km)ロードで学生最高をマークした浅井皓貴(3年)の可能性も出てきた。

浅井の今季成長の理由は?

 浅井は12月3日の甲佐10マイルで、46分05秒の日本人学生最高タイムで優勝した。国際の部に出場したケニア人選手には先着されたが、全日本実業団ハーフマラソン優勝経験のある古賀淳紫(安川電機)らに競り勝った。

 会見でも浅井自身が2区出場の意欲を示した。

「(甲佐10マイルは)箱根の往路を想定して、前半から積極的に走りました。その走りをやることができて、良い感覚をつかむことができたと思います。箱根駅伝に向けて今年は大きなケガをすることなく、練習が順調に積めています。その部分で自信を付けることができました。(希望区間は?)2区をイメージしてやっています」

 前回の箱根は7区区間3位。今季の出雲全日本大学選抜駅伝は3区区間6位、全日本大学駅伝は最長区間の8区で区間6位。駅伝で区間賞争いまで、できた選手ではなかった。

 だが伏線はあった。5月の関東インカレ1部10000mでは4位(日本人3位)に入賞。そのとき出した28分30秒11は、三浦を2秒上回る現チームの最高タイムである。

12月13日に順大さくらキャンパスで行われた会見時の浅井<筆者撮影>
12月13日に順大さくらキャンパスで行われた会見時の浅井<筆者撮影>

 今シーズンの成長の理由を、浅井自身は次のように分析している。

「ケガをしないことを一番に考えてやってきました。以前は痛みや違和感があっても我慢してやることが多かったのですが、この1年は監督やコーチにすぐに相談して話し合いながら練習しています。ケガをしたときは左右のバランスが悪かったり、色々問題がありました。それを1つ1つ改善しようと、補強や動きづくりもプラスして行って、弱点やケガにつながる走り方の改善をするようにしました」

 故障減少が躍進の大きな理由だが、クロスカントリーや動きづくりを重視する順大の伝統も、浅井の成長には大きく関係していた。

塩尻先輩の記録更新が自信に

 浅井は雑誌のアンケートに、得意区間として「7区」と答えている。甲佐10マイルを走る以前に答えたものだが、7区はどちらかというと下りが多い。それに対して2区は、14kmからのなだらかな権太坂、最後3kmの急勾配の戸塚の坂と、上りが多い。

 上りを攻略する自信がついたのだろう。

「全日本大学駅伝8区(区間6位)で上りを経験しています。苦手意識は持たなかったので……まあ、上りがあっても走れるんじゃないか、という自信はついてきています」

 浅井の答えの「……」の部分に相当の間があった。あとで長門俊介監督やスタッフに確認すると、緊張する性格だからだという。

 しかしもう1つ、理由が推測できるという。10マイルの学生最高記録を持っていたのが、尊敬する先輩の塩尻和也(富士通)だったからだ。12月10日の日本選手権10000mで、27分09秒80の日本新で優勝した選手である。その塩尻が持っていた記録を破ったことで、2区の上りに対する自信もついた。それを説明するかどうかを迷った可能性がある、と。

「塩尻が別格だったことは、今の学生選手たちも知っています」と長門監督。

「後に日本記録を出す選手の学生記録を抜いたことで、(上り、下りにかかわらず)自信がついた。希望区間が2区だと会見で話したのは、こちらの指示ではなく、浅井本人の判断です。覚悟の表れだったと思います」(長門監督)

 2区を走るとしたら、どのくらいの記録を考えているのか。「タイムは…」と答え始めた浅井に、また間が生じた。

「67分台前半では行きたいと思っています。タイムよりも順位が重要で、前の集団にいることや、少しでも良い順位で次の区間につなげるように、ということを意識しています」

 タイムのことを質問されたが、順位の方を重視することを話そうとして間ができたのだろう。だが塩尻の1時間06分45秒の順大記録(19年。当時区間日本人最高記録)のことを考えて躊躇った可能性も、ゼロではない気がする。

 塩尻も控えめな話し方をしていた点は同じ。スタート地点に立つと性格が変わる、という点も順大関係者の間では共通認識だ。

陸上競技ライター

陸上競技専門のフリーライター。陸上競技マガジン編集部に12年4カ月勤務後に独立。専門誌出身の特徴を生かし、陸上競技の“深い”情報を紹介することをライフワークとする。一見、数字の羅列に見えるデータから、その中に潜む人間ドラマを見つけだすことが多い。地道な資料整理など、泥臭い仕事が自身のバックボーンだと言う。座右の銘は「この一球は絶対無二の一球なり」。同じ取材機会は二度とない、と自身を戒めるが、ユーモアを忘れないことが取材の集中力につながるとも考えている。

寺田辰朗の最近の記事