ドイツが日銀の独立性に口を挟む理由
ドイツのショイブレ財務相は1月17日に、安倍新政権が目指している将来的な追加金融緩和に強い懸念を表明した。ショイブレ財務相は、下院議会での演説で「安倍政権の新たな政策を非常に懸念している。世界の金融市場で流動性が過剰であることを考えると、中央銀行の政策についての誤った理解がそれをあおっている」と述べた(ロイター)。
ドイツのショイブレ財務相に続き、バイトマン・ドイツ連銀総裁も日銀の独立性が危険との警告を発していた。バイトマン総裁は日本政府が日銀にさらなる金融緩和を迫ったことは、ハンガリー政府の同国中銀に対する行為と同様、日銀の独立性を危険にさらしていると指摘した。
ショイブレ財務相もバイトマン総裁も安倍政権による中央銀行への圧力をかなり気に掛けていると思われる。なぜドイツの人に心配されなくてはいけないのか。
バイトマン総裁は、「意図しようがしまいが結果的に為替レートの問題がますます政治問題化する可能性」についても言及したことで、為替政策について牽制したとの見方もある。ドイツのメルケル首相も24日にダボス会議の演説で、日本の為替政策について「完全に懸念がないとは言えない」と発言した。これに対して経団連の米倉弘昌会長が、28日の記者会見で、ドイツのメルケル首相が円高是正をめざす日本の政策に懸念を示したことを「異常な反応」と批判した。
メルケル首相の発言の真意がどこにあったのかは定かではないが、ドイツからのアベノミクスへの懸念の背景には、円安政策というよりも日銀の独立性が危ぶまれているとの意識もあったのではなかろうか。ドイツの中央銀行は、かつて世界で最も独立性を有していたと言われる歴史があった。ドイツの中央銀行は、過去最も独立性の高い中央銀行であったとされるのは、どうしてなのであろうか。
第一次世界大戦の敗戦により、ドイツは天文学的な賠償金を背負わされ、財政支出の切り札になったのが、国債を大量発行し、ライヒスバンクに引き取らせるという手法であった。中央銀行として1875年に設立されたライヒスバンクは、全額民間出資ながら、ドイツ帝国の行政府としての位置づけで、国からの強い影響力があった。その結果、ドイツはハイパーインフレに見舞われた。
これにより、ライヒスバンクの後継者であるブンデスバンクは、インフレに対して極度に神経質となり、その要因となった中央銀行による国債引受に対して警戒感というか嫌悪感を強めたのは、この歴史が背景にある。ブンデスバンクは政府からの独立も保障され、ECB発足以前は世界でも最も高い独立性を有する中央銀行の一つであると評価されていた。
そのブンデスバンクの血を受け継いだECBが、現在最も独立性の高い中央銀行となっている。EU条約及びESCB・ECB法には次のような規定がある。
「ECB及び各国中央銀行は、本条約及びESCB・ECB法により授与された権限の行使、任務の遂行にあたり、EU諸機関及び各国政府その他いかなる機関からも、指示を仰いだり、指示を受けたりしてはならない。EC諸機関及び各国政府はこの原則を尊重し、ECB及び各国中央銀行がそれぞれの任務を遂行するにあたり、それらの構成員に対して影響を及ぼそうとしてはならない」(条約第107条)(論文「欧州中央銀行制度の金融政策運営、独立性及びアカウンタビリティ」立脇和夫氏」より一部引用)