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現代の“呪い”を解くカズレーザーの言葉

てれびのスキマライター。テレビっ子

2016年、大ブレイクした芸人の筆頭といえばメイプル超合金のカズレーザーだろう。

金髪に全身赤い服というひと目見ただけで覚えてしまう風貌だったり、バイセクシャルを公言していたりと、強烈なキャラが渋滞しているだけに、いわゆる“一発屋”枠のキャラ芸人だと思われがちだった。だが、『Qさま』などのクイズ番組で好成績を繰り返したり、共演者に「その落ち着きは何なの、2世タレント?」と驚かれるほどの物怖じのなさで様々なバラエティ番組で活躍、『お願いランキング』内の人気コーナー「カズレーザークリニック」でも“名言”を連発。溢れ出る知性で、一発屋的キャラのイメージを完全に払拭した。

カズレーザーの肯定感に満ちた言葉がいま注目を浴びている。そんな彼の発言を振り返ってみたい。

▼生き方

15歳の頃から赤い服ばかり着る(喪中や妹と会うとき以外)ようになり、モンティ・パイソンに強く影響を受けたカズレーザーは、「とにかく働きたくなかった」ためお笑い芸人になったという。

そんな彼は「芸人としてやっていくと決めた瞬間」を問われこう答えている。

「ない、ない、ない。成り行き、成り行き。人間成り行きでしょ、みんな、人生なんて。みんな後から成り行きに理由をつけているだけでよく考えたら成り行きで動いてるからね。自分の意志ひとつで変わるもんじゃないでしょ」

出典:「カズレーザークリニック」2016年8月23日

テレビに出始めたときから、並みいる先輩芸人を前にしても物怖じせず、緊張しているように見えなかったカズレーザー。「緊張してもしなくても結果同じじゃないですか。じゃ、しない方がいいんじゃねえかな」(『芸人報道』2015年12月28日)と当たり前のように語り、共演者についても「肩書さえ気にしなければただの人間ですからね」と言う。

「僕はプライドはないと思う。人類の後輩でいたい

出典:「カズレーザークリニック」2016年6月28日

彼は常に自分を下に置くことで、学生から大御所までどんな肩書きの相手だろうと緊張せずに対面できるのだ。あまりにも不自然なキャラクターなのに、どこまでも自然体。言うなれば“超自然体”だ。

「自信が持てない」という悩みを抱えた人に対しては、「じゅうぶん人間として魅力的に見えてるから、たぶん自分に見合った自信を持っているはず」と諭した上で、このように語る。

「自分のキャパ以上に自信を持ってる人って歩いてても幅とるじゃん。何するにも。『自信がある』って周りにバレてる時点で過信だもんね」

出典:「カズレーザークリニック」2016年12月8日

カズレーザーのモットーは「日々現状維持」だという。「現状維持さえしてれば死なないんだから。進歩しようなんて欲張り」と。

「常に将来のことを思い悩む」「人生経験ないくせに悩んでしまい、自分の中でのギャップで苦しい」と不幸になることを予測し悩む学生にはこう答える。

人間、どうせ幸せになるのよ。ハッピーエンドに決まってるのになんでそんなバッドエンドにしたがるの?理由を見つけて自分が不幸だと思おうとしてるだけで、思わなきゃずっと幸せだからね。幸せの前提があるから不幸を見つけるのができるんであって、見つけなきゃいい。目をそらす努力!

出典:「カズレーザークリニック」2016年8月16日

▼恋愛と性

「20歳の時に男友達から求められて受け入れた」ことがきっかけでバイセクシャルになったというカズレーザー。

「みんなバイセクシャルでしょ。人類はバイセクシャル。(女性が好きな男性も)まだイケる男性に出会ってないだけで」

出典:「カズレーザークリニック」2016年8月30日

「普通のバイセクシュアルです。ゆがんでる人もいるじゃないですか。僕はまっすぐ! ただ、2車線あるだけ、それ以上でも以下でもない」

出典:「オリコンスタイル」2016年1月13日 

アイドルは好きだが、「恋」をする感覚が分からないという学生に対してはこのように答えている。

「恋が分からないはずはない。人を好きになるのは腹が減るのと同じだもん。でも腹の減り具合は人によって違うけどね。

その人のことを想い浮かべてポジティブな気持ちになるならそれはもう恋

小説とかドラマで恋愛があまりに価値があるものに描かれすぎてるから恋愛しなきゃいけないと思いがちだけど、周りからしたらどうでもいい無価値なもの」

出典:「カズレーザークリニック」2016年8月23日

また「性欲が強い人の気持ちがわからない」という相手には、バイセクシャルだから「男性と長くおつきあいとかするんですけど、全く無いまま、2年3年付き合ったりもする」と経験談をまじえながらこう語る。

「恋愛のゴールをSEXにみんなが固定概念で持ってるだけ

出典:『メイプルマナミの極めびと人生相談』2016年12月27日

そう言いつつも、性の悦び自体も決して否定したりはしない。

「ただ言えるのは恋とか愛のあるHはすっげえ気持ちいい!」

出典:「カズレーザークリニック」2016年8月23日

▼人間関係

これまで見てきた発言でわかるようにカズレーザーは「当たり前」とされている言葉や価値観を、「当たり前」とせず視点や定義を変えることで、その多様性を肯定している。

それがもっとも分かる名言が、「女子力がない」と悩む女子大生に返した言葉だ。

「料理ができる女子は、『女子力高い』じゃなくて『料理ができる子』ってカテゴライズされる。取り分けできる子は『気が利く子』。『女子力が高い』なんて女性はもともといないの。ウソの概念

出典:「カズレーザークリニック」2016年6月7日

通常、悪いとされる「媚びを売る」という行為も、カズレーザーは「面と向かって媚び売る人が無敵」と肯定する。

「売れる媚びはいっぱい売ったほうがいいよ。媚びって常に需要があるから」

出典:「カズレーザークリニック」2016年8月16日

“嘘の自分”を演じてしまうと悩む学生にはこう答える。

「バカを演じる素養があるんじゃない? そのまま演じ続けてたら苦痛じゃなくなるかもしれないよ。ムードを作る力があるわけたから。本当の自分出されても苦痛だからね。永遠にバカ演じた方がいい」

出典:「カズレーザークリニック」2016年12月1日

カズレーザーはどんな悩みを持っている人に対して、決してその人自身を否定することはしない。

彼は相手の悩みに対して、まず先に自分の周りにある具体例を自虐を交えて語って相手に寄り添い、視点を変える。その上で、相手が抱いている「悩み」自体が、実は思い込みで実態のないものではないかと論理的にその前提を問い直す。

そもそも「女子力」なんてものはあるのか、「嘘の自分を演じる」ことが悪いことなのか、と。

そうして、だったらあなたはそのままでいいのだと結論を下すのだ。

ただ単に「そのままでいい」「大丈夫」と言うのは簡単だ。けれどカズレーザーは自虐でしっかり相手の心を解きほぐし、論理で悩み自体を無効化する。そして最後に相手を肯定するから圧倒的な説得力がある。

一方で、常にどこか他人事で一定の距離があり、親身になりすぎない自然体の適当さも心地いい。

本当の意味で「頭がいい」というのはこういうことを言うのだろう。

「完璧主義過ぎて人に弱みを見せられない」という悩みには、そもそも「弱み」を見せることを是とする昨今の風潮を否定する。

弱みを見せることでイニシアティブを取ろうとしているとも言えるからね。弱みを見せるって卑怯なやり方だよね。長所をアピールして短所は隠すっていう方が本来はいいわけだから」

出典:「カズレーザークリニック」2016年9月29日

大学で友達ができないという悩みには、「友達ってできるもんじゃなくて気づいたらなってるもの」と言う。

「いま大学に友達ができていないのはたぶんそのコミニティの中にはあなたが必要としている人はいないと思うんですよ。そこで探さなくていいんじゃない?」

出典:「カズレーザークリニック」2016年10月13日

▼現代の呪い

「なんかの間違いだと思いますよ。別に需要があって出てるわけじゃない。世間がたぶん疲れすぎて、ちょうどお笑い界にニッチな隙間ができてるのよ。そこにたまたま俺ら入れたのよ。こんな体格でかいのに隙間産業に入れたのよ」

出典:『メイプル超合金のANNR』2016年3月12日

そんな風に謙遜気味に自己分析するカズレーザーだが、『ロンドンハーツ』「芸人リスペクト番付」などで共演者たちが、自分はどんな風に評されるんだろうと怖がりつつも知りたいと、前のめりに聞きに行く感じは、有吉弘行の再ブレイク前夜、みんなが有吉にあだ名を付けてもらおうとするときの雰囲気と重なって見えた。

有吉が再ブレイクした2007年は、「毒」を前面に出した批評がウケたが、現在は奥底に毒を仕込みながらも、前面には「肯定感」が溢れたカズレーザーの批評がウケているのもいまの時代を象徴しているのではないだろうか。

社会が提示する「当たり前」という価値観は、現代の“呪い”だといえる。

いまはそれが、強烈な同調圧力を生み、窮屈な空気になっていることが少なくない。

そんな生きづらい時代に、多様性を肯定するカズレーザーの言葉はそんな“呪い”を解く力を持っている。

ところで、自分の言葉が、このように「名言」としてありがたがられる風潮について、カズレーザーはこのように言い放っている。

芸人一人の言葉が名言みたいになる今の風潮がおかしいッスよね

出典:『Quick Japan』vol.127

ライター。テレビっ子

現在『水道橋博士のメルマ旬報』『日刊サイゾー』『週刊SPA!』『日刊ゲンダイ』などにテレビに関するコラムを連載中。著書に戸部田誠名義で『タモリ学 タモリにとって「タモリ」とは何か?』(イースト・プレス)、『有吉弘行のツイッターのフォロワーはなぜ300万人もいるのか 絶望を笑いに変える芸人たちの生き方』、『コントに捧げた内村光良の怒り 続・絶望を笑いに変える芸人たちの生き方』(コア新書)、『1989年のテレビっ子』(双葉社)、『笑福亭鶴瓶論』(新潮社)など。共著で『大人のSMAP論』がある。

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