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大阪のPFAS汚染で府民1000人の血液検査始まる

幸田泉ジャーナリスト、作家
PFAS血中濃度検査の採血=2023年10月29日、大阪府摂津市で、筆者撮影

 全国各地で汚染が表面化しているPFAS(ピーファス、有機フッ素化合物)。大阪では今年9月、府内在住の住民1000人を対象に血中のPFAS濃度を測定する血液検査が始まった。大阪民主医療機関連合会(大阪民医連)などが協力者集めと採血を行い、2000年からPFASの汚染調査を続けている京都大学大学院医学研究科(公衆衛生大学院)が血液分析する。大阪で1000人規模の血液検査は初めて。

製造がストップしても環境中に残留

 炭素とフッ素の化合物であるPFASは、水や油をはじく性質があり、フライパン、雨具、スニーカーなどの生活用品から半導体など工業製品の製造工程にまで幅広く使われてきた。現在、1万種類以上あるとされるPFASの中でも、1940~1950年代にアメリカの化学メーカーが開発したPFOA(ペルフルオロオクタン酸)とPFOS(ペルフルオロオクタンスルホン酸)が、最も世界的に普及した二種類のPFASである。

 2000年代に入ってから、アメリカの研究で発がん性など人体への悪影響が科学的に明らかになり、EPA(米環境保護庁)が2006年に立ち上げた「PFOA管理計画」によって、PFOAとPFOSの主要メーカー8社は2015年までに製造を止めたとされる。

 しかし、「永遠の化学物質」と言われるほど自然界で分解されにくいため、これまでに製造されたものが土壌、河川、地下水などに残留し、人体や動植物への影響が懸念されている。

大阪府摂津市での取り組み

大阪府民1000人の血液検査に協力する住民たちには、採血前にしっかり問診が行われる=2023年10月29日、大阪府摂津市で、筆者撮影
大阪府民1000人の血液検査に協力する住民たちには、採血前にしっかり問診が行われる=2023年10月29日、大阪府摂津市で、筆者撮影

 大阪府には摂津市にPFAS主要メーカー8社のうちの一つ、ダイキン工業の「淀川製作所」がある。ダイキン工業は業務用エアコンで知られるが、化学メーカーでもあり、同社のホームページによれば1960年代後半から他社から購入したPFOAの取り扱いを始め、1980年代から自社でPFOAの製造をしていた。EPAのPFOA管理計画に参画し、淀川製作所では2012年までにPFOAの製造、使用は終了。現在、製作所内の残留PFOA対策として、地下水をくみ上げて浄化しており、敷地外に流出しないよう遮水壁を設置する予定という。

 2020年、環境省が水道水に利用される河川や地下水のPFOSとPFOAの濃度について、合算値で50ng/L(ngはナノグラム)と暫定目標値を定めたため、摂津市の濃度の高さがクローズアップされることになった。製作所は摂津市の南端にあり、大阪市東淀川区と神崎川をはさんで接する。摂津市南部では、2020年の大阪府の調査で22000ng/Lという全国的にも最高レベルの濃度の井戸が見つり、大阪市東淀川区では2021年の大阪市の調査で二つの井戸からそれぞれ4800ng/Lと2200ng/Lが検出されている。

 摂津市では2022年1月に市民団体「PFOA汚染問題を考える会」が設立された。同会は、国、大阪府、摂津市に対し、徹底的な環境調査▽住民の健康調査▽長期にわたる健康管理、などを求め、ダイキン工業には排水のPFOA濃度の情報公開などを求めてきた。

「大阪PFAS汚染と健康を考える会」発足

 今年9月に始まった1000人血液検査は、長年PFASの研究をしてきた京都大学大学院医学研究科に予算が付いたことで実現した。摂津市の「PFOA汚染問題を考える会」、大阪民医連、大阪から公害をなくす会、淀川勤労者厚生協会などが協力して広報、協力者確保、採血を行っており、11月11日、正式に血液検査実施団体として「大阪PFAS汚染と健康を考える会」が発足する。

 10月29日に摂津市内で行われた血液検査に参加した村澤裕一さん(67)は、各地の米軍基地でPFOSを含んだ泡消火剤が基地外に流出していることに触れ、「米軍基地周辺の問題だと思っていたが、摂津市の川や地下水の濃度が高いと知った。心配になり血液検査を受けることにした」と話す。坂本雅義さん(72)は、「地元の摂津市北西部に水道を供給している浄水場でPFOA濃度の数値が上がったという話もあり、ダイキン工業周辺だけの問題ではない。行政も対策に消極的な感じがするし、もう少し前向きになってほしい」と求めた。

PFOA高濃度の井戸水で育てた野菜は安全なのか?

約10年、野菜を育ててきた市民農園の井戸のPFASが高濃度と分かり、林垣内さんは「井戸水だけでなく、野菜の濃度も調べてほしい」と話す=2023年11月3日、大阪市東淀川区大桐で、筆者撮影
約10年、野菜を育ててきた市民農園の井戸のPFASが高濃度と分かり、林垣内さんは「井戸水だけでなく、野菜の濃度も調べてほしい」と話す=2023年11月3日、大阪市東淀川区大桐で、筆者撮影

 10月31日、大阪市東淀川区の「こぶし通り診療所」で行われた血液検査には東淀川区民を中心に50人が参加した。

 約10年間、大阪市東淀川区大桐の市民農園を借り、井戸水で野菜の栽培をしてきた林垣内薫さん(75)は、今年9月に街頭で血液検査のチラシを受け取り参加した。昨年4月、市民農園を管理しているJAから郵便物が届き、大阪市内の地下水(井戸水)からPFASが検出されていると知らされた。「飲まなければ健康被害が生じるおそれはない」という趣旨の内容で、林垣内さんは「農作物に使うのはOK」と判断したという。

 最近、環境省の暫定基準値は50ng/Lなのに、自身が農園で使っている井戸の数値は2200ng/L(2021年度大阪市調査)だと知って驚いた。「飲んだらダメな水を作物に使っていいというのは、根拠が良く分からない。水だけでなく、汚染された水で育てた野菜の検査をしてほしい」とJAや大阪市に訴えている。「水俣病は水銀で汚染された魚を食べて健康被害が出た。口に入るものにどれだけPFASが含まれているのかが重要ではないのか」

 東淀川区在住の津田康博さん(38)は、井戸水を飲んだり使ったりはしていないが、大気汚染もあると聞き、「自分も無関係ではない」と血液検査を受けることにした。「汚染の広がり具合からすれば、1000人の血液検査では足りないと思う。行政は『心配ない、心配ない』と言うが、『心配だから検査を受けましょう』という態勢を取るべき」と話した。

ジャーナリスト、作家

大阪府出身。立命館大学理工学部卒。元全国紙記者。2014年からフリーランス。2015年、新聞販売現場の暗部を暴いたノンフィクションノベル「小説 新聞社販売局」(講談社)を上梓。現在は大阪市在住で、大阪の公共政策に関する問題を発信中。大阪市立の高校22校を大阪府に無償譲渡するのに差し止めを求めた住民訴訟の原告で、2022年5月、経緯をまとめた「大阪市の教育と財産を守れ!」(ISN出版)を出版。

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