Yahoo!ニュース

菊池雄星を迎え入れたアストロズ指揮官が期待する更なる覚醒

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
アストロズへの移籍が決まった菊池雄星投手(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

【菊池投手の移籍先がアストロズに決定】

 すでに日本各所で報じられているように、ブルージェイズからのトレードが確実視されていた菊池雄星投手がトレード期限の1日前となる7月29日、アストロズへトレードが決まった。

 MLBで恒例になっているシーズン中のトレードは、ポストシーズンを目指すチームが短期的な戦力補強を断行する意味が強く、今回アストロズは菊池投手を獲得するため3人の若手有望選手を犠牲にしている。

 MLB公式サイトが発表している各チームの若手有望選手ランキングによると、アストロズが放出した3選手は、同ランキングで2位、8位、19位に入る有望選手ばかり。それほどアストロズは熾烈なポストシーズン争いが予想される残り2ヶ月で、是が非でも菊池投手が欲しいと感じていたからに他ならない。

【米メディアは3選手を獲得したブルージェイズを高評価】

 ちなみに今回のトレードに関する米メディアの評価を確認してみると、若手有望選手3人を獲得したブルージェイズに対する評価が高く、菊池投手を獲得したアストロズの評価はそれほど高くない。

 例えばスポーツ専門サイト「The Athletic」では3人の記者がトレードの採点を行っているのだが、3人がブルージェイズに対し「A」もしくは「A-」の評価をしているのに対し、アストロズについては菊池投手の高額年俸(1000万ドルの残り2ヶ月分をアストロズが負担)を加味して「B」もしくは「C+」の評価に止まっている。

 それでも3人の記者は一様に菊池投手を「短期レンタルできる選手の中でベストな先発投手の1人」と捉えるとともに、「アストロズの先発ローテーションを安定させる」と考えている。

【負傷者が続出していたアストロズ先発投手陣】

 というのも、シーズン開幕前のアストロズはMLBでも屈指の先発投手陣だと目されていたのだが、負傷者続出でずっと危機的状況が続いているのだ。

 今シーズンから本格的にローテーション入りが期待されていたホゼ・アーキーディ投手が開幕前に戦線離脱し、5月にトミージョン手術を受け復帰は来シーズン以降に。また昨シーズンは31試合に先発登板していたクリスチャン・ハビアー投手も右ひじを負傷し、同じくトミージョン手術を余儀なくされている。

 さらにアスロトズ先発投手陣の精神的支柱ともいえるジャスティン・バーランダー投手も負傷のためシーズン開幕に間に合わず、また戦列復帰した後も6月に首の不調で再び負傷者リスト入りし、現在も戦列復帰できていない。

 そうした状況だっただけに、今シーズンは先発ローテーションを守り続けMLB最多タイの22試合に先発登板し、115.2イニングを投げている菊池投手は先発投手陣を安定させるのに最適の存在だと考えられたわけだ。

 トレード成立後にメディア対応したダナ・ブラウンGMも以下のように話し、菊池投手を獲得した意義を説明している。

 「キクチは三振を奪える投手で、長いイニングを任せられると考えている。それは我々が必要としているものだった。

 また彼はポストシーズンにおいても投手陣にパワーをもたらしてくれる。今回の補強はシーズン終盤を戦う上で重要なものだったと感じている」

【アストロズ指揮官が期待する更なる覚醒】

 今シーズンの菊池投手は、勝利数(4勝)、防御率(4.75)ともに決して芳しくない成績とはいえないが、フォーシームの平均球速は95.6mphはMLB移籍後最速を維持し、空振り率、三振率、四球率がいずれもMLBトップ30%内に入っている。

 そのためMLB内ではリーグ屈指のボールを投げる投手という評価が定着しており、そのため今シーズンのトレード市場でも高い評価を受けていたのだ。

 その一方で、アストロズはここ数年マイナー組織で先発投手を育成し、次々にメジャーに送り出している投手王国として認知されるようになっている。そうした背景があるため、ジョー・エスパダ監督はアストロズ移籍後の菊池投手に更なる覚醒を期待しているようだ。

 「彼の投球(球種)は常に素晴らしいものだ。自分がエキサイトしていることは。我々の投球部門の下で彼がどのような投球をし、彼の投球がどれほど効果的になるのかが楽しみでならない」

 現在マリナーズ、レンジャーズと熾烈な地区争いをしているアストロズだけに、重要な戦力として迎えられた菊池投手は常に好投が期待される立場だ。それだけ必然的に多大なプレッシャーを受けることにもなる。

 ただ残り2ヶ月で期待通りの投球をできるようならば、ポストシーズンで自身初の先発登板の機会を得られることになるし、シーズン終了後も新たな高額契約が待ち受けるはずだ。

 菊池投手にとって今後の野球人生を左右するような2ヶ月になることだけは間違いない。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

菊地慶剛のスポーツメディア・リテラシー

税込550円/月初月無料投稿頻度:月3、4回程度(不定期)

22年間のMLB取材に携わってきたスポーツライターが、今年から本格的に取材開始した日本プロ野球の実情をMLBと比較検討しながらレポートします。

※すでに購入済みの方はログインしてください。

※ご購入や初月無料の適用には条件がございます。購入についての注意事項を必ずお読みいただき、同意の上ご購入ください。欧州経済領域(EEA)およびイギリスから購入や閲覧ができませんのでご注意ください。

菊地慶剛の最近の記事