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妊娠中のストレスが子どものアトピー性皮膚炎のリスクを高める?最新の研究結果を解説

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
(提供:イメージマート)

【母親のストレスが子どものアトピー性皮膚炎のリスクを高める可能性】

近年、母親の妊娠中のストレスやメンタルヘルスが子どもの健康に影響を与える可能性が注目されています。特に、アトピー性皮膚炎など、子どもの皮膚疾患との関連性が指摘されています。アトピー性皮膚炎は、慢性的な湿疹やかゆみを伴う炎症性の皮膚疾患で、乳幼児期に発症することが多いです。

最新のメタ分析では、妊娠中のストレスや不安、うつ状態にあった母親から生まれた子どもは、そうでない母親の子どもと比べて、アトピー性皮膚炎を発症するリスクが高いことが示されました。特に、妊娠中の母親の精神的苦痛(オッズ比1.29)、不安(オッズ比1.31)、ネガティブなライフイベント(オッズ比2.00)との関連が認められました。一方で、産後のうつとアトピー性皮膚炎の発症リスクとの有意な関連は見られませんでした。

【母親のストレスが子どもの皮膚に影響を及ぼすメカニズム】

母親のストレスが子どもの皮膚疾患のリスクを高める正確なメカニズムはまだ完全には解明されていませんが、ストレスと免疫系の関係が鍵を握っていると考えられています。妊娠中は母子の生物学的なつながりが強く、母親のストレスによって炎症性のバイオマーカーが上昇することが報告されています。

アトピー性皮膚炎は、皮膚の炎症を特徴とする疾患であり、免疫系の働きが深く関わっています。妊娠中の母親のストレスが慢性的に続くと、子どもの自律神経系やストレス反応系に変化をもたらし、Th2型の免疫反応が優位になる可能性があります。また、母親のストレスやメンタルヘルスの問題は、子どもの腸内細菌叢にも影響を与えることが分かっています。腸内細菌叢の変化は、アトピー性皮膚炎の病態形成に関与している可能性が指摘されています。

【妊娠中・産後のメンタルヘルスケアの重要性】

妊娠中や産後の母親のメンタルヘルスは、母子の健康を左右する重要な要因の一つです。妊娠期は女性にとって身体的にも精神的にも大きな変化の時期であり、周囲のサポートや専門的なケアを受けられる環境を整えることが大切です。ストレスへの対処法を身につけたり、積極的に周りに助けを求めることで、母親自身の心身の健康を守ることにつながるでしょう。

また、父親のストレスや子ども自身の早期のストレス体験とアトピー性皮膚炎との関連についてはまだ研究が少なく、今後さらなるエビデンスの蓄積が求められます。妊娠中からの継続的な親子のメンタルヘルスへの支援は、子どもの健やかな発育を促し、アレルギー疾患の予防にもつながる可能性があるため、社会全体で取り組んでいくべき課題だと言えるでしょう。

子育て中は、ストレスを感じることは誰にもあること。一人で抱え込まずに周りの助けを借りることが大切です。赤ちゃんとの触れ合いを楽しみながら、リラックスできる時間を作ることを心がけましょう。皮膚トラブルが気になる際は、早めに皮膚科専門医に相談することをおすすめします。

参考文献:

Ai Y., Huang J., Zhu T.T. Early exposure to maternal stress and risk for atopic dermatitis in children: a systematic review and meta‐analysis. Clin Transl Allergy 2024; e12346. https://doi.org/10.1002/clt2.12346

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

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