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乃木坂46コラボに、流行語大賞トップテンに。きつねダンスを生み出した日本ハムの凄さ

徳力基彦noteプロデューサー/ブロガー
紅白歌合戦では乃木坂46とコラボ(出典:乃木坂46公式ツイッターアカウント)

印象的なメロディと、独特なダンスで昨年大きな注目を集めた「きつねダンス」ですが、今年も早速ファイターズガールが大感謝祭を開催し、盛り上がっていたようです。

参考:ファイターズガール大感謝祭 今季メンバー22人できつねダンス

なにしろきつねダンスは、2022年の新語・流行語大賞のトップテンにも選出され、年末にはさまざまなテレビ番組にも引っ張りだこ。

紅白歌合戦にも、乃木坂46や日向坂46とコラボして出場したほどですから、素晴らしい大活躍の年だったと言えるでしょう。

ただ「きつねダンス」の興味深いのは、そのヒットが生み出された背景に、コロナ禍の制約に対する日本ハムの担当者の試行錯誤があったという点です。

初披露から1年足らずで日本中を席巻

2022年を席巻した「きつねダンス」ですが、実はその初お披露目は2022年3月31日。

まだ登場から1年も経っていない新しい取り組みです。

徐々にその人気が拡がりはじめたのは、5月に北海道日本ハムファイターズの公式YouTubeに選手が踊る動画をあげたあたりからだったそうです。

この後、「きつねダンス」現象は、さまざまなメディアにも取り上げられ、7月にはオリックスが「きつねダンス」に対抗して「たぬきダンス」を披露するなど、チームの壁を超えて大きな拡がりを見せるようになります。

さらに、8月には乃木坂46のメンバーで北海道出身でもある金川沙耶さんがファイターズガールと一緒にきつねダンスを披露したことが話題になり、後の紅白への伏線になることになります。

そして9月には「きつねダンスDAY」を開催し、「きつねダンス」の原曲を歌う、ノルウェー在住の兄弟ユニット「Ylvis(イルヴィス)」が初来日して熱唱することになるわけです。

参考:日本ハム「きつねダンスDAY」に“本家”登場 総勢300人できつねダンス

こうして振り返ると、ある意味では、知名度のある芸能人との連携や、メディア受けするネタが上手く組み合わさって大ヒットにつながった、野球ならではの「運のいい」現象だったと総括することもできるでしょう。

ただ、実は、今回の「きつねダンス」のヒットの背景には、日本ハム側の観客を楽しませようとして試行錯誤をしてきた地道な取り組みが効いています。

楽曲を見つけてから2年間温められていたアイデア

筆者は、昨年スポーツナビが主催する「スポーツPRアワード」の審査員を担当させていただき、その際に日本ハムの担当の方々の話を聞いて驚いたことがあります。

それは、「きつねダンス」発案の背景には、コロナ禍で入場や声出しなど、さまざまな制約が課せられた、「野球の応援」を観客にどうすれば楽しんでもらえるかという日本ハム側の試行錯誤があったということです。

たとえば、発案者の尾暮沙織さんが「きつねダンス」の楽曲である「The Fox」を見つけたのは実は2020年のこと。

球団マスコットのフレップがきつねであることから、きつねにかけた音楽やパフォーマンスを作りたいと思っていて、このYlvisの楽曲に目をつけたそうです。

その後、コロナ禍が続き、球場に来場してくれるファンの人たちが声出し応援ができないという状況に対して、何かできないかという試行錯誤のもとに思いついたのが、「きつねダンス」という声を出さずに楽しめる企画だったわけです。

楽曲を発見してから実際に「きつねダンス」という形で日の目を見るまで、2年間尾暮さんの中で温められていたからこそ、最適なタイミングで公開できたと言うこともできるでしょう。

参考:2年間温め「出すなら今だ!」 ハマる人が急増…日本ハム"きつねダンス"誕生秘話

しかも、「きつねダンス」も最初の頃は、リアクションはほとんどなくて、ポカンとした感じで見ている方が多かったとのこと。

ただ、尾暮さんや球団側に、なんとかコロナ禍でも球場に足を運んでくれる人に楽しんでもらいたいという想いがあるからこそ、すぐにはあきらめずに前述の選手が踊る動画をYouTubeに公開したりと、火がつくまで地道な活動を続けられたわけです。

しゃけまるを掲げて応援する「しゃけUP!」

さらに興味深いのは、日本ハムが昨年取り組んだのは「きつねダンス」だけではないことです。

実は日本ハムは昨年「しゃけUP!」という新しい企画もスタートしています。

これは、昨年から発売された「しゃけまる」というサケのぬいぐるみを掲げて応援するという日本ハムが生み出した新しい応援スタイル。

6月には予想を上回る人気からグッズが増産されるというニュースが取り上げられていますから、ある意味「きつねダンス」よりも先にヒットしたということもできるかもしれません。

参考:新キャラ「しゃけまる」グッズ増産、コロナ禍でも「しゃけUP!」でファン1つに

こうしたヒットの背景には、杉谷選手がかぶりものをしてヒーローインタビューに登場したりと、選手達がPR活動に積極的に協力した面も大きそうです。

日本ハムは「スポーツPRアワード」においても、この「きつねダンス」と「しゃけUP!」の活動が評価され、優秀賞を獲得されていました。

参考:日本ハムの「きつねダンス」を僅差で上回り「スポーツPRアワード」グランプリに輝いたのは、V・ファーレン長崎!

こうした新しい活動を複数積み上げているというのが、「きつねダンス」のヒットが単なるラッキーパンチではないことの証拠ではないかと感じます。

日本ハムがつむぐ新しいファンサービスの歴史

2022年の開幕当初の日本ハムと言えば、新庄監督が「ビッグボス」という名称とともに大きな話題となり、さまざまな議論も巻き起こしながらシーズンに突入していったのが非常に印象的だったのを記憶している方も少なくないはずです。

参考:新庄監督流SNS活用術は、日本の野球界とファンの関係に革命を起こすか

その過程で、選手も球団側も、新庄流のファンサービスを目の当たりにしながら、自分達がファンに対して何ができるのかを真剣に考えた結果が、実は「きつねダンス」や「しゃけUP!」のような新しい取り組みが日本ハムから生まれている背景にあるように感じます。

2023年の今年は、日本ハムは「エスコンフィールド」という新しいスタジアムでシーズンをスタートすることになりますが、今年はどのような新しい取り組みをはじめてくれるのか注目したいと思います。

noteプロデューサー/ブロガー

Yahoo!ニュースでは、日本の「エンタメ」の未来や世界展開を応援すべく、エンタメのデジタルやSNS活用、推し活の進化を感じるニュースを紹介。 普段はnoteで、ビジネスパーソンや企業におけるnoteやSNSの活用についての啓発やサポートを担当。著書に「普通の人のためのSNSの教科書」「デジタルワークスタイル」などがある。

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