【ホンダ「CBR1000RR」試乗レポート】絶大な安心感に包まれながら、ワンランク上の走りが!
先日開催されたホンダ新型「CBR1000RR」のメディア向けサーキット試乗会から、モーターサイクルジャーナリストでWebikeニュース編集長、ケニー佐川のインプレッションを動画付きでお伝えしたい。
今回は千葉県にある袖ヶ浦フォレストレースウェイにて新型CBR1000RRの持つサーキット性能をテスト。このマシンが得意とするステージでの走りの質と、新たに搭載された電子制御、SPモデルに搭載された電子制御サスペンションについてもお伝えする。
「トータルコントロールの更なる進化」
開発テーマは「ネクストステージ・トータルコントロール」。その実現のために従来モデルをベースとしながらも、車体パッケージングを全面的に見直されたのが、新型CBR1000RRである。
クラス最軽量の車重とマス集中化による軽快性、出力向上とコントローラブルな特性を両立したパワーユニット、これをサポートする電子制御などが進化点として与えられた。
車体の68%を新設計とし16kg軽量化
車体パッケージングは、より「操る楽しみ」を進化させるために、完成車を構成する全部品の68%を新設計としている。
具体的には、従来比16kgの軽量化(車重はSTDが196kg、SPは195kg)や、マス集中化による慣性モーメント低減が行われ、メインフレームはアルミダイキャスト製の基本仕様は踏襲しつつ、剛性バランスの最適化により応答性を向上。
スイングアームも従来を踏襲しながら、左右の剛性バランスを再設計し大径アクスルを採用するなど、高い剛性としなやかさを両立することでライントレース精度を高めている。
ホイールも軽量な新デザインとなり、軽快なハンドリングを実現している。
コーナリングABSを新採用
ブレーキシステムは軽量化と制動力の向上に加え、IMU(慣性計測装置)との連動によるABSの進化によりコーナリング中でのコントロールを可能にした他、上級モデルのSPではブレンボ製モノブロックラジアルキャリパーが採用されている。
SPにはオーリンズ製「電子制御サスペンション」搭載
また、SPには最新世代のオーリンズ製電子制御サスペンションである「Smart EC」(フロント:φ43mm倒立フォークNIX30EC/リヤ:TTX36EC)が採用され、走行状況に応じた最適な減衰特性のセッティングを提供する他、リアルタイムに減衰力特性をコントロールできるなど、最先端のスペックが与えられている。
ちなみにSPでは、フューエルタンクもチタン製を採用し、大幅な軽量化が図られた。
スタイルは、よりタイト&コンパクトに
スタイリングの狙いは「タイト&コンパクト」とし、ニーグリップ幅で従来比30mmスリム化。
機能を外観で表現することに重点を置き、ウェッジシェイプのシルエットを基調に一層の軽量化とマス集中に寄与しつつ、空力特性の追及により運動性能と居住性の両面を向上させている。
エンジン全面改良により歴代最強192馬力を実現
エンジンはマグネシウムカバーの採用や各パーツのさらなる軽量化、トランスミッションやクランクシャフトの高強度化など、エンジン構成パーツ全てを徹底的に見直すことで性能を進化。
ピストンや動弁系の改良、スロットルボアの拡大やマフラー構造の最適化など吸排気系の改良により、低中回転域での力強いトルクと高回転域での伸びを両立し、CBR史上最強の192馬力/13000rpmを達成している。
また、新設計のアシストスリッパ―クラッチ導入により、クラッチレバー操作の負担も低減されている。
SPには電制サス連動型のライディングモードを搭載
エンジンも電制化された。新型CBRには、シリーズ初となるスロットル・バイ・ワイヤシステムが導入され、5段階の出力特性(パワーセレクター)、9段階のトラクションコントロール介入レベル(HSTC)、エンジンブレーキの強さ(セレクタブルエンジンブレーキ)を任意に設定できる仕組みになっている。
極め付けはライディングモードで、走行状況に応じて走行フィーリングを任意に選択できる5種類のモードを設定(MODE「1」、「2」、「3」はデフォルト。USER「1」「2」は任意設定)。
モード選択に応じて上記の出力特性、トラクションコントロール、エンジンブレーキの制御レベルが最適化されることに加え、さらにSP仕様ではオーリンズ「Smart EC」との連動による減衰力の最適化も自動的に行われる仕組みとなっている。
また、電子制御ステアリングダンパーの他、SPにはクイックシフター(シフトアップ&ダウン)も標準装備された。
フルカラーTFTメーターにフルLEDを採用
こうした電子制御システムを一元管理するためのインターフェイスとして、新型CBRにはフルカラーTFT液晶式メーターが装備され、自動調光機能による快適な視認性を確保。
各種モードや画面切り替えは、ハンドル左手元のスイッチで操作できるなど、使い勝手も向上している。また、全ての灯火類をLED化することで軽量コンパクト&省電力化。
SPでは超軽量・長寿命のリチウムイオンバッテリーが実用化されるなど、最新技術が投入されている。
■「CBR1000RR SP」試乗インプレッション
4月に開催された公道での試乗会に続き、今回はサーキットで試乗する機会を得た。
舞台は袖ケ浦フォレストレースウェイ。1周約2.5kmの中に高速コーナーやタイトコーナーを織り交ぜた本格的なテクニカルコースだ。
新型CBRの実力を試すには絶好のロケーションと言えるだろう。
スリックタイヤでSPにチャレンジ
サーキットで目にしたのは、スリックタイヤに換装しタイヤウォーマーが巻かれた状態で乗り手を待ち構えているCBR1000RR SP。
赤白を基調に濃紺のストライプが走るトリコロールカラーのCBRは、ホンダの技術とプライドの結晶だ。その研ぎ澄まされたアスリートのようなシャープな肢体の美しさに思わず見とれてしまう。
レザースーツにレース用ヘルメットで正装し、出番を待つ間にも緊張と高揚感で鼓動は否応なく高まっていく。ホンダの開発陣に取り囲まれて、新型マシンの性能を最大限に引き出して走るべくレクチャーを受け、フル装備された電子デバイスの操作を頭に叩き込んだ。
イグニッションオンでフルカラーTFTに浮かび上がるインジケーター。ディスプレイの片隅にはなんと、私の名前が……、心憎い演出に胸が熱くなる。
「軽さは正義」を体現したハンドリング
エンジンの鼓動と排気音がミックスされたサウンドはかなりボリュームがあり従来型と比べても荒々しい。
サイドスタンドを払って車体を起こした瞬間から軽さを感じる。ピットロードをスルスルと滑るように加速していくが、転がり抵抗が少ないようなフリクションの少なさも感じた。
ウォーミングアップをかねて徐々にペースを上げていこうと思ったが、2~3周後には既に全力モードで走っている自分がいる。公道試乗で一度乗っているとはいえ、この馴染みやすさには正直驚いた。
自分がイメージするラインを正確にトレースでき、狙ったポイントにもピタっと寄せることができる。スーパースポーツにおいて「軽さは正義」という言葉があるが、まさにそれを実感できるハンドリングだ。
コーナー進入が格段にスムーズに
スロットル全開のままクイックシフターでギアをかき上げていくと瞬く間にストレートエンドが迫ってくる。
通常なら、フルブレーキングで減速しながら、フロントタイヤの接地感に気を遣いつつ、半クラッチかブリッピングを使って忙しくシフトダウンしていくところだが、新型CBRでは思いっきりブレーキレバーを握りながらノンクラッチでシフトダウンが可能だ。
サーキットライディングでも最も難しい、コーナー進入に向けての準備作業が格段にイージーになっているのだ。
電子制御がプレッシャーから解放してくれる
シフトアップだけでなくダウンでも有効なクイックシフターや理論上フルバンク状態でもフルブレーキングが可能なコーナリングABSも装備。
コーナー立ち上がりで有り余るパワーによる危険なスライドを瞬時に収めてくれるトラクションコントロールなどもライダーをサポートし、電子制御による徹底した介助がライダーを「忙しさ」と「怖さ」のプレッシャーから解放してくれる。
それでいて、スーパースポーツに求められるライディングプレジャーはいささかも色褪せることはない。何故なら“操ること”により集中できるからだ。
「トータルコントロール」の神髄を実感
攻めるほどにリスクが高まる、例えば「握りゴケ」や「開けゴケ」といった心配事がだいぶ低減されることで、コーナー進入速度のコントロールやライン取り、一緒に走っている他のマシンの動きなど、他の大事なことに神経を配ることができる。
結果として、より速く安全に走ることができる。これこそ、新型CBRが目指した「トータルコントロール」の神髄なのだろう。
5種類のライディングモードを体験
SPに装備されるライディングモードも試してみた。
5種類のモードがあるが、簡単に言えばMODE「1」はサーキット向け、「2」はワインディング向け、「3」は街乗り&レイン向けで出力特性とトラクションコントロール、エンジンブレーキ、サスペンション設定がそれぞれの目的に合わせた最適値にプリセットされている。
そして、USER「1」と「2」はユーザーが各パラメーターを任意に設定できる仕組みだ。
いつものコースと景色が違って見えた
最も穏やかなMODE「3」で走ると、スロットルをラフに開けても何も起こらないし、滑りを感じる間もなくトラクションコントロールが介入してくれるので、ビギナーでも安心して走ることができるはず。ある意味、リラックスして走れるので疲れにくい。
一方、最もアグレッシブなMODE「1」ではスロットルレスポンスも鋭敏になり、パワー全開で弾かれたように加速していく。路面の小さなギャップを拾ってフロントが浮き上がるほどのパワーだ。それもウイリーコントロールが自然に収めてくれるのだが……。
そして、結構攻めていってもトラクションコントロールは介入してこない。そもそも今回の試乗車はスリックタイヤを履いていたこともあり、その強大なグリップを超えてトラクションコントロールのインジケーターを光らせることはできなかった。
いつもの袖ケ浦と流れる景色がまるで違う。それだけで、CBRの速さは十二分に伝わってきた。
スイッチひとつで瞬時にベストセットが出せる凄さ
興味深かったのはオーリンズ製電制サスとの連動。
MODE「3」から「2」、「1」へとステージアップするのに合わせて、減衰特性も乗り心地重視のソフト設定からハンドリング重視のハード設定へと変化していく。
その違いは、攻め込むほどに分かってきて、ペースを上げてサーキットを走るときはやはり、旋回中の安定感があってコーナー立ち上がりでも踏ん張り感が出る「1」がしっくりきた。
その後、さらに本気で走ると、フルブレーキングでフォークが入りすぎる感じがしたので、今度はマニュアル操作で減衰力レベルを「GENERAL」(全体的に減衰力を上げるためのモード)の+2に上げるとマシンの姿勢変化に落ち着きが出てきた。
他にもいろいろ試したが、その日のベストセッティングだったのではと思う。走りのフィーリングを乗り手の感性に合わせてカスタマイズできることが素晴らしい。
しかもホンダが長年のレース経験で培ってきた“献立“がすでにマシンにデータとして用意されている。
そして、それが左手元のスイッチひとつで瞬時にできるというのは本当に凄いことだと思う。セッティングに悩んだり、手を汚して慣れない工具と格闘する必要はもうないのだ。
すべてのライダーを受け入れる懐の広さが魅力
より力強い走りと扱いやすさを得た新型CBR。性能面では従来型を全てにおいて凌ぐ全方位的な進化を果たしていることは間違いない。
ただ、だからといってエキスパート向けになったわけではなく、先端テクノロジーと電子制御の恩恵により、すべてのライダーを受け入れる間口の広さ、懐の広さを持ったモデルとして正常進化したと言えるだろう。
上級者はより走りを深めるべく、これからサーキットデビューしたい人にもおすすめできるモデルだと思う。