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藤井聡太七冠、西山朋佳女流三冠に勝利 9月15日放映・NHK杯2回戦

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 9月15日、第74回NHK杯テレビ将棋トーナメント2回戦▲藤井聡太七冠-△西山朋佳女流三冠戦が放映されました。棋譜は公式ページで公開されています。

 結果は109手で藤井七冠の勝ちとなりました。藤井七冠は澤田真吾七段-冨田誠也五段戦の勝者と3回戦で戦います。

 女流棋士代表の西山女流三冠は、今期はここで敗退。中井広恵現女流六段(2003年当時女流三冠)以来の3回戦進出はなりませんでした。

注目の大一番

 対局開始前、両対局者は次のように語っていました。

藤井「西山女流三冠は振り飛車党で、力強いさばきを得意にされている印象です。私にとっては今期の初戦になるので、よい緊張感を持って対局に臨みたいと思います。早指し戦なので、時間配分に気をつけつつ、最後まで集中して指したいと思います」

西山「せっかくいただいた貴重な機会ですので、自分の勉強になる将棋を求めてがんばりたいなと思っています。本当に藤井七冠はどんな局面においても、最善を追求される方だと思っていますので、大きくリードされないように自分なりにがんばりたいと思います」

 藤井七冠先手で、対局開始。後手の西山女流三冠は角交換から、ダイレクト向かい飛車を選びました。意表の選択のようで、実は西山女流三冠がしばしば用いる作戦でもありました。

 藤井七冠は速攻を含みの駒運び。西山女流三冠は手堅く応じ、すぐに戦いは起こりません。そこで藤井七冠は玉を囲ったあと、6筋の歩を伸ばし大きく模様を張っていきます。

藤井「あまり予定ではなかったのですけど。こちらがやはり先手なので、なにか主張を作っていかなくてはいけないかなということで、位(くらい)を取ってという指し方をしてみました」「かえってマイナスになるおそれもあるので、難しいところかなという気がしました」

 46手目。西山女流三冠は藤井陣に角を打ち込んで、攻めていきました。

藤井「まったく気づいていなくて」「いや、なるほどと思いました」

西山「こちらが先に馬を作ったんですけれども。やっぱりちょっと、玉頭での勢力負けしてる部分もあるのかなと思っていて。成否は難しいかなと思っていました」

 藤井七冠も中段に馬を作ったのに対して、西山女流三冠は馬を藤井陣に潜り込ませます。

西山「5九馬が攻めの要(かなめ)になるような展開になればと思っていたので」

 61手目。藤井七冠は、じっと自陣に歩を打ち、キズを消します。

藤井「これでは自信がないと思ったんですが」

 難しい攻防が続く中、形勢はほとんど互角のまま推移していきました。

藤井「ちょっとこちらの玉がやはり少し不安な形で戦いになってしまって。あまり自信の持てない局面もあったかなと思うんですけど。基本的には難しいかなと思って指していました。こちらが6六銀の形をいかして、玉頭から攻めるような手を指していけるかどうかというのが常にポイントなのかなというふうには考えていました」

西山「本譜はけっこう手厚く指されてしまったのかなと思います」

 藤井七冠は馬を取らせる代わりに桂2枚を得て、駒台には3枚の桂が乗りました。桂は使いづらい駒ですが、藤井七冠はこのあと、実に巧みに桂を使っていきます。要所に桂を据え、自陣の厚みをいかして玉頭戦に持ち込み、優位に立ちました。

西山「少し指しやすさを感じるような局面もなかったわけじゃなかったと思うんですけど。一手一手少しずつ、マイナスの手を指してしまって、最後は少し届かない形になったかなと思います」

 終盤は一手違いの形。しかし藤井七冠は間違えません。109手目、西山玉の頭に打った銀がきれいな捨て駒で、取っても取らなくても、詰みとなります。

西山「負けました」

藤井「ありがとうございました」

 両者ともに深く一礼して、対局終了。歴史的な一番は幕を閉じました。

 感想戦では両者ともに時折笑みを浮かべながら、和やかに検討が続けられていました。

両対局者の今後

 藤井七冠の今年度公式戦成績は、本局の結果を含めて15勝5敗です。

 9月18日には王座戦五番勝負第2局で挑戦者・永瀬拓矢九段と対戦します。

 女流棋戦の対局だけでも多忙をきわめている西山女流三冠。一般棋戦では棋聖戦一次予選を突破する可能性が残されています。

 また西山女流三冠は、棋士編入試験を受験中。第1局は高橋佑二郎四段を相手に勝利を収めました。女性として初めて棋士の資格を得るところまで、あと2勝と迫っています。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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