前年同期比で3誌がプラスだが…育児系雑誌の部数動向(2024年7~9月)
育児に関する情報はいくらあっても足りないと感じるもの。情報取得のために雑誌は必要不可欠な存在ではあったが、最近はインターネットに主役の座を奪われつつある。育児系雑誌の現状における部数動向を、日本雑誌協会が四半期ベースで発表している印刷証明付き部数(※)から確認する。
現在印刷証明付き部数の公開ページで取得できる、該当ジャンルの雑誌は8誌。2018年10~12月期までは7誌だったが、2019年1~3月期にPHP研究所の「PHPのびのび子育て」が休刊していないにもかかわらず非公開化されてしまった。同じPHP研究所のビジネス系雑誌「THE21」も同じタイミングで非公開化されているため、出版社における方針転換があったのかもしれない。さらに「プレモ(Pre-mo)」が脱落してしまう。
そして2022年4月からは「初めてのたまごクラブ」が妊娠2・3・4か月向けの「初めてのたまごクラブ」、妊娠5・6・7か月向けの「中期のたまごクラブ」、妊娠8・9・10か月向けの「後期のたまごクラブ」の3誌に分割されている。同様に「ひよこクラブ」は生後0・1・2・3か月向けの「初めてのひよこクラブ」、生後4・5・6・7か月向けの「中期のひよこクラブ」、生後8・9・10・11か月~1歳代向けの「後期のひよこクラブ」の3誌に分割されている。
5期前にはBaby-mo(ベビモ)の部数が非公開化された。公式発表によると、2023年5月発売分から、季刊だったものが年4回刊に変更された。さらに2024年6月13日の発表で「年4回の季刊から適時刊行に変更」された。記事執筆時点では2024年5月29日発売の2024年夏号が最新号で、今後については「未定」とある。
育児系雑誌において今期では、プラス誌は3誌でいずれも誤差領域内。マイナス誌は5誌で、そのうち2誌は誤差領域(5%幅)を超えたマイナス幅。
少子化は育児系分野の市場縮小の一要因。しかしその市場動向の多くは子供の人数の減り方をはるかに超えるスピードで縮小している。そして核家族化などを考慮すれば、口頭伝達の教え手となる祖父母が身近にいる育児世帯は数を減らしていき、育児情報の需要は増えることから、切り口次第ではチャンスは多い。もちろん同時に主婦層にもインターネット、中でもスマートフォンやタブレット型端末の普及が進み、子育て層に向けた情報・コミュニティサービスの利用者も増えており、それらのライバルが多い中で雑誌ならではの提案が求められる。例えば蓄積性、専門性、正確性、実物品の提供などが思い浮かぶ。
「げんき」は育児系雑誌の前年同期比では一番大きな下げ幅を示している。
「げんき」は1~3歳の幼児をメインターゲットとした雑誌で、創刊は1994年9月。幼児向けのキャラクターや保護者向けの育児情報で構成されている。現在では隔月の発刊で、該当期に発売されたのは1誌。付録も充実しており、「けけちゃまみずあそびボールすくい」が注目を集めている。
部数動向を見るに部数は、5期前のようなイレギュラー的な増加(付録の「ミッフィーのじどうはんばいき」が原因のようだ)を示しながらも、中長期的には漸減傾向にあるようだ。
前年同期比ではプラス1.8%となった「初めてのたまごクラブ」は要注目。
「初めてのたまごクラブ」は季刊誌。読者の立場にあった付録(今回はミッキーマウス&ミニーマウスデザインの「母子手帳ポーチ」「マタニティマークストラップ」。別冊付録として「妻の妊娠がわかったら夫が最初に読む本 初めてのPAPA BOOK」)がつくのも嬉しいところ。
部数動向の限りでは2016年10~12月期で大きく上昇を示し、それ以降は安定した部数動向に移行していた。何らかの方針転換があり、それが功を奏していたのだろう。掲載情報への評価が極めて高いことから、口コミでよさが広まっていたのかもしれない。そして関連誌も含めた分割に影響されたと思われる大きな下落を経て、4万部前後で再び安定感を見せつつある。
少子化だけでなく情報伝達媒体の多様化もあり、紙媒体は多ジャンルで厳しいビジネス環境下にある。しかしながら育児系雑誌ではその特異性もあり、雑誌ならではの付加価値を見出せる構成を示すことで、不調を乗り越える可能性を秘めている。育児情報を求める人たちにとって頼りになる存在となることができるか否か、出版社や編集部の力量が問われるところだ。
■関連記事:
【高校2年生は1か月に1冊強…子供達の本離れは本当なのか?(最新)】
【43年連続の減少で子供の数は1401万人に…「こどもの日」関連最新情報(2024年公開版)】
※印刷証明付き部数
該当四半期に発刊された雑誌の、1号あたりの平均印刷部数。「この部数だけ確かに刷りました」といった印刷証明付きのものであり、雑誌社側の公称部数や公表販売部数ではない。売れ残り、返本されたものも含む。
(注)本文中のグラフや図表は特記事項のない限り、記述されている資料からの引用、または資料を基に筆者が作成したものです。
(注)本文中の写真は特記事項のない限り、本文で記述されている資料を基に筆者が作成の上で撮影したもの、あるいは筆者が取材で撮影したものです。
(注)記事題名、本文、グラフ中などで使われている数字は、その場において最適と思われる表示となるよう、小数点以下任意の桁を四捨五入した上で表記している場合があります。そのため、表示上の数字の合計値が完全には一致しないことがあります。
(注)グラフの体裁を整える、数字の動きを見やすくするためにグラフの軸の端の値をゼロではないプラスの値にした場合、注意をうながすためにその値を丸などで囲む場合があります。
(注)グラフ中では体裁を整えるために項目などの表記(送り仮名など)を一部省略、変更している場合があります。また「~」を「-」と表現する場合があります。
(注)グラフ中の「ppt」とは%ポイントを意味します。
(注)「(大)震災」は特記や詳細表記のない限り、東日本大震災を意味します。
(注)今記事は【ガベージニュース】に掲載した記事に一部加筆・変更をしたものです。