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森保ジャパンは世界と戦えるのか?深まるチームの不振と低調な4人の選手

小宮良之スポーツライター・小説家
(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

 ベトナムに敵地で0-1と勝利を収めたことによって、カタールワールドカップ出場に向け、日本代表の視界はわずかながら開けてきた。伊東純也のスピードは迫力満点だったし、冨安健洋のソリッドなディフェンスは世界を感じさせ、田中碧は関与したプレーは少なかったが、才能の煌めきがあった。

「とにかく勝ったことが収穫」

 多くの選手たちが口を揃えたように、個人が力の差を見せ、一つ駒を進めたことは事実だろう。

 しかし、チームに立ち込める暗雲は払いきれていない。一つ乗り越えたことによって、むしろ疑念は深くなっている。オマーン戦に向けてもそうだが、「これで世界と戦えるのか?」という物差しを失ってはならない。

森保ジャパンで世界と戦えるか?

 ベトナム戦は勝利したが、敗れたオマーン戦と比べて、内容は決して良くなっていない。むしろ、「悪くなった」と考えるべきだ。

 前線とバックラインが間延びしてしまい、中盤がぽっかり空いていた。お互いの距離感が悪く、必然的にミスが頻発。攻撃はスムーズにパスがつながらず、守備はカバーが遅れていた。相手の拙攻拙守に助けられただけで、レベルの高い相手だったら、どう転んでいても不思議ではなかった。

 前回のコラムでも指摘したように、ベトナムには「勝つだけ」で評価はできない。相手はJ2リーグの中位程度の戦力。そこにはターンオーバーを布いたり、圧倒して攻め勝つような戦いをしたり(得失点差がモノを言う可能性もある)、勝ち方が問われたわけだが、勝ち点3が精いっぱいだった。

https://news.yahoo.co.jp/byline/komiyayoshiyuki/20211111-00267415

 森保監督は自身が考える主力を全員使って、消耗させている。東京五輪、ターンオーバーをせず、最後は戦力が疲弊していた。次のオマーン戦でこの用兵は吉と出るか、凶と出るか…。

 こき下ろすような論調にはうんざりだが、不安感は消えない。

不調に喘ぐ4人の選手

 残念ながら、森保監督は用兵も疑問を感じさせた。

 例えば先発した大迫勇也、南野拓実、遠藤航、長友佑都は要所では実力を示したものの、及第点はつけられないプレーだった。

 大迫は前向きでボールをもらうアクションが少なすぎるし、得点の気配がなく、得意のポストワークで得点の起点になったが、トップフォームと比べると落ちている。南野はポジションがマッチしないのか、でこぼこのピッチにも苦しみ、面白いようにゴールを決めていた姿が懐かしい。遠藤は不振というのは大げさだが、東京五輪決勝トーナメント以来、無理やり打開するような持ち方が目立ち、代表ではブンデスリーガトップレベルのソリッドさを失っている。

 そして長友は深刻な状況だろう。サイドバックは我慢してタイミングを計って前に飛び出し、素早く帰陣する動きが攻守の基本だが、上がり切ってしまってスペースがなく、裏を取られる形も多すぎる。局面を切り取ると、全盛期に近いクロスや一対一の粘り強さも見られるが、左サイドバックが交代ありきでの起用になっているのは問題だ。

 森保監督は左サイドバックに、佐々木翔、中山雄太、旗手怜央という本職ではない選手を起用してきたことで、バックアッパーも育っていない。

 慎重な森保監督の悪い面が、今のメンバー選考では出ている。古橋亨梧のように、旬のストライカーを適材適所で生かせていない。監督として掲げるコンセプトがあるとしても、素材を生かし切れているかというと疑問符がつく。

 選手個人は奮闘しているが、チームとしてのマネジメントがうまくいっていないのだ。

 例えば酒井宏樹がケガをしたことで、山根視来を起用したが、こうした不可避の状況での使い方では状況は改善しない。事実、山根は失点につながらなかったものの、守備面は不用意さを見せていた。背後への注意が弱く、攻撃も機能的ではなかった。

 ベトナム戦での勝ち点3は貴重だが、チームへの不信感は増した。

評価すべきポイント

 もっとも、正しく評価すべき面もあった。

「いい守りがいい攻めを作り出す」

 それが森保一監督の念じるプレーコンセプトだとすれば、最低限はクリアしていた。

 ベトナムは力の劣る相手だが、国家の代表として高い集中力で挑んできた。5-3-2という布陣で守備を固めつつ、カウンターを狙い、その精度は低くなかった。何度か、カウンターも浴びせていた。

 しかし日本は吉田麻也、冨安のセンターバックを中心にした守備がソリッドで、ほとんど何もさせていない。シュートはエリア外から打たれたが、守備が最後まで崩された回数はゼロだった。失点ゼロに抑えただけでなく、選手個人が鉄壁さを示した。

 もっとも、それも「チームとしての戦略だった」というよりは個人の力量に頼っていた感が否めない。

 4-3-3が切り札のように語られるようになり、オーストラリア戦に続いて使われていたが、機能していたとは言い難かった。そもそも、4-3-3は運用が難しいシステムで、それぞれのラインをコンパクトに保ち、中盤で攻撃でも守備でも優位性を作るべきなのだが、間延びしてしまい、前衛と後衛のように別れていた。結果、攻撃は単発で守備は個人恃みになった。

 インサイドハーフの守田英正は左サイドハーフに近いポジションで、南野はトップに近く、変則的な4-4-2にも見えた。相手を考えた立ち位置かもしれないが、効果的ではなかった。攻撃はサイドバックが攻め上がって厚みを作る機会も乏しく、守備は前線がプレスで突出し、後ろが空いてしまい、システムが不具合を起こしていた。

オマーン戦が山場

 繰り返すが、ベトナム相手だからボロが出にくかった。

 前線からのプレッシングを評価する声もあるが、空回りしていた。長いボールを蹴らせることには成功したが、嵌めることはできなかった。単純に、バックラインが跳ね返すパワーがあったことが勝因だ。

 その点で、先制点の起点となった冨安は陰の殊勲者だろう。GKのロングキックを完ぺきに競り勝ち、クリアでなく、味方に繋げていた。その展開から、左サイドからのクロスを伊東が叩き込んでいる。

 ベトナム戦での収穫は勝利以外、本当に少ない。このままでは、「世界と戦える」とは太鼓判を押せない。ワールドカップ欧州予選ではポルトガル、イタリア、ポーランドという強豪国がプレーオフへ、アイルランド、ギリシャ、チェコなど有力国が突破の道を断たれている状況で、アジアのレベルは高いとはいえない。そこで日本は苦戦を強いられ、主力にけが人が出ているのを差し引いても、下降線を辿っている。

 オマーン戦に向けては、もはや総力戦で挑むしかない。引き分けも許されない戦いで、敗北は日本サッカーの未来にも暗い影を落とす。しびれる一戦だ。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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