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なぜ菊池雄星はアストロズで覚醒したのか?

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
アストロズ移籍後は菊池雄星投手(右)の専属捕手を務めるビクター・カラティニ選手(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

【日本人左腕投手最多勝記録に並んだ菊池投手】

 現地時間8月31日に行われたロイヤルズ戦に先発登板したアストロズの菊池雄星投手が、移籍後最長の7回を投げ、5安打、1失点、12奪三振、無四球の好投でチームを勝利に導き、今シーズン7勝目を上げた。

 これで7月29日のトレード移籍以降、アストロズは菊池投手が登板した6試合すべてに勝利。試合後のジョー・エスパダ監督は「彼はここに来てから自分が置かれた立場を認識している。それこそが彼をトレードした理由だ。彼はマウンドに立ちたがっているし、大舞台を欲している」と絶賛した。

 また菊池投手はX上にメッセージを投稿し、西武時代に師と仰いでいた石井一久氏のMLB通算勝利数39に並び、1つの目標をクリアしたことを報告している。

【アストロズ移籍後は投球内容が大幅に改善】

 ところでエスパダ監督の称賛は当然といえるだろう。

 菊池投手は登板した6試合すべてで5回以上を投げ、彼が降板した場面はすべてチームがリードするか、同点で訪れている。すべての試合でチームが勝利するチャンスを創出する投球を続けていることが分かるだろう。

 また移籍後の投球内容も明らかに改善されている。以下はブルージェイズ在籍時とアストロズ移籍後の成績を比較したものだ。

 ・防御率 : 4.75 → 2.57

 ・被打率 : .272 → .178

 ・WHIP : 1.34 → 0.94

 ・K/9 : 10.12 → 12.09

 ・BB/9 : 2.33 → 2.57

 如何だろう。9イニングあたりの四球率がやや上昇傾向にあるものの、それ以外はすべて大幅に改善されているのが理解できる。

【投球の組み立てに明らかに変化が】

 菊池投手がアストロズへのトレードが決まった後、本欄で「菊池雄星を迎え入れたアストロズ指揮官が期待する更なる覚醒」という記事を公開している。記事の詳細については省かせてもらうが、まさにエスパダ監督が期待した通りの結果になっている。

 それではアストロズ移籍後に、菊池投手の投球にどんな変化をもたらしているのだろうか。それを紐解いてくれているのが、アストロズの公式戦中継を担当しているスペースシティ・ホームネットワーク(SCHN)だ。

 彼らが試合中に表示したデータによると、移籍後の菊池投手のスライダー使用率が大幅に増加しているようだ。ブルージェイズ時代の使用率は16.7%に止まっていたのだが、アストロズでは34.5%まで上昇しているという。

移籍前後の菊池雄星投手の投球データ(SCHNの中継画面より)
移籍前後の菊池雄星投手の投球データ(SCHNの中継画面より)

 これこそが、7年連続ア・リーグ優勝決定シリーズ進出を続けるアストロズのデータ分析チーム及び投手戦略部門が考案した、菊池投手の投球を効果的に引き出す投球術なのだろう。

【ダルビッシュ投手の元相棒が専属捕手に】

 さらにアストロズは、菊池投手に専属捕手をつけるようにしている。ここまで6試合すべてで先発捕手を務めているのがビクター・カラティニ選手だ。

 カラティニ選手の名前に馴染みのある人も多いはずだ。カブス時代からダルビッシュ有投手の専属捕手を務め、同投手とともにパドレスにトレードされるほど相性抜群の捕手だった。

 実際MLB在籍13年目で通算277試合に先発登板しているダルビッシュ投手だが、カラティニ選手が捕手を務めたのは最多の61試合に上るほど強力タッグを築いていた。

 だが2022年4月にブルワーズにトレードされ、コンビは解消。昨シーズン終了後にFAとなり、アストロズに移籍していた。

地元メディアによると、カラティニ選手は四六時中菊池投手との対話を欠かさず、相手チームの攻略法を話し合っている。そして菊池投手が投げたい球種を理解しようと努力しているようだ。日本人投手の機微を理解するベテラン捕手のサポートは、菊池投手にとって大きな支えになっているだろう。

 アストロズに移籍して“水を得た魚”状態になったように見える菊池投手。9月の投球も更なる好投を期待したいところだ。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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