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血管が健康な人たちの控えていた食品添加物。それは「乳化剤」。9万5千人解析で判明【最新論文】

黒澤恵(Kei Kurosawa)医学情報レポーター

がんに次ぐ日本人の死因は心血管系疾患

欧米人に比べ心血管系疾患(心筋梗塞や脳卒中など)になりにくいと言われている私たち日本人ですが、それでも毎年約34万人が心血管系疾患で亡くなっています [厚生労働省資料P10] 。この数字はがんの「39万人弱」に次ぐ多さ、しっかり予防しましょう。

この心血管系疾患のリスクを上げる因子としては、「喫煙」「運動不足」「不健康な食事」などがよく知られていますが、思わぬ伏兵が明らかになりました。それは「乳化剤」。水と油のように本来混ざらない物質を分離させないために用いられます。食品における用途は広く、アイスクリームなどの乳製品、マーガリンなどの加工油脂、パ ン、ケーキなどのベーカリー食 品、チューインガム、チョコレートなどの菓子、さらに飲料豆腐など、さまざまな食品に使われています [論文] 。私たちは知らないうちに、あちこちで手にしているようです。

しかし今回、この乳化剤が心血管系疾患の危険性を高めている可能性が明らかになりました。英国医学雑誌(BMJ)に9月6日付で掲載された、ソルボンヌ・パリ・ノール大学(フランス)のLaury Sellem氏たちによる論文を紹介します [文末にリンク]。BMJは医学系臨床研究が掲載される学術誌としては世界でも4本の指に入ります。それだけに論文の信憑性は高いと考えて良いでしょう。

Sellem氏たちが今回調べたのは「ニュートリネット健康研究」というフランスで実施された観察研究に参加したおよそ9万5千人です。観察開始時には全員、心血管系疾患はありませんでした。これらの人たちに観察開始後2年間に3回、24時間の食事記録をつけてもらい、食事内容とその後平均7年間にわたる心血管系疾患発症の関係を解析しました。

その結果、乳化剤、特に「セルロース」や「モノグリセリド」「グリセリン脂肪酸エステル」を平均よりも一定以上(1標準偏差)多く摂種すると、心血管系疾患を起こすリスクが有意に上昇していました

有意:統計学的に「偶然ではなく」の意。

この観察において「セルロース」は「ケーキ、ビスケット」からの摂取が最も多く(43%)、その次は「イモ加工品」(20%)でした。「モノグリセリド」と「グリセリン脂肪酸エステル」はマヨネーズなどの「油入りソース」(23%)、そして「ケーキ、ビスケット」(22%)からの摂取が多く見れらました。ソースを除けば「おやつ系」が多い印象でしょうか?

ただし日本では「一括表示」というものが許されているので、食品表示ラベルでこれらの物質名を目にする機会は少ないかもしれません。気になるようであれば「乳化剤」という文字を探しましょう。

もちろんこの結果だけで「乳化剤が心血管疾患を増やしている」と断言はできません。乳化剤を含む食品をよく食べる人たちに共通する「別の何か」が、心血管疾患増加の原因になっている可能性もあるからです。

しかしSellem氏たちは乳化剤そのものが、心血管系疾患のリスクを増やしていると考えているようです。今回の解析では乳化剤以外の要因が心血管系疾患発症に及ぼす影響を可能な限り統計学的に取り除いているからです。また基礎研究や動物実験も乳化剤による心血管系疾患リスク上昇を指示しているといいます。

心筋梗塞や脳卒中の原因を一言で言えば「不健康な血管」。血管が健康でいられるよう食べ物のにも気を配りたいモノです。

いかがでしたか?普段あまり意識しない「乳化剤」という食品添加物が心筋梗塞や脳卒中になる危険性を高めているかもしれないという論文でした。気になるようなら「おやつ」や「麺類」「マヨネーズ」に要注意でしょうか。なお食事については、次のような論文紹介記事も書いています。こちらもぜひ、お読みください。ではまた!

今回ご紹介した論文

乳化剤摂食量と心血管系疾患リスクの関係 [英語、無料]

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【注意】本記事は最新の医学論文についての紹介あり、研究結果の内容の文責は「論文筆者」にあります。また論文の解釈は論者により異なる可能性もあります。あくまでもご自身の見解形成の参考としてお読みください。

医学情報レポーター

医療従事者向け書籍の編集者、医師向け新聞の記者を経てフリーランスに。15年以上にわたり、新聞社系媒体や医師向け専門誌、医療業界誌、会員向け情報誌などに寄稿。近年では医師向け書籍も共著で執筆。国会図書館収録筆名記事数は3桁。日本医学ジャーナリスト協会会員(いずれも筆名)。

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