客室で全裸、いきなりドアが開く!? その時どうする、とっさに出た言葉とは?
コロナ禍で頻度は激減しているものの、基本的にホテル暮らし=仕事という日々においてこれまで様々な体験をしてきた。高級ホテルからビジネスホテル、カプセルホテル、旅館など様々な宿泊施設の横断的評論が筆者のスタンスであり、異なるカテゴリーを比較してわかることも多い。とはいえ“概して”ということであれば、料金の高い高級ホテルで洗練されたサービスを受けることは多く、安い宿になるほどそれなりということになる。
他方、安い宿でも感動的な体験をすることもあるし、時に高級ホテルでも残念な思いをすることもあるが、ホテルサービス喜怒哀楽の根底には支払う料金からの期待値がある。残念な体験でいえば、ホテル側の非によるものだからこそ残念と感じる一方、自らのミスが原因でただただ反省するしかないといったこともある。基本的にポジティブ思考なので、このような時は次回への糧として前向きに考えるようにしている。
今回は後者。自らのミスが招いたある種の悲劇だ。
仕事柄、ホテル名はもちろん宿泊した日、客室、評価、出来事など都度メモしている。記録を紐解くと過去10年間で5回、同じ自身のミスが元で同様のケースを招いているが、今回初めてのケースだったのは“客室に全裸”でいたことだ。同様のケースとはドアガードをしていない状態で解錠されたことである。
具体的にはチェックアウト近く、既に清掃が始まっている時間帯において、チェックアウトが済んだ客室と誤認され、清掃スタッフにより解錠・入室され(そうになる)る場合だ。10年間2600泊ほどの中で5回だから確率としては(当たり前だが)非常に低いが、ドアガードをしてあったケースであれば、ドアが解錠されそうになったのは10倍ほどの体験数となる。
2020年8月9日、個人的な緊急必要な所用で某県U市のビジネスホテル803号室に滞在していた。名の知れたハイクラスタイプの全国チェーンである。10時に予定していたチェックアウトに備えシャワーを浴びた直後、全裸姿でバスタオルを手に取ろうとした瞬間にいきなりドアが開いた。真夏の朝のウォーキングを終え汗だくだったこともあり、慌ててシャワーへ向かったこともありドアガードを忘れていたのだ。
清掃に来た女性スタッフと無防備な姿の中年おじさんとの目が合う。こうしたシーンで女性なら即悲鳴といったイメージもあるが、おじさんとしては驚きが先行し叫声など出ない。筆者からとっさに出た言葉は「あっ、スミマセン」であった。直後女性スタッフは「失礼しました!」とドアを閉めた。ある種、被害者は中年おじさんの裸体を目にしてしまった女性スタッフかもと考えると、あのスミマセンは正しかったかもしれないといまになって思う。
運転免許の教習所でだろう運転ではなくかもしれない運転をと教わったが、それは人生の様々なシーンにおいての教訓でもある。
話はかわるが、取材等でホテルを訪れ使われていない客室をショールームさせていただくことが多い。営業中のホテルはもちろん、たとえば開業前取材で明らかに不在である場合でも、ホテルスタッフは必ず数回ノックをしてからマスターキーで開錠する。このノックしてからの解錠はホテルとしては常識的なマナーであるが、過去5回のノードアロック解錠というケースで共通していたのは、ノック後こちらの返答を待つまでも無くただちに解錠されたことだ。トントントン・・・・・・ガシャではなくトントントンガシャ、換言すると“瞬殺”である。
コロナ禍以前からホテル業界全体で人手不足が叫ばれてきた。特に、清掃スタッフについては深刻とされ、そもそも派遣する会社でも求人するも集まらない状況だという。ハウスキーピングはなるべく短時間で仕上げることが求められる作業であることは想像に難くないが、特にこのような人手不足にあってはよりそうした傾向は強くなるのかもしれない。いずれにしても、清掃時間帯にホテルの廊下を歩いていると、トントントンガシャの形式的なノックを見かけるシーンが時々ある。
話を戻して、ドアガードとは本来訪問販売や勧誘の対策として考えられた設えといわれる。ドアを開けて玄関に入られる前に相手を確認できるというのは機能としてよくわかる。ホテルにいると「在室中や就寝の際には必ず内鍵とドアガードを」というホテルの注意喚起を見かけるが、不審者の来訪に際し不用意な開扉を防ぐという意味合いだろう。
一方で、ホテルにおいてドアガードがその威力を発揮するのは、特にオートロックの客室において、たとえば清掃のシーンでいえばロックを防ぐために役立つだろうし、ゲストからすると今回のような不意な(ホテル側からの)解錠を防ぐという点でも有用と感じる。
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今回の体験ではいままでの4回とは違った点があった。直ちに内線電話が鳴りフロントから謝罪があったことだ。逆に言えばこれまでの4回ではそうしたことはなかった。特段フロントへ苦情を言ったこともなかったので、まさに“なかったこと”で終わっていたのかもしれない。不意に鳴った803号室の内線電話、フロント氏からの丁重な謝罪に「こちらこそスミマセン」と思わず謝ってしまいそうな自分がいてひとり失笑した。