パソコンやスマホを使わない高齢者の「なぜ」を探る
高齢者の情報機器離れは「必要ないから使っていない」
さまざまな便益をもたらしてくれるFaxやパソコン、スマートフォンなどの情報機器や技術。今や日常生活には欠かせない存在だが、それを利用しない高齢者も多い。なぜ使わないのか、その理由を内閣府が2016年5月に発表した、高齢者の生活と意識に関する国際比較調査(最新分は2015年9月から12月にかけて日本、アメリカ合衆国、ドイツ、スウェーデンにおいて、60歳以上の男女(老人ホームなどの施設入所者は除く)に対して調査員による個別面接聴取方式によって実施。有効回答数は各国とも1000件強。それぞれ性別・年齢階層別・地域・都市規模などを元にウェイトバックを実施)の結果内容から探る。
今調査対象母集団では少なからぬ高齢層が情報機器の類を使っていない(「ファックスで家族・友人などと連絡を取る」「パソコンの電子メールで家族・友人などと連絡(ソーシャルメディアなども含むと判断)」「インターネットで情報収集、ショッピング(パソコン利用と判断)」「携帯電話で家族・友人などと連絡を取る(通話だけでなく電子メールやソーシャルメディアも含むと判断)」「携帯電話で情報収集、ショッピングをする」のいずれも行っていない)と回答している。
そこで「情報機器を使っていない」と回答した人に、なぜ使っていないのかを複数回答で尋ねた結果が次のグラフ。諸国とももっとも多くの人が同意を示したのは「必要性を感じない」だった。日本とドイツで7割、アメリカ合衆国で6割近く、スウェーデンでも4割強の人が答えている。
国ごとに多少の違いはあれど、「必要性を感じない」の次に大きな理由は「使い方が分からない」で2割前後。これは「必要性を感じる、使いたいと思っているが、使い方が分からないので使えない」と解釈することができ、情報機器を普及浸透させるべきであると考えるサイドには、「必要性を感じない」よりも可能性の高い属性。
高齢層の情報機器普及率に関し、世間一般でよく理由として想定される費用の問題「お金がかかる」はスウェーデンでゼロに近く、他国でも1割前後でしかない。それを理由にしている人は存在するが、少数意見でしかない。また同様に、高齢者の身体的な問題に絡んで大きな理由として語られる「文字が見にくい」も1割足らず。
実のところ「高齢者の情報機器離れ」の原因は、多分に「生活の中で必要性を感じない。必要のないものを使う理由が無い」「使いたい、興味はあるが使い方が分からないので使えない」の2要素であることが分かる。
日本の詳細を探る
続いて日本における属性別の動向を確認する。まずは男女別。
実のところ男女で大きな違いは無い。男女共に必要性を感じないのがトップで、次いで使い方が分からない、その次にコストの問題がつく。文字が見にくいはその次となる。中には「文字が見にくい」以外の身体的な理由、例えばスマートフォンならフリックやタップが難しいとの人もいるだろうが、少数派でしかない。
大よそ歳を経るほど「必要性を感じない」が減り、「使い方が分からない」が増えていく、つまり現状のシニア層のうち情報機器を使っていない人においては、若い人たちほど利便性を知らず、年上の人ほど使いたい・興味関心があるけれど分からないので使えないとする人たちが多いことになる。他の項目は年齢階層による法則性のある差異は見られない。
一つ注意してほしいのは、今件は最初のグラフにある通り、「情報機器を利用しない人」に限定していること。情報機器非利用者は年上ほど比率的に増える傾向があるため、若い年齢の人達は「必要性を少しでも感じている人は自発的に使いこなしている」にシフトしている可能性が高い。
実際、「いずれも使わず」と「必要性を感じない」・「使い方が分からない」を掛け合わせ、男女・年齢階層別に、その属性全体(使っている人・使っていない人合わせて)に占める割合を算出すると、次の通りとなる。
85歳以上では全体の5割近くが「必要性を感じないから情報機器を使っていない」、2割近くは「使い方が分からないので使っていない」となる。男性よりも女性、年下よりも年上の方が、不必要、使い方不明のため、情報機器を使っていないことになる。
「必要性を感じない」が、現状の日々の生活で満足しており、何か新しいことをするために努力をしたりコストを投入して覚える必要性を感じないのか。それとも生活にもプラスとなり存在を知れば利用に前向きとなるはずだが、その存在を知らないだけなのか。あるいは便宜性を多少は認識しているが、費用対効果を考えると不必要と判断しているのか。どれかまでは分からないが、社会情勢上は高齢層への情報機器の普及が望ましい昨今において、考えさせられる結果には違いない。
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