現代の“呪い”を解くカズレーザーの言葉
2016年、大ブレイクした芸人の筆頭といえばメイプル超合金のカズレーザーだろう。
金髪に全身赤い服というひと目見ただけで覚えてしまう風貌だったり、バイセクシャルを公言していたりと、強烈なキャラが渋滞しているだけに、いわゆる“一発屋”枠のキャラ芸人だと思われがちだった。だが、『Qさま』などのクイズ番組で好成績を繰り返したり、共演者に「その落ち着きは何なの、2世タレント?」と驚かれるほどの物怖じのなさで様々なバラエティ番組で活躍、『お願いランキング』内の人気コーナー「カズレーザークリニック」でも“名言”を連発。溢れ出る知性で、一発屋的キャラのイメージを完全に払拭した。
カズレーザーの肯定感に満ちた言葉がいま注目を浴びている。そんな彼の発言を振り返ってみたい。
▼生き方
15歳の頃から赤い服ばかり着る(喪中や妹と会うとき以外)ようになり、モンティ・パイソンに強く影響を受けたカズレーザーは、「とにかく働きたくなかった」ためお笑い芸人になったという。
そんな彼は「芸人としてやっていくと決めた瞬間」を問われこう答えている。
テレビに出始めたときから、並みいる先輩芸人を前にしても物怖じせず、緊張しているように見えなかったカズレーザー。「緊張してもしなくても結果同じじゃないですか。じゃ、しない方がいいんじゃねえかな」(『芸人報道』2015年12月28日)と当たり前のように語り、共演者についても「肩書さえ気にしなければただの人間ですからね」と言う。
彼は常に自分を下に置くことで、学生から大御所までどんな肩書きの相手だろうと緊張せずに対面できるのだ。あまりにも不自然なキャラクターなのに、どこまでも自然体。言うなれば“超自然体”だ。
「自信が持てない」という悩みを抱えた人に対しては、「じゅうぶん人間として魅力的に見えてるから、たぶん自分に見合った自信を持っているはず」と諭した上で、このように語る。
カズレーザーのモットーは「日々現状維持」だという。「現状維持さえしてれば死なないんだから。進歩しようなんて欲張り」と。
「常に将来のことを思い悩む」「人生経験ないくせに悩んでしまい、自分の中でのギャップで苦しい」と不幸になることを予測し悩む学生にはこう答える。
▼恋愛と性
「20歳の時に男友達から求められて受け入れた」ことがきっかけでバイセクシャルになったというカズレーザー。
アイドルは好きだが、「恋」をする感覚が分からないという学生に対してはこのように答えている。
また「性欲が強い人の気持ちがわからない」という相手には、バイセクシャルだから「男性と長くおつきあいとかするんですけど、全く無いまま、2年3年付き合ったりもする」と経験談をまじえながらこう語る。
そう言いつつも、性の悦び自体も決して否定したりはしない。
▼人間関係
これまで見てきた発言でわかるようにカズレーザーは「当たり前」とされている言葉や価値観を、「当たり前」とせず視点や定義を変えることで、その多様性を肯定している。
それがもっとも分かる名言が、「女子力がない」と悩む女子大生に返した言葉だ。
通常、悪いとされる「媚びを売る」という行為も、カズレーザーは「面と向かって媚び売る人が無敵」と肯定する。
“嘘の自分”を演じてしまうと悩む学生にはこう答える。
カズレーザーはどんな悩みを持っている人に対して、決してその人自身を否定することはしない。
彼は相手の悩みに対して、まず先に自分の周りにある具体例を自虐を交えて語って相手に寄り添い、視点を変える。その上で、相手が抱いている「悩み」自体が、実は思い込みで実態のないものではないかと論理的にその前提を問い直す。
そもそも「女子力」なんてものはあるのか、「嘘の自分を演じる」ことが悪いことなのか、と。
そうして、だったらあなたはそのままでいいのだと結論を下すのだ。
ただ単に「そのままでいい」「大丈夫」と言うのは簡単だ。けれどカズレーザーは自虐でしっかり相手の心を解きほぐし、論理で悩み自体を無効化する。そして最後に相手を肯定するから圧倒的な説得力がある。
一方で、常にどこか他人事で一定の距離があり、親身になりすぎない自然体の適当さも心地いい。
本当の意味で「頭がいい」というのはこういうことを言うのだろう。
「完璧主義過ぎて人に弱みを見せられない」という悩みには、そもそも「弱み」を見せることを是とする昨今の風潮を否定する。
大学で友達ができないという悩みには、「友達ってできるもんじゃなくて気づいたらなってるもの」と言う。
▼現代の呪い
そんな風に謙遜気味に自己分析するカズレーザーだが、『ロンドンハーツ』「芸人リスペクト番付」などで共演者たちが、自分はどんな風に評されるんだろうと怖がりつつも知りたいと、前のめりに聞きに行く感じは、有吉弘行の再ブレイク前夜、みんなが有吉にあだ名を付けてもらおうとするときの雰囲気と重なって見えた。
有吉が再ブレイクした2007年は、「毒」を前面に出した批評がウケたが、現在は奥底に毒を仕込みながらも、前面には「肯定感」が溢れたカズレーザーの批評がウケているのもいまの時代を象徴しているのではないだろうか。
社会が提示する「当たり前」という価値観は、現代の“呪い”だといえる。
いまはそれが、強烈な同調圧力を生み、窮屈な空気になっていることが少なくない。
そんな生きづらい時代に、多様性を肯定するカズレーザーの言葉はそんな“呪い”を解く力を持っている。
ところで、自分の言葉が、このように「名言」としてありがたがられる風潮について、カズレーザーはこのように言い放っている。