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自己推薦枠?オンライン?日本ラグビーのユニークなタレント育成キャンプとは

多羅正崇スポーツジャーナリスト
一芸型の高校生80人に「日本代表ファミリーになろう」と呼びかけた。画像:JRFU

全国的に無名だが規格外の「サイズ」「スピード」を持つ高校生を集めた日本ラグビー協会の育成キャンプ。

通称「ビッグマン&ファストマン(B&F)キャンプ」。

2018年にスタートした個性的な同キャンプが8月22日から2日間、「2020年度第1回TID(タレント発掘育成)ユースキャンプ」として、オンライン形式で初実施された。

コロナ禍による“オンライン合宿”に参加した高校生は80名。

他薦から62名、初導入となる自己推薦枠からは18名が参加した。

2日間合計で約4時間の短期キャンプだったが、ユース強化のオールスターともいえる指導者が次々に登場したセッションは、“濃密”のひと言だった。

B&Fキャンプ発起人の野澤氏によるキャンプ初日の【マインドセット】セッションの一場面。2つのゴールを掲げた上で意識の変革を求めた。画像:JRFU
B&Fキャンプ発起人の野澤氏によるキャンプ初日の【マインドセット】セッションの一場面。2つのゴールを掲げた上で意識の変革を求めた。画像:JRFU

合宿1日目は、4つのセッション(【マインドセット】【目標設定】【スキル・原理原則】【ビッグマン/ファストマン】)で構成。

合宿2日目(最終日)は、3つのセッション(【振り返り・目標設定】【ビッグマン/ファストマン】【高校代表に求める選手像と戦術】)が行われた。

選手達は熱心にメモを取り続け、インプットした内容はすぐに少人数のグループワーク(約2~4分)でアウトプット。

スクラム姿勢やランニングフォームなど、実際に身体も動かす場面も多くみられた。

【ファストマン】セッションの一場面。身体を動かしフォームを確認。画像:JRFU
【ファストマン】セッションの一場面。身体を動かしフォームを確認。画像:JRFU

初日の【マインドセット】セッションは、B&Fキャンプの発起人であり、日本ラグビー協会でタレント発掘に従事してきた野澤武史氏が担当。

キャンプの目標を共有した上で「君達はすでに日本代表へのレールの上に乗っている」と熱く語りかけ、意識の変革を求めた。

続く【目標設定】セッションは、プロ野球界やバスケ界でも活動する異色の“コーチのコーチ”、日本ラグビー協会の今田圭太氏が担当。

「目標設定の必要性」「良い目標設定をする2つのポイント」など、ラグビー以外でも役立つ知恵をレクチャーした。

【スキル・原理原則】セッションの担当は、パナソニックで12年間プレーした日本ラグビー協会リソースコーチの三宅敬氏(ワイルドナイツスポーツプロモーション)。

海外ラグビーの試合映像も駆使しながら、ラグビーの原理から指導。ブレイクダウンとハイボールキャッチに特化したスキル講義も行われた。

“コーチのコーチ”として活動する日本協会の今田氏による【目標設定】セッション。こうした少人数のグループワークが頻繁に行われた。画像:JRFU
“コーチのコーチ”として活動する日本協会の今田氏による【目標設定】セッション。こうした少人数のグループワークが頻繁に行われた。画像:JRFU

そして2日間にわたり【ビッグマン】のスキルセッションを担当したのは、元パナソニックのフッカーで、U20日本代表監督の水間良武氏。

そして【ファストマン】担当は、スピード強化のスペシャリストで、U17から日本代表までに関わってきた里大輔コーチ(SATO SPEED Inc.)。

2日目には高校日本代表を率いる元東芝の品川英貴監督(長崎北陽台)が登場し、「高校代表に求める選手像と戦術」を直接伝えた。

まさにユース強化のトップランナーが勢ぞろいした贅沢な時間だったが、こうした機会を自己推薦により掴んだ高校生が18名いたことは特筆すべきだろう。

高校日本代表の品川英貴監督。文武両道のラグビー少人数校・長崎北陽台を率いて全国大会ベスト8などを達成。2018年度ジャパンコーチングアワード【変革賞】を受賞し2019年度より同代表監督。写真:JRFU
高校日本代表の品川英貴監督。文武両道のラグビー少人数校・長崎北陽台を率いて全国大会ベスト8などを達成。2018年度ジャパンコーチングアワード【変革賞】を受賞し2019年度より同代表監督。写真:JRFU

そもそもB&Fキャンプの参加者80名は、以下の基準から選考されている。

『身長190センチ以上、体重115キロ以上、立ち幅跳び280センチ以上のいずれかに準ずる』

サイズに優れた「ビッグマン」か、それともスピードに優れた「ファストマン」か。

完成度は問わない、競技歴が3か月でもかまわない、1回戦で負けてしまうラグビー無名校でもよい。

しかし突出した「サイズ」「スピード」を持つ彼らを招集し、日本ラグビー協会としての期待を伝え、今後もラグビーを続けてもらいたい――。

B&Fキャンプはそんな目的から2018年にスタートし、年2回(夏冬)のペースで実施。

第1回の参加者は78%がその後トップレベルでラグビーを続けたといい、LO松本光貴(明大中野八王子-明大)にいたっては飛び級でU20日本代表に参加した。

そして3年目の今回は、初めて自己推薦枠を設け、18名が2分以内の自己PR動画による審査を通って参加した。

B&Fキャンプの発起人であり、コロナ禍でアピール機会を失った高校生を救う動画投稿プロジェクト「♯ラグビーを止めるな2020」の発案者でもある野澤氏は、自薦枠を導入した理由についてこう語った。

「『♯ラグビーを止めるな』の活動を通して、動画による情報収集は、人の目による属人的な選抜を超えていると感じました」

タレント発掘担当でもある野澤氏は今年5月、コロナ禍で大会中止となりアピール機会を失った高校生を対象としたSNSプロジェクト「♯ラグビーを止めるな2020」をスタート。

するとハッシュダグ「♯ラグビーを止めるな2020」をつけたプレー動画が次々に投稿され、やがて他競技にも拡大。

「スポーツを止めるな」という一般社団法人も設立されるムーブメントになっている。

「今後も見据えて自薦枠を採り入れました。初めての取り組みでしたが、私たちの網ですくえなかった魅力的な選手が18名もいました」(野澤氏)

自薦枠で参加した選手の中には「将来は整形外科医になりたいが、トップレベルを知りたい」という理由から応募した選手も。

彼の自己アピール動画が素晴らしく、教育的価値があると判断されたことから選考を通過。自薦枠がなければ参加できなかった典型例だろう。

自分の人生は自分で切り拓く――。

そんな意志に溢れた選手が自薦枠から参加したことで、キャンプの顔ぶれはより多彩になったと言えるだろう。

合宿参加者にメッセージを寄せた第1回B&Fキャンプ参加者の松本光貴(明大)。松本と同じく過去に高校時代にU20代表に飛び級参加した選手は日本代表のPR稲垣啓太など。画像:JRFU
合宿参加者にメッセージを寄せた第1回B&Fキャンプ参加者の松本光貴(明大)。松本と同じく過去に高校時代にU20代表に飛び級参加した選手は日本代表のPR稲垣啓太など。画像:JRFU

コーチ陣はオンライン合宿に一定の手応えを感じているという。

野澤氏は「インプットの質が高かったのでは」とみている。

「本来は2泊3日で練習をしながら勉強もするので大変です。集団生活そのものに疲れてしまう選手もいます」

「今回は練習がなく『理解する』『明確にする』といった部分にフォーカスでき、インプットの質は従来より高かったかもしれません」

合宿最終日(2日目)の最後は、キャンプ発起人である野澤氏があいさつした。

これからの行動が勝負とした上で「お互いが成長し、今度はリアルのキャンプで会いましょう」と呼びかけ、濃密な2日間を締めくくった。

印象的なシーンは、最後の最後にまだあった。

キャンプは終了し、合宿プログラムを中心的に作成した司会の藤森啓介コーチが、退出をうながした。

しかし選手達はビデオ会議からなかなか退出せず。

その様子を見たU20日本代表の水間監督が、満面の笑みで語りかけた。

「みんなワクワクしすぎて退出できなくなってるな」

水間監督がそう語りかけると、選手達からも笑みが洩れた。

画面ごしでも熱は伝わる。“オンライン合宿”の可能性、成果が目に見えたようだった。

日本ラグビー界の原石たち――80人の高校生は、これからどんな日々を重ねるのだろう。

彼らの一歩一歩に日本ラグビー界は注目し、期待を寄せている。 ■

※【参加者一覧】2020年度第1回TIDユースキャンプ (Bigman&Fastman Camp)

https://www.rugby-japan.jp/news/2020/08/20/50509

最後に語りかけたU20日本代表の水間監督(左隅中段)。U20トロフィー2019優勝などの成果を上げて2019年度【日本代表カテゴリーコーチ賞】を受賞。緊張気味だった高校生たちも笑顔で応じた。画像:JRFU
最後に語りかけたU20日本代表の水間監督(左隅中段)。U20トロフィー2019優勝などの成果を上げて2019年度【日本代表カテゴリーコーチ賞】を受賞。緊張気味だった高校生たちも笑顔で応じた。画像:JRFU
スポーツジャーナリスト

スポーツジャーナリスト。法政二高-法政大学でラグビー部に所属し、大学1年時にスタンドオフとしてU19日本代表候補に選出。法政大学大学院日本文学専攻卒。「Number」「ジェイ・スポーツ」「ラグビーマガジン」等に記事を寄稿.。スポーツにおけるハラスメントゼロを目的とした一般社団法人「スポーツハラスメントZERO協会」で理事を務める

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