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北朝鮮の男女30人「腰振り狂宴」で吊し上げの刑

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
北朝鮮の公開裁判(デイリーNK)

 北朝鮮の公園では、多くの人が集まってピクニックを楽しむ様子が見られる。これを野遊会と呼ぶ。持ち寄った弁当箱を広げてごちそうに舌鼓を打ち、酒を酌み交わし、興に乗って踊る。娯楽の少ない北朝鮮で、何よりの楽しみだろう。

 ところが、こんな他愛のないイベントが大問題となっている。米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。

 慈江道(チャガンド)の情報筋によると、中江(チュンガン)郡製薬工場、文化会館、外貨稼ぎ事業所の約30人の労働者は6日、農村支援を終えて野遊会を開いた。酒に酔った男女は腰を振って踊りだした。

(参考記事:北朝鮮の女子高生が「骨と皮だけ」にされた禁断の行為

そして、腕を頭の上に上げてハートマークをしたり、VサインやOKサインをした。さらに、その現場をスマートフォンで撮影した。

 ところが、これが郡の安全部(警察署)に露呈し、「資本主義の狂宴」と指弾され呼び出されたのだ。容疑は最高刑が死刑の「反動思想文化排撃法」の違反だ。

 今まで特に問題視されることはなかったが、北朝鮮には元々存在せず、韓流ドラマや映画の影響を受けたと思われるダンスやサインが問題とされたようだ。

 摘発された労働者は、幸いにして重罪は免れ、批判書を書かされるだけで済まされた。しかし、野遊会を企画した朝鮮労働党の工場内の委員会や青年同盟の書記は、朝鮮労働党中江郡委員会の組織指導部、青年同盟組織部に呼びされて、思想検討を受けている。「見せしめ」として吊し上げられているということだ。それが終わったら、本格的な裁判で重罪に問われる可能性もある。

 別の情報筋によると、慈江道では今回のような農村支援の打ち上げとして行われる野遊会が大きな問題となっている。道内の各市、郡の朝鮮労働党、安全部、保衛部(秘密警察)などは、野遊会そのものが韓国文化であると見做して問題視し、取り締まりを強化している。

 このようなイベントは、経済的に余裕のあった2015年まで広く行われていたが、それ以降は経済難とコロナ禍などのために開かれておらず、8年ぶりの開催とだった。

 当局は、なぜか今になってこれを問題視。また、それを目の前で見ながら放置した幹部に対しても、厳しい批判を浴びせている。

「野遊会に参加した労働者が退廃的な踊りを踊り、韓国映画で見たサインを真似して、それを撮影したのに、幹部は見守るだけだった。資本主義思想文化を率先して阻止すべき幹部が、目の前で繰り広げられた事態を見て見ぬふりをしたのが大問題となった」(情報筋)

 現在調査が進められており、朝鮮労働党創建日の今月10日以降に幹部に対する処分が下される見込みだ。解任撤職(更迭)、あるいは少なくとも3カ月、長ければ6カ月の無報酬労働の処分が下されるとの噂が、下級幹部の間で流れている。

 北朝鮮当局は、韓国文化の浸透力の圧倒的強さに危機感を覚え、反動思想文化排撃法に加え、韓国風の言葉遣い、文章などをターゲットにした「平壌文化語保護法」、若者に対する思想教育を強化するための「青年教養保障法」を制定し、取り締まりを強化している。

 しかし、他愛のないダンスやサインなど、もはや韓国文化だと認識されることなく北朝鮮に定着してしまっているものは数多い。知らずにやってしまって逮捕された事例も存在する。

 北朝鮮の人々の間では、韓国をかっこいい、かわいい、おしゃれだ、高級だなどと肯定的に考えるのが当たり前となってしまった。理不尽とも言える厳しい取り締まりや旧態依然とした思想教育で、真実を知ってしまった人々の考えを変えることはできない。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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