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ワクチンデマ、信じるのはどのような人たちか データで見るその心理

原田隆之筑波大学教授
(提供:kikuko/イメージマート)

ワクチン接種意図の変化

 現在、わが国ではコロナのワクチン接種が急速に進んでいる。2回目の接種を終えた人は、国民の過半数に及び、米国の接種率も追い抜いた。

 前々回の記事で、ワクチン接種に関する調査データを紹介したが(「ワクチンを接種した/したい」が85.5% 若者の接種希望も大幅増)、そこではワクチンを接種したいと回答した人は、全体の85.5%に及んでいることがわかった。20代、30代の若い世代でも、約80%であった。

 ワクチンを接種したいという人の割合は、4月時点での調査結果から大幅に増加していたが、その大きな理由は、「変異株など今の感染状況を見て打ったほうがよいと思ったから」「周りの人が打っているから」というものであった(ワクチン接種に対する心理は、4月からの5か月間でどう変化したか そしてその理由は?)。

 こうした理由を見ると、ワクチン接種希望者が増えているとは言っても、安心ばかりはしていられないことがわかる。なぜなら、その接種意図の変化は、多分に偶発的な外的要因や周囲の状況に大きく影響を受けたものだからだ。

 逆に言うと、感染状況が落ち着いたり、周囲の人々から「打たないほうがいい」と勧められたりすると、その接種意図が変化する危険性もある。そうした悪影響の最たるものが、いわゆる「ワクチンデマ」である。

ワクチンデマ

 かつて、「ワクチンデマ」に関する記事を書いたとき(ワクチンをめぐるデマの危険性 なぜ人はデマにはまるのか)、「デマとは何事だ」「勝手に決めつけるな」などというメールが大学や私自身にたくさん届いたので、よりニュートラルな言葉を使うと、「ワクチンに対する科学的に支持されていない情報」と呼ぶべきであろう。しかし、やはり長たらしくて面倒なので、ここでも「ワクチンデマ」と呼ぶことにする。

 厚生労働省のサイト「新型コロナワクチンQ&A」では、よく聞かれる7つの「デマ」が列挙され、1つ1つ丁寧に否定されている。また、ワクチンに対する科学的で信頼の置ける情報を伝える「こびナビ」でも「ミスバスターズ」として、多くの「デマ」をわかりやすく否定してくれている。

 私は、これらの代表的な「デマ」を信じる人々が、どのような傾向を有し、どのような心理状態なのかを調べるために調査を行った。調査対象は、全国の1,000人で、先述のワクチン調査のデータの対象と同じ人々である。

 調査では、以下の6つの「デマ」をそれぞれどの程度信じているか(そう思う、ややそう思う、あまりそう思わない、そう思わない)を得点化(4点から1点)して分析した。

1 ワクチン接種により不妊が起きる

2 ワクチン接種すると遺伝子が組み換えられる

3 卵巣にワクチンの成分が大量に蓄積される

4 ワクチン接種すると死亡リスクが高くなる

5 ワクチン接種すると体から毒素が漏れ出して周囲の人にも悪影響を及ぼす

6 ワクチンにはマイクロチップが含まれていて、行動の監視をされるおそれがある

「デマ」の信奉度

 回答者は、男性480人、女性520人で、平均年齢は53.6歳であった。回答者の年代の内訳は、日本の年代分布に従うようにデータを収集した。

 「デマ」のスコアは、最大24点、最低6点となるわけだが、平均は9.68点だった。スコアの分布は図1のとおりである。

図1 「デマ」信奉度の分布(著者作成)
図1 「デマ」信奉度の分布(著者作成)

(注)先に載せた図は、縦軸の単位が「人数」ではなく「割合」になっていたので、「人数」のものに差し替えました。

 これを見るとわかるように、低スコアのほうに偏った分布をしており、まったく信じていない人が一番多く、デマを強く信じている人は非常に少ないということがわかる。

 6つのなかで、一番信じられていたのは「4 ワクチン接種すると死亡リスクが高くなる 」で、一番信じられていなかったのは、「6 ワクチンにはマイクロチップが含まれていて、行動の監視をされるおそれがある」であった。

 次に、年代別に「デマ」信奉度を見ると、図2のようになる。これは、「デマ」信奉度スコアをもとに、6つすべて「やや信じる」場合の12点を基準とし、それ以下を「デマを信じない」群、13点以上を「デマを信じる群」と定義して、グラフ化したものである。

 つまり、「はっきりとデマを信じている人」「はっきりと信じていない人」の2つのグループに分けて、年代別にその分布を見たものである。40代以下の比較的若い層は、「デマ」を信じている人が比較的多いことがわかる。

図2 年代別「デマ」信奉度(著者作成)
図2 年代別「デマ」信奉度(著者作成)

(注)最初に載せたグラフは、平均値を基準にして、平均値よりスコアが高い人々を「デマ」を信じてる群、低い人々を「デマ」を信じていない群としていました。しかし、全体の分布が極端にスコアが低いほうに偏っているため、それではスコアが非常に低い人も「デマ」を信じている群に入ってしまい、実際を反映していないグラフとなっておりました。そのため、こちらのグラフに差し替えました。

どのような人が「デマ」を信じているのか

 次に、どのような人たちがデマを信じる傾向にあるのかを調べた。分析において、用いたのは、以下の3種類の変数である。

1 人口学的変数 ー 性別、年齢、教育程度、年収

2 コロナに関する変数 ー コロナに対する不安、政府への信頼感、コロナに関する情報源(新聞、テレビニュース、SNS、YouTube)

3 心理的変数 ー 一般的不安、反科学的態度、疑似科学信奉度

 これらを、重回帰分析という方法で分析し、「デマ」信奉度に対するその影響の大きさを調べた。

 その結果、性別、教育程度、年収には、有意な関連はなかった。

 最も関連が大きかった「ビッグ3」は、「コロナに対する不安」(β=-.074, p=0.00)・「政府への信頼感」(β=-0.32, p=0.00)「YouTube」(β=0.61, p=0.00)であった。これを誤解のないように説明しておくと、最初の2つはマイナスの関連であって、「コロナに対する不安」が小さく、「政府への信頼感」が低い人ほど、「デマ」を信じる傾向にあるということである。そして、コロナに関する情報源としてYouTubeを用いる頻度が高いこともわかった。

 これらに次いで関連の大きかったのは、反科学的態度、疑似科学信奉度、一般的不安、年齢であった。反科学的態度というのは、文字通り科学への反感が強い態度である。疑似科学信奉度とは、UFOや超能力など疑似科学やオカルト的なものを信じる態度である。一般的不安というのは、日常的にどの程度不安傾向が高いかを示している。これらの傾向が高いほど、「デマ」を信じる傾向が強かった。年齢については、若年であるほどデマを信じる傾向が強かった。

 ここで興味深いのは、不安に関してである。「デマ」を信じる傾向が強い人は、日常的な不安傾向は高いが、コロナに対しては不安を感じていない傾向があったという点である。

 これは、常日頃から不安の強い人が、コロナに関しては「デマ」を信じることで、「コロナ不安」を和らげようとしていると解することができるだろう。

ワクチン接種との関連

 「デマ」への信奉度とワクチン接種との関連も見てみよう。図3をご覧いただきたい。

 これも、「はっきりとデマを信じている人」「はっきりと信じていない人」の2つのグループに分けて、ワクチン接種意図を調べてみたものである。

図3 「デマ」信奉度とワクチン接種(著者作成)
図3 「デマ」信奉度とワクチン接種(著者作成)

(注)こちらも同様にグラフを差し替えました。それに従って、以下の内容も修正しました。特に、デマの影響は当初述べたよりもさらに小さいことがわかりました。

 これを見ると、「2回接種済」の人が一番多い(578人)のであるが、その圧倒的大多数である552人(95.5%)は「はっきりとデマを信じていない」人たちである。わずかではあるが、「はっきりとデマを信じている」にもかかわらず2回接種している人もいる。

 逆に、「絶対接種しない人」「多分接種しない人」は、少数であるが(89人)、その半数弱の38人(42.7%)は、「はっきりとデマを信じている」人であった。

 ここからわかったことは、全体的には「デマ」の影響は非常に小さいということである。明確なワクチン忌避傾向も、「デマ」との関連は限定的だと言えるだろう。

 しかし、最初に述べたように、ワクチンに対する態度は、そのときどきの外的要因や周囲の意見によって左右されやすい流動的なものである。

 したがって、現時点では「デマ」の影響は大きくないものの、一旦それを信じてしまうと、ワクチン忌避へとつながる危険性があると言える。今後も「ワクチンに関する科学的に支持されない情報」には、継続的に十分な注意を払う必要があるだろう。若年層は、まだ接種できていない人が多いのであるし、この世代が最も「デマ」の影響を受けやすいのであるから、尚更注意が必要である。

筑波大学教授

筑波大学教授,東京大学客員教授。博士(保健学)。専門は, 臨床心理学,犯罪心理学,精神保健学。法務省,国連薬物・犯罪事務所(UNODC)勤務を経て,現職。エビデンスに基づく依存症の臨床と理解,犯罪や社会問題の分析と治療がテーマです。疑似科学や根拠のない言説を排して,犯罪,依存症,社会問題などさまざまな社会的「事件」に対する科学的な理解を目指します。主な著書に「あなたもきっと依存症」(文春新書)「子どもを虐待から守る科学」(金剛出版)「痴漢外来:性犯罪と闘う科学」「サイコパスの真実」「入門 犯罪心理学」(いずれもちくま新書),「心理職のためのエビデンス・ベイスト・プラクティス入門」(金剛出版)。

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