雑誌ジャーナリズムは、ゲス時々社会派という「常識」が通用しなくなりつつある
2016年の「編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞」の大賞に週刊文春の「ベッキー不倫報道」が選ばれたことに、様々な反応が出ています。
R25は、雑誌ジャーナリズム大賞「ベッキー不倫」に冷ややかな声、と記事を書いていますし、Togetterには「雑誌ジャーナリズム大賞を『ベッキー不倫報道』が受賞 「本当に腐ってる」「日本のジャーナリズムは息をしてない」と落胆の声多数」というタイトルのまとめも作られています。
ジャーナリストの牧野洋さんは「理由は簡単だ。芸能ネタをスクープしたところで世の中が良くなるわけではないからだ」(「ベッキー不倫」スクープがジャーナリズム賞の大賞に選ばれるって…)と指摘しています。
このような反応は個人的には驚きでした。そもそも雑誌ジャーナリズムというのは、「ゲス時々社会派」といったような、ほとんどが不倫や不祥事であり、時々社会的な話題を突いてくるゲリラ的存在だったはず。それは、これまでの大賞をサイトで確認しても、その傾向は明らかです。
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週刊文春の新谷学編集長は拙著『ネットメディア覇権戦争 偽ニュースはなぜ生まれたか』で「もちろん週刊誌ですから、社会正義の実現とか、大上段に構えることは抵抗がある。別に大臣の首を取ることを目的に取材しているわけではありません」p281と明確に述べています。
このズレは、ネットによる「パッケージの崩壊」によって生まれているのではないかと考えています。
多くの人が、週刊誌の記事は話半分、東スポ(東京スポーツ)なら…という感じで、媒体によって信憑度合いを判断していると思います。「週刊文春」だと、阿川佐和子のこの人に会いたい、といった長寿コーナーから、みうらじゅんや林真理子らのコラム、そしてエロコーナー淑女の雑誌から、もあってひとつのパッケージです。しかしネットでは、文春が先出しするスクープ報道が中心です。
ネットでニュースに接触する人々の週刊文春のイメージと、紙の読者のイメージがズレているのだとしたら…不良が時々いいことするポジションの週刊文春が、新聞のような正規軍というか委員長的な役割を求められても困ると編集部は思っているかもしれませんが、このような議論が起きることは従来の常識(共通認識といったほうがいいかもしれません)が崩れていることの表れでしょう。
媒体と信憑度の共通認識が崩れると、メディアの読み解き方が非常に難しくなってしまいます(あの見出し東スポだからな〜といった読み解き方は、東スポという媒体がどのような信憑度なのかの共通認識があって成立する)。雑誌はというよりも、文春はけっこう難しいところに来ているのかもしれません。