できる人が「根拠のない自信」を持っている理由〜根拠がないから、その自信は崩れない〜
■「自信」の効用
「自信」とは、文字通りに読めば「自分を信じること」(self confidence)です。未知なこと、新しいことに恐れずに挑戦したり、過酷な環境やストレスに耐えたり、高い目標に対して長い間継続的に努力したりするためには、ベースに強い自信を持っていることが重要です。ですから、このように「自信」を持っていることは様々な人生の局面に対峙していくことに役立つと言われることが多い。
ただ、日本の文化においては「自信」という言葉はややネガティブに捉えられていることもあります。「あいつは自信家だ」と言う場合、そこには多少「鼻持ちならない嫌なやつ」という意味を含んでいます。しかしそれは、本当は「自尊心」(pride)とでも言うべきものであり、文字通りの意味とは異なります。やはり本来の意味での「自信」は持つべきものではないでしょうか。
■二種類の「自信」
この「自信」には、「根拠のある自信」と「根拠のない自信」の二種類があります。
「根拠のある自信」とは、自分に関する何らかの属性や能力や成果などを元に自信を持つようなことです。例えば、「俺は東大出身だから」「年収2000万円だから」「クラブで日本一になったから」・・・というような事柄を背景とした自信のことを指します。
もう一つの「根拠のない自信」とは、特になんの事柄も背景とせずに、「未来は明るい」「努力は必ず報われる」「人は信じるに足るものである」・・・というような気持ちを持てることです。
ぱっと聞くと「ない」よりは「ある」方が良いように思えるため、多くの人は「根拠のある自信」の方がより好ましいと思うことでしょう。しかし、私は違う意見を持っています。
■実は弱い「根拠のある自信」
「根拠のある自信」は、「根拠がある」が故に、実は弱いのです。その根拠が崩れてしまえば、へなへなとつぶれてしまうこともあります。例えば「俺は東大出身だから」と威張っている人はそこにハーバード大学出身の人が来ればシュンとなってしまうでしょう。「年収1000万円」というのが自信の背景にある人は、評価が下がって年収が下がれば、自信を失うことでしょう。
「根拠のある自信」はこのように失われやすいものなのです。このタイプの人は自信を失うと、「帰郷」(過去の栄光(故郷)にすがること。体育会のクラブで優秀な成績を残した人が、仕事でうまくいかなくなると週末に学生向けコーチをし始める、等)したり、「セルフハンディキャッピング」(失敗しても自尊心を保てるように、あらかじめ自分にはハンディキャップがあると主張したり、実際にハンディキャップを作り出してしまうこと、等)したりするので注意が必要です。
■「根拠のない自信」は強い
一方で「根拠のない自信」は、「根拠がない」が故に、強いのです。そもそも根拠がないのだから、崩される心配もありません。
この「自信」は、ポジティブ思考(何でも前向きに良く捉える思考バイアス)やベーシックトラスト(世界に対する基本的信頼感。アイデンティティの概念を提唱した心理学者のエリクソンが幼児期の発達課題とした)にも似て、どんなことがあっても、崩れることなく安定しているものです。ビジネスはよく短距離走ではなく長距離走(マラソン)に似ていると言われますが、長期に渡り様々な困難を越えて、大きな成果を出すためには、この「根拠のない自信」に裏付けられていることが必要かもしれません。
■「意味づけ力」で見分ける
こういう人を見出すには、面接などで「意味づけをする力」を聞いてみればよいでしょう。「意味づけ力」とは、自分の携わっているものに対して、何らかの強い「意味」を見つけて、楽しんだり、やる気を出したりできる力を指します。
「根拠のない自信」がある人は、「自分に降りかかった経験はすべて意味があること」とポジティブに考えることができるため、「意味づけ力」も高い場合が多いです。
普通の人であれば、嫌だなあと避けたり逃げたりするようなことに、何らかの楽しみや意味を見つけて喜々として取り組んでいるような経験がある人は「意味づけ力」が高い可能性があるのです。
反対に、仕事をえり好みしたり、嫌な仕事はだらだらやったりするような人はダメかもしれません。面接などで人は自分の好きなことばかり話すことが多いですが、それだけを聞いているとこういう人を採ってしまうこともありますので、気を付けたいものです。