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英日曜紙「オブザーバー」の編集室をたずねて見た -「若者で紙の新聞を読む人は少ない」

小林恭子ジャーナリスト
英オブザーバー紙のウェブサイト

今回は、英日曜紙オブザーバー編集室の見学記である。

モダンなビル

オブザーバーは前回紹介したサンデー・タイムズのようにいろいろなセクション(付録、雑誌など)が本紙につく。いずれもカラフルでレイアウトに凝っている。サンデー・タイムズよりももっとリベラルで、社会正義のための企画を出すことが多いように思う。

オブザーバーの編集室は日刊紙のガーディアンと同じビルにある。とてもモダンなビルで、美術館と見間違えるほどだ。

編集室のレイアウトはサンデー・タイムズと非常によく似ている。違いは、カラフルな待合室、ミーティング用のソファーがあちこちに置かれているところだ。

案内は午前10時過ぎに始まったので、ちょうど、ガーディアンの編集会議が進行中だった。会議室の1つには、長い黄色のソファーがいく列にも並んでいる。一方のソファーにはガーディアンのアラン・ラスブリジャー編集長が座り、編集部員たちが向かい合うソファーに座っていた。結構、「上から」という感じに見えたが、どうだろうか。もっとフラットな感じかなと思ったので、意外だった。

部内の壁に、その日のガーディアンの紙面をそれぞれ印刷したものが貼り付けられていた。この貼り付けたものを使って、編集部員らが議論するようだ。

ガーディアンの編集室を過ぎて、オブザーバーの編集室に入る。ここでも壁にはいくつかの紙面が貼り付けられていた。この日は木曜日。まだ少ししかできていない。貼られていたのは「ニューレビュー」という冊子の紙面だった。これは紙の質も本紙と少し変わっていて、とてもきれいな冊子である。

面白いのは、マルチメディア用の施設(ガーディアンと共用)で、ミニスタジオがいくつもあった。記者はマルチメディア(ビデオ、音声)をやることも要求される。マルチメディア専門の人がいるというよりも、「すべての記者がやれるのが原則」なのだ。

社内には、3匹の子豚のぬいぐるみも置かれていた。3匹の子豚がニュースの中心になり、これをテレビ、ウェブサイト、紙の新聞で読むというテレビのコマーシャルを作ったときに使われたぬいぐるみを模したものだった。

オブザーバーの編集スタッフは数十人だが、記者は一ケタ台であるようだ。相当にギリギリの数字である。

紙の新聞を読む若い人は少ない

案内をしてくれた人の話によれば、若い人の間で紙の新聞を読む人は少ないし、周りでもほとんどいないという。それは「ウェブ上でただで読めるから」。言外に、「だから、お金がもうからないのも当たり前だよ」という感じだった。

ガーディアン、オブザーバーはウェブサイト(両紙で共通)上の記事の閲覧を無料にしている。携帯機器で読むための有料のアプリを提供し、そこそこ売っているけれども、このアプリを買わなくても実際には無料で記事が読める。

紙の販売・広告収入が大部分で、デジタル収入の比率は小さいが、デジタル収入のみに注目すると前年比「30%増」だという。

ガーディアンやオブザーバーの記者などが講師として教える「マスタークラス」という収入源もある。記者が調査報道のやり方を教えるなど。受講者として出席するには1回で300ポンド(約4万7000円)、400ポンド(約6万3000円)に上るー決して安くはない。

収入拡大の期待がかかるのはウェブサイト上の動画につける広告だという。

英国に「プレスクラブはあるか?」とも聞いてみた。案内をしてくれた人は、親善クラブのように解釈したが、日本の記者クラブに相当するものはないのかと踏み込んで聞いてみると、「(ほとんど)ない」とのこと。唯一、似ているものは国会記者クラブ。国会記者証を持たされ、議場にプレスとして入ることができたり、官邸のブリーフィングに出られる。省庁の建物の中にオフィスを置いて、情報を得る形はとっていないのかというと、必要がないという答えだった。省庁の方からプレスリリースを出すなど、何でも今はネットで情報が公開されているからだ、と。

ジャーナリストになるのは難関

英国で大手メディアのジャーナリストになるのは、かなりの難関だ。サンデー・タイムズでも採用するのは年に2-3人。この枠に入るのは相当難しい。

そこで、たいていの人が親や親戚、友人・知人のつてをあてにする。今回、サンデー・タイムズやオブザーバーを案内してくれた人もそれぞれ、家族がマスメディアに何らかのコネを持っていたので、最初に足を踏み入れることができた。最近はジャーナリズム学校を通じて入る人もいるという。

売る努力

オブザーバーのオフィスに行く前に、最寄のキングスクロス駅近くの道路の交差点で、「週末版」を宣伝する人が何かを配っていた。見てみたら、ガーディアンとオブザーバーからいくつかの記事を抜粋した、数ページの特別版だった。

これとともに、小型カードに見えるチラシもくれた。紙が小さく折られているのを開けてみると、クーポンだった。1枚1枚を切り取って、お店に行けば、その日のガーディアンやオブザーバーを安く買える。

ガーディアンやオブザーバーがいつまで存続するのかは分からないが、無料化した夕刊紙「ロンドン・イブニング・スタンダード」のかつての販促を思い出した。なんだか、涙ぐましい努力であった。

今回の訪問の次の日曜日、私はオブザーバーを買った。月に一度、「テック・マンスリー」(テクノロジーとサイエンス特集)の小冊子がつくことになったのだ。レイアウト、紙の質、発想、記事の内容など、こちらの頭を大いに刺激してくれる。

それからほぼ毎日、クーポンを使いながら、ガーディアンやオブザーバーを買い続けている。

ジャーナリスト

英国を中心に欧州各国の社会・経済・政治事情を執筆。最新刊『なぜBBCだけが伝えられるのか 民意、戦争、王室からジャニーズまで』(光文社新書)、既刊中公新書ラクレ『英国公文書の世界史 -一次資料の宝石箱』。本連載「英国メディアを読み解く」(「英国ニュースダイジェスト」)、「欧州事情」(「メディア展望」)、「最新メディア事情」(「GALAC])ほか多数。著書『フィナンシャル・タイムズの実力』(洋泉社)、『英国メディア史』(中央公論新社)、『日本人が知らないウィキリークス』(洋泉社)、共訳書『チャーチル・ファクター』(プレジデント社)。

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