自治体のパートナーシップ制度に「事実婚」を含めるべきか? 杉並区議会で「賛否両論」
性的マイノリティ(LGBT)のパートナー関係を公的に認める地方自治体の「パートナーシップ制度」。その対象として、異性の事実婚カップルも含めることを求める陳情が今年3月、東京都の杉並区議会で採択された。
陳情書を提出した杉並区の女性は「選択的夫婦別姓が認められていないので、事実婚を選択しているが、不都合が多い。陳情の通り、パートナーシップ制度が変更されることを期待したい」と話している。
「事実婚カップルにも適用を」と区民が陳情
3月18日の杉並区議会・本会議では、議長を除く47人の議員のうち、公明・共産・立憲民主などの会派に所属する30人が「パートナーシップ制度を事実婚カップルにも適用すること」を求める陳情の採択に賛成した。
一方、「無所属・都民ファーストの会」などの7人の議員が反対。最大会派の自民・無所属の10人は退席して、採決に加わらなかった。
杉並区では、2023年4月からパートナーシップ制度が始まった。法的な根拠となっているのは、同年3月に議会で可決された「性の多様性推進条例」だ。
この制度を利用すると、パートナーシップ届受理証が交付される。さらに希望者は、財布などに入れて携帯できる受理証カードを受け取ることもできる。
パートナーシップの届出をすることによって、病院での面会や携帯電話の家族割引などの手続きがスムーズになるほか、区営住宅の入居申込など家族を対象にしたサービスが受けられるようになるという。
しかし、杉並区のパートナーシップ制度の対象は「カップルの両方か、どちらか一方が、性的マイノリティである場合」に限られている。事実婚の関係にある異性カップルは対象外なのだ。
全国の自治体で「事実婚への適用」が広がる
パートナーシップ制度は2015年に東京都渋谷区で初めて導入され、その後、全国の自治体に広がった。
もともとの目的は、同性婚が法的に認められていない日本社会において、LGBTカップルに「結婚に相当する関係」を証明する書類を発行することで、さまざまなサービスや社会的な配慮を受けやすくすることにあった。
だが、東京都の墨田区や国立市、兵庫県や富山県など、全国各地の自治体で、異性の事実婚カップルもパートナーシップ制度の対象に含める動きが広がっている。夫婦別姓を希望するカップルに、法律婚に代わる「次善の策」として利用されているという。
「公的に結婚を証明する手段がほしい」
そんな中、杉並区のパートナーシップ制度に事実婚カップルも含めることを求める「陳情」が、区民から提出された。
提出者の一人である杉並区の女性、Tさんは「元の姓を変えたくない」という理由から、事実婚を選択している。
「事実婚だと明かすと、不思議がられることが多い」というTさん。「かつては、知人から『不潔だ』と言われ、ショックを受けたこともありました」と語る。公的に結婚を証明する手段がないため、不都合を感じることがあるという。
一緒に陳情を提出したYさん(杉並区在住の女性)も事実婚だ。
「去年、杉並区がパートナーシップ制度を始めたとき、私も利用できたらいいなと思ったんですけど、異性の事実婚は駄目なんだと知り、がっかりしました」
パートナーシップ制度に事実婚のカップルも含まれるようになれば、「心のよりどころができる」という意味でも効果があると話す。
「性的マイノリティカップルの方たちと事実婚は、違うグループだと見られてしまうことが多いですが、自治体のパートナーシップ制度によって選択肢が増えるという点では同じだと思っています」
Yさんはこう語り、パートナーシップ制度の対象拡大への期待をにじませる。
事実婚を含めるのは「時期尚早」との意見も
TさんやYさんが杉並区議会に提出した陳情は、先述したように、約3分の2の議員が賛成して採択された。しかし、議員の中には否定的な意見もある。
無所属・都民ファーストの会の安斉昭(あきら)議員は3月18日の本会議で、「パートナーシップ制度は昨年スタートしたばかりで、区民への周知が十分に進んでいない」「事実婚を含めることについて慎重な議論を求める声もある」として、「陳情を審査するのは時期尚早と言わざるをえない」と意見を述べた。
一方、岸本聡子区長は、今年2月の議会で「事実婚を対象に加えることについても検討していく」と述べており、パートナーシップ制度の拡大に前向きな姿勢を見せている。