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杭に縛られボロキレのように…北朝鮮「奔放な女優」の処刑場面

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
北朝鮮の兵士(ウェブサイト「朝鮮の今日」)

1980年に処刑された北朝鮮の女優、禹仁姫(ウ・イニ)の写真が日本で見つかったというエピソードについては、本欄でも以前、紹介したことがある。北朝鮮は、反体制分子として処刑した著名人の痕跡を消すため、写真から映像から何もかもすべてを消去するということを行ってきた。

しかし、脱北者で韓国紙・東亜日報記者のチュ・ソンハ氏が新たに伝えたところによれば、彼女の写真は日本で出版された書籍にも掲載されていたことが、その後に確認されているという。

1960〜70年代の北朝鮮映画界にトップスターとして君臨し、著名な脚本家である夫のリュ・ホソンとの間に2人あるいは3人の娘をもうけていた禹仁姫だが、数多くの権力者と浮名を流していたと言われ、その相手の中には金正日党書記(後の総書記)もいた。

そして、ある事件により当局の取り調べを受けた禹仁姫は、迂闊にもその場で金正日氏の名を口にしてしまった。当時の様々な状況から、禹仁姫の口を封じることにした金正日は、極めて残虐な方法で処刑した。

彼女がどのように処刑されたかについてはいくつかの証言があるが、たとえば韓国の作家、李清(イ・チョン)は2008年、禹仁姫氏をモデルにして小説『神の女』を著した。詳細は不明だが、おそらく実際に現場を見た脱北者の証言を元にしたものと思われる。その一部を紹介する。

(参考記事:女性芸能人たちを「失禁」させた金正恩氏の残酷ショー

1980年代の初めの頃だったろうか。いつも通りに出勤してカバンを置いた瞬間に「全員集合」と非常招集がかけられた。(中略)

しばらくすると、判事らしき人物が書類を持って人々の前に立った。

「これから、反党、反革命分子の禹仁姫に対する最終判決が下されます」

人々の間にどよめきが走った。そして、白幕が外された。

あまりに予想外の光景に、皆が言葉を失った。たしかにソ連製の新型武器がそこにはあった。しかし、皆の視線は柱の方に集まった。

濃い土色のツーピースを着た女性が、柱にぐるぐる巻きにされていた。

判事らしき人物が、文書を読み上げ始めた。

「反党、反革命分子の禹仁姫は…」彼女は17歳から不倫をしていた。そして数多くの家庭を破壊した。反党、反社会主義分子につき、死刑に処すとのことだった。

7人ほどの射撃手が現れた。

判事は「3発撃て!」と号令した。3発どころではなかった。1人あたり20発は撃っただろうか。

(参考記事:【写真】機関銃でズタズタに…金正日氏に「口封じ」で殺された美人女優の悲劇

私は一番前に座っていたが、それでも彼女との距離は100メートルほどあった。彼女の表情は見えなかった。ただ、ボロキレのように変わり果てた姿が柱にくくりつけられていた。彼女の遺体は車に乗せられた。それが私が見た彼女の最期の姿だ。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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