イエレン米財務長官の訪中で注目の「過剰生産」は、対中国で最も懸念すべき問題なのか
ジャネット・イエレン米財務長官の訪中で米中は新たな火種を抱えた――。
報道で目立ったのは、中国の過剰生産問題に対するバイデン政権の苛立ちだ。
ロイターは4月6日、「米財務長官の中国「過剰生産能力」批判、保護主義の口実=新華社」という記事を配信した。
電気自動車(EV)、ソーラーパネル、半導体などの製品が、「国内市場の需要低迷に伴って世界市場に流出し、(中略)他国の企業が不利益を被っている」と批判したイエレンの発言が紹介された。
4月4日から6日間の日程で中国を訪れたイエレンの訪中の目的は何か。メディアによれば、1つは「政府補助金がもたらす中国の過剰生産能力」への懸念。もう1つは中国が「外国企業を公平に扱ってない」という産業界からの不満の伝達だという。つまりクレームの旅だ。
米中関係はより安定した状態
だが、イエレン訪中を3月23日の記事で伝えた米政治誌『POLITICO』の見立ては少し違っている。記事〈Janet Yellen to make second trip to China next month〉では、〈中国の脅威という物語が大きくクローズアップされるであろうアメリカ大統領選挙キャンペーンの熱気のなかでも、関係を安定させることが目的〉と解説されている。
ドナルド・トランプとの闘いで、どうしても対中強硬姿勢を強めざるを得なくなることを見越して、事前に関係を落ち着かせておきたいというわけだ。
実際、イエレンは北京で李強首相と会談するなかで、「米中の二国間関係の基盤は過去1年で『より安定した状態』になった」と評価している。
ただし、問題がなかったわけではない。李強首相との会談を終えた後の会見でイエレンは、「政府の補助金を受けた安価な中国製品の流入で新たな産業が壊滅的な打撃を受けることを米国は認めない」と釘を刺した(ロイター 4月8日)と報じられている。
イエレンはその場で「10年前にも中国政府の大規模な支援により、原価割れの中国製鉄鋼製品が世界の市場にあふれ、米国など世界中の産業が壊滅的な打撃を受けた」と述べている。確かに、過剰生産は中国が抱える慢性的な病で、これが悪化するたびに国内では「2元ショップ」など安売り店が雨後の筍のように現れる。
だが今回、バイデン政権がターゲットにしたEVが、過去の過剰生産と同質に扱われるべき問題か否かについては異論もある。
例えば、米ブルームバーグだ。記事〈中国の過剰生産能力に対する米欧の不満はすべてデータに裏打ちされていない〉(4月3日)のなかで、中国の太陽光パネルとバッテリーでは確かに過剰生産が確認できるが、EVに関してはそうではないと疑問を投げかける。
中国企業は過剰生産ではなく効率的
理由の第一として、〈中国の自動車輸出は昨年急増し、日本を抜いて世界一の自動車輸出国となったが、実際にはより高価になった〉ことを上げ、このことは、〈中国の自動車輸出の魅力の高まりが値下げによるものではないことを示唆している〉と結論付けている。
また〈中国は、純粋な電気自動車とハイブリッド車の世界最大の市場であり、昨年の国内販売台数は36%急増し、今年は25%の成長が見込まれている。そして生産台数に占める輸出の割合は、ドイツ、日本、韓国といった他の自動車生産国に比べてはるかに低い〉ことも理由だという。
欧米にとって耳が痛いのは、ブルームバーグが〈EVに関する限り、先進国にとっての問題は、中国企業が過剰生産能力を抱えていることよりも、むしろ効率的であるという点にある〉と断じていることだ。
中国の競争力が補助金頼りではなく、実力によって裏打ちされたものかもしれないという指摘は、米電気自動車(EV)大手テスラのイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)が中国のEVメーカーを「最も競争力がある」と評価した(ロイター 1月25日 〈マスク氏、中国EV企業を警戒 貿易障壁なければ同業「駆逐」〉)ことからもうかがえる。
もし、そうであれば欧米も日本も少し戦い方を見直すべき時を迎えているのかもしれない。そうでなければファーウェイの二の舞になることは間違いない。