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伸びるネット広告、落ち込む新聞…日本の広告費を経済産業省の調査結果から検証する(2022年公開版)

不破雷蔵「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者
日常生活に溶け込む広告。その額の実情は。(写真:アフロ)

日本の広告費はどのような動きを示しているのか。経済産業省の特定サービス産業動態統計調査の結果を基に検証する。

まずは直近分となる2021年における各項目の金額累計。

↑ 媒体別広告費(億円)(2021年)
↑ 媒体別広告費(億円)(2021年)

全体の額をグラフ内に盛り込んだために他の項目があまり目立たない形となっているが、テレビ単独の金額の大きさ、インターネット広告の実情、屋外などの一般広告の市場規模などが改めて確認できる。テレビは単独で年間1兆3985億円、インターネットは1兆3792億円の広告市場を持っている。

続いて積み上げグラフによる推移確認。従来型4大メディア(いわゆる「4マス」)を黒枠で囲い、区分として見やすくしている。また4マスとインターネットに関して、その推移を折れ線グラフ化したのも追加しておく。

↑ 媒体別広告費(積み上げグラフ、億円)
↑ 媒体別広告費(積み上げグラフ、億円)

↑ 媒体別広告費(4マスとインターネット、億円)
↑ 媒体別広告費(4マスとインターネット、億円)

広告費は景気と高い連動性・正の比例的関係がある。景気がよい時は広告費も大きくなり、景気が後退すると広告費も減少する。とりわけ直近ではリーマンショックの影響を大きく反映し、2009年が前年から格段と落ち込み、2010年以降は順調に持ち直し動きを見せていた。2016年に至るまで、6年連続して前年比でプラスを示していたのが見て取れる。2017年以降は前年比でいくぶんの減少を示していたが、これは4マスの減り方が大きいのが主要因。さらに2020年ではあからさまな減少の動きが起きているが、これは言うまでもなく新型コロナウイルス流行による経済活動の減退で生じたものである。直近の2021年では、2020年よりは回復したこともあり、各媒体ともそれなりに数字を戻し、広告費全体も増えている。しかし新型コロナウイルス流行直前となる2019年の水準までには戻っていない。

また、それとは別に各媒体の事情、例えばテレビは2000年前後がピークで、それ以降は減少の一途をたどり、さらにリーマンショックで大きな影響を受けたこと、その後は少しずつ金額を戻してはいるが、金融危機以前の水準までにはまだ届いていないこと、さらにここ数年では失速に動きを転じていることが分かる。また4マスとインターネット以外の一般広告(積み上げグラフの緑の部分)は、やはりリーマンショックの影響による急激な落ち込みを除けば、比較的堅調に推移していたことなどが確認できる。ただし2017年以降は4マス同様に漸減中。一般広告は直近2021年の2020年からの戻しの勢いも弱い。

雑誌はこの10年で半減を超える減少ぶり。ラジオは3割を超える減少。「広告費」と「利用率・媒体力」はそのまま直結するわけではないものの(景気動向やライバル媒体とのパワーバランス、そしてコストの観点での効率化も影響する)、激動する時代、そしてメディアの変貌の実情を感じさせるに違いない。

2020年以降に生じている新型コロナウイルスの流行による大きな動きは、感染症の流行という特殊条件における経済の沈滞が広告業界にどのような影響をおよぼすのかについて、具体的な値を示した形と表現できる。2021年にはある程度の回復が見られたが、一方で生じた変化がそのまま定型化し、2022年以降も2020年・2021年と同じような傾向を示す可能性がある。今後の動向には大いに注目したいところだ。

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(注)本文中のグラフや図表は特記事項の無い限り、記述されている資料からの引用、または資料を基に筆者が作成したものです。

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(注)グラフ中では体裁を整えるために項目などの表記(送り仮名など)を一部省略、変更している場合があります。また「~」を「-」と表現する場合があります。

(注)グラフ中の「ppt」とは%ポイントを意味します。

(注)「(大)震災」は特記や詳細表記の無い限り、東日本大震災を意味します。

(注)今記事は【ガベージニュース】に掲載した記事に一部加筆・変更をしたものです。

「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者

ニュースサイト「ガベージニュース」管理人。3級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)。経済・社会情勢分野を中心に、官公庁発表情報をはじめ多彩な情報を多視点から俯瞰、グラフ化、さらには複数要件を組み合わせ・照らし合わせ、社会の鼓動を聴ける解説を行っています。過去の経歴を元に、軍事や歴史、携帯電話を中心としたデジタル系にも領域を広げることもあります。

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