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SPYAIR バンド最大の危機を乗り越え、劇場版『ハイキュー!!』主題歌がヒット。その復活までの軌跡

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
写真提供/ソニー・ミュージックレーベルズ

『ハイキュー!!』の影響もあり、日本男子バレーボールチームが世界中から熱い視線を集める。SPYAIRが歌う『劇場版ハイキュー!! ゴミ捨て場の決戦』の主題歌「オレンジ」も世界中から熱い支持を得る

先日終了したパリオリンピックで、日本の男子バレーボールチームの試合では会場に駆け付けた日本人と共に、海外ファンが大きな声援を送っていた。オリンピックに先立って行われた「バレーボールネーションズリーグ2024」では、リオデジャネイロ(ブラジル)、福岡、そしてフィリピンで試合を行なったが、各地で大きな注目を集め、特にフィリピンラウンドでは地元ファンの熱狂ぶりが話題になった。日本対アメリカ戦の会場には1万2千人以上の観客が集まり、まるでアイドルのライヴのような盛り上がりでSNS上でも「日本の男子バレーをみると、リアルハイキュー!!すぎて胸熱になる!」等の熱い書き込みが飛び交った。マンガ『ハイキュー!!』の影響だ。

『ハイキュー!!』は高校男子バレーを題材にした少年マンガで、2014年にTVアニメ化され、今年2月に公開された『劇場版ハイキュー!! ゴミ捨て場の決戦』は、国内のみならず海外でもヒットを記録し、全世界の興行収入が200億円を突破している(7月現在)。

この映画の主題歌、SPYAIRが手がけた「オレンジ」もストリーミング累計1億回再生を突破し、好調だ。MusicVideoは約2420万回再生(8月16日現在)、人気YouTubeチャンネル『THE FIRST TAKE』は440万回視聴を超え(8月16日現在)、さらに数字を伸ばしている。SPYAIRはTVアニメ1期第1クールオープニングテーマ「イマジネーション」(2014年)を手掛けて以来、2期第1クールオープニングテーマ「アイム・ア・ビリーバー」(2015年)、4期第2クールエンディングテーマ「One Day」(2020年)と、まさに「ハイキュー!!」の歴史と共に歩んできた。

そして「オレンジ」は彼らがこれまでに手掛けた歴代「ハイキュー!!」ソングへのセルフオマージュが散りばめられていることでも話題を集めている。同時に“新生”SPYAIRを象徴する一曲にもなった。

SPYAIRは2022年3月、オリジナルメンバーでバンドの顔ともいうべきボーカルIKEが持病悪化のため脱退。バンドは活動を休止した。それから4か月後の8月「IKEの声がないバンドを続けるべきなのか?仮に他の素晴らしいシンガーが歌ったとしてそれは果たしてSPYAIRなのか?何が正解なのかは未だに分からないのですが、僕達は這いつくばってでもSPYAIRの音楽を守り、鳴らし続けることを選択しました」というメンバーのコメントと共に、『スパイエアー、ボーカル探してます。』というYouTubeチャンネルを開設。

ボーカルを失ったバンドとバンドを失ったボーカルが邂逅を果たす

メンバーはボーカルを失うというバンド最大の危機を、新たなスタート、進化のための時と前向きに捉えて、11月にボーカルオーディション『君がSPYAIRだ!〜Hey Hey 応えて 誰かいませんか〜』のエントリーをスタートさせ、約1000人にのぼる応募があったという。その中に新ボーカルYOSUKEがいた。YOSUKEは地元福岡でバンド活動をしていたが2022年に解散、ソロ活動に転じていた。ボーカルを失ったバンドとバンドを失ったボーカルが邂逅を果たす。

2023年4月に新ボーカルとして24歳(当時)のYOSUKEの加入を発表。YOSUKEは新たな物語の始まりに「かなり特殊な状況なので僕が受け入れられていくには時間がかかるかもしれませんが、SPYAIRがこれまで築いてきた歴史と僕が加わって作っていく新たな物語を共にMOMIKENさんUZさんKENTAさんはじめ皆さんと噛み締めてこれまで通り音楽に純粋に愛と友情と楽しさを持って歩んで行きたいなと思います」と、その心情を素直に吐露。

約2年振りの新曲「RE-BIRTH」は、新生SPYAIRの力強い意思表明

『JUST LIKE THIS』(2023年8月)
『JUST LIKE THIS』(2023年8月)

そしてデビュー記念日の8月11日にSPYAIRの恒例のお祭り、単独野外ライヴ『JUST LIKE THIS』を2年ぶりにいつもの場所、富士急ハイランド・コニファーフォレストで開催すると発表。さらに6月9日のバンド結成記念日には代表曲「サムライハート(Some Like It Hot!!)」を、23日には「My World」をYOSUKEのボーカルで新たな息吹を吹き込み、連続配信リリースした。

7月7日には野外ライヴ『JUST LIKE THIS 2023』のテーマソングとして、約2年ぶりの新曲「RE-BIRTH」を発表。<大丈夫。 まだ諦めないから I will>という歌詞が印象的なUZ(G&Programming)、MONIKEN(B)、KENTA(Dr)とそしてYOSUKE(Vo)が、まさに生まれ変わったSPYAIRの現在地、迸る情熱を込めた。

ファルセットもデスボイスも聴かせてくれるYOSUKEの声は、強く繊細で、バンドの第2章を牽引していくパワーと説得力を持ち合わせている歌に、これまで応援してきたファンも大きな期待を寄せている。同時にこの歌に惚れ込んだ新たなファンを獲得することにも成功した。

新たな代表曲「オレンジ」は、これまでのハイキュー!!ソングへのセルフオマージュが散りばめられている

EP「オレンジ」(2月14日発売/期間生産限定盤)
EP「オレンジ」(2月14日発売/期間生産限定盤)

“繋ぐ”球技・バレーボールの世界を描いたアニメ『ハイキュー!!』の主題歌を担当してきたSPYAIR。彼らもまさにバンドの歴史を繋ぎ、そして『劇場版ハイキュー!! ゴミ捨て場の決戦』の主題歌「オレンジ」は、これまでに手がけたアニメ「ハイキュー!!」ソングへのセルフオマージュが散りばめられている、かつ、<もう一回のない。 そんな瞬間がずっと 繋がってくように><明日へ向かう オレンジ色の空へ 羽ばたいていく>等、バンドの未来への“希望”を歌詞に込めた、“願い”を感じさせてくれる一曲だ。ストリングスとシャープで強固なバンドアンサンブルが交差し生まれるグルーヴと、YOSUKEの熱量が高い歌がひとつになって、聴き手の心に強い光となって差し込む。SPYAIRの新たな代表曲が誕生した。

世界中のファンを熱狂させるライヴ

『Busan International Rock Festival』(2023年10月)
『Busan International Rock Festival』(2023年10月)

SPYAIRは『ハイキュー!!』のほかにも『BLEACH』『機動戦士ガンダム』『銀魂』など数々の人気アニメのテーマソングを手掛け、アニメ作品と親和性が高い。2018年には初のワールドツアー(世界23都市)を開催し、各国に熱狂的なファンが存在する。2023年10月 には韓国『Busan International Rock Festival』に出演。6年ぶりの訪韓にもかかわらずそのライヴには多くのファンが駆け付けた。さらに今年3月29日から31日にかけて米・シアトルで開催されたアニメ・コンベンション『Sakura-Con』に出演し、熱いライヴで客席を興奮の渦に巻き込んだ。

全国ツアー『SPYAIR TOUR 2024 -ORANGE-』
全国ツアー『SPYAIR TOUR 2024 -ORANGE-』

「ハイキュー!!中国プレミアファンフェスティバル」(2024年6月)
「ハイキュー!!中国プレミアファンフェスティバル」(2024年6月)

さらに間髪入れずに4月~5月には全国ツアー(全国7都市)を開催し、加えてアジアツアー(台北・上海・ソウル)も行なった。6月10日上海で開催された「ハイキュー!!中国プレミアファンフェスティバル」では1万人を前に歴代テーマソングを披露。7月13日に再び上海を訪れ『BILIBILI MACRO LINK』に出演した。この夏は国内の各フェスにも精力的に出演し、8月12日には『ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2024』で、集まった全てのロックファンに新生SPYAIRのパフォーマンスを見せつけた。

9/29野外ライヴ『Just Like This 2024』を日比谷野音で開催。第2章に集まる注目

[L→R] KENTA (Dr)、MOMIKEN(B)、YOSUKE(Vo)、UZ(G&Programming)
[L→R] KENTA (Dr)、MOMIKEN(B)、YOSUKE(Vo)、UZ(G&Programming)

そして9月29日には大切な野外ライヴ『Just Like This 2024』を日比谷野外音楽堂で開催する。さらに11月4日からは神奈川公演を皮切りに12月まで全国7都市を回る全国ツアーの開催も発表した。

積み上げてきた音に新たな音を加え進化した、新生SPYAIR。国内だけではなくアジア圏、そして世界中のファンがその第2章を楽しみにしている。

SPYAIRオフィシャルサイト

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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