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控訴を誓うアンバー・ハードを待ち受ける厳しい現実

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
アンバー・ハードと弁護士のイレーン・ブレデホフト(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

「次のステップは、控訴です」「彼女には絶対的な根拠があります」。

 アンバー・ハードの弁護士イレーン・ブレデホフトは、現地時間今月2日に出演したふたつのテレビ番組で、そう宣言した。

 それは、ジョニー・デップとの名誉毀損裁判でハードが敗訴をした翌日のこと。「Washington Post」に書いた意見記事によりデップの名誉を毀損した代償として、ハードはデップに対し1,035万ドルを支払うよう命じられた。デップも、彼の弁護士アダム・ウォルドマンによるハードについてのコメントのひとつが名誉毀損に当たるとして、ハードに200万ドルを支払うよう命じられている。とは言え、これは完全にデップの勝ちだ。

 4月12日の冒頭陳述で、ブレデホフトは陪審員に、「私たちはこれから山のような証拠をお見せします。証拠はたくさんあります」と言っていた。だが、それらの証拠やハードの証言を、陪審員は信じなかった。その理由について、ブレデホフトは、陪審員がソーシャルメディアに影響されたのだと述べている。また、出したかったが、却下されて出せなかった証拠があったとの不満も口にした。

 しかし、控訴してハードが逆転勝訴となる可能性は、果たしてどれくらいあるのだろうか?YouTubeチャンネル「Law & Crime」にゲスト出演した弁護士マシュー・バーホーマは、非常に低いと見る。

 バーホーマによれば、一般的に、控訴をすること自体がそもそも難しい。ハードルはとても高いのだ。控訴をするためには、前の裁判で間違いが起きたと主張しなければならないが、ハードは陪審員の偏見がそれだったとしている。陪審員に問題があったという主張は、最も通りにくい。見せたかったのに阻止された証拠があったという件に関しても、バーホーマは、「証拠を一番見ているのは判事。万一、たいしたことがない程度のミスが起きたにしろ、どの証拠を許すかを判断するのに一番ふさわしい人は判事だ」と、これまた通りにくいと述べた。

 何より、金銭的な問題がある。ブレデホフトは、テレビのインタビューで、ハードには1,035万ドルなど「絶対に払えない」と言っていたが、控訴するとなると、おそらく裁判所は彼女が払うべき賠償金を保証金として入れるよう要求してくるというのだ。その人には賠償金を払えることを証明するためで、必ずしも全額とはかぎらず、30%や40%程度かもしれない。それだけのお金を用意する余裕がハードにはあるのだろうか。

 つまり控訴にたどりつくまでが、すでに難関ということ。いざ実現したとしても、ハードに有利なのかどうかは疑問である。控訴では陪審員はおらず、いるのは3人の判事。これらの判事は厳密に法的視点にもとづいて判断する。ハードは裁判で、ビッグスターのデップはパワーがあるので人々が影響されるのだとしょっちゅう言っていたが、そういったことは一切入ってくる余地がない。

 ところで、「控訴はするな。そうしたら賠償金は払わなくていい」とデップがハードにオファーをするだろうかという憶測について、バーホーマは、「そうなったら良いと思いますね」と述べた。この裁判で、デップは、寛大な人というイメージをしっかりと植え付けたからだ。離婚ではハードに言われるままに700万ドルを払ったし、一緒に買ってまだ支払いが済んでいない物の支払いも、ハードの要求に応じて全部自分がかぶった。ハードの友人や妹を自分の家にタダで住まわせてあげるなど、そこまでしてあげなくてもいいのにということをやってあげている。今、そのオファーをハードにしてあげることは、「この裁判で築いた人物像にふさわしくて、良いのではないでしょうか」とバーホーマは語っている。

ハードが本を書こうとしているという話も

 それはハードにとっても理想的な展開だろう。ハードは裁判でも「私はもうこのことは忘れて先に進みたいのに、ジョニーがそうさせてくれない」とぼやいていた。お金をチャラにしてもらい、控訴はやめて、先に進むのが一番だ。だが、彼女にそのつもりはないらしい。「Us Weekly」が報じるところによれば、ハードは本を書こうとしているというのである。

 その記事の中で、事情を知るという人物は、「彼女はもうその話し合いを始めていて、とても喜んでいます。この時点で、彼女に失うものはもうありません。彼女はすべてを語りたいと思っています」と述べている。その人物はまた、ハードには全然お金がなく、お金をもらえる話を断る立場にはないとも語った。

 それが本当であれば、この後もまだハードはデップから暴力を受けたと世間に訴え続けるつもりということだ。彼女の言葉を信じ、同情してくれる人がどれほどいるのかは今回の裁判でわかったはずだが、それでもまだ本を出そうという出版社があるというのも驚きである。いずれにしても、真実を世間に伝え、満足しているデップには、犬の遠吠えにしか聞こえないだろう。とは言っても、そちらがそう出るとあれば、ハードに対してはもう「寛大な人」をやめてもいいのではないか。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「シュプール」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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