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暑すぎるお盆に震え上がりたい!一気見必至の韓国サスペンス・スリラー

渥美志保映画ライター

どこにいっても、金もかかるし、混んでるし……というお盆休み。さらにこの常軌を逸した暑さで、後半は「クーラーの効いた家から出たくない」と言う人も多いのではないだろうか。そんな「おうちお盆」のこの機会に、是非おすすめしたいのが配信で視聴可能な傑作スリラーの数々。一度見始めたら一気見必至の「背筋がゾッとする作品」で、ぜひ暑さを吹き飛ばしてほしい。

※各作品には、自死、性暴力を含む暴力、テロ、いじめなどの描写が含まれています。それらのトラウマを持つ方には視聴にはご注意下さい。

『悪鬼』

父の自死をきっかけに、最強の悪鬼(悪霊)に取り憑かれてしまった主人公サニョン。かつて母親を同じ悪鬼に殺された霊視能力を持つ民俗学者ヘサンと出会ったサニョンは、ともにその正体を追うことに。そのゆく先々に、サニョンの父と同じ、手首に赤い痣をもつ自死事件が起こり……。韓国では「ムーダン」と呼ばれる土俗的なシャーマニズムが一部で今も信じられているのだが、ドラマはその世界を民俗学的なアプローチで紐解いてゆく。サニョンの父の部屋に張り巡らされた不浄を遠ざける「禁縄」、子どもの遺体を木に吊るして埋葬する習慣、餓死した子供を使い飢饉を払う呪術「厭魅」、75年前かくれんぼの最中に祈祷師と消えた少女……やがて人間の果てしない欲望によって生み出された悪鬼の真実は、『犬神家の一族』など『悪霊島』など横溝正史の世界も思わせる。サニョンの中で時に入れ替わる、サニョン自身と悪鬼の不気味な2面性を、韓国の30代女性で群を抜く俳優キム・テリが怪演。タイトルロールのアニメもホラー好きにはたまらない怖さ。

ディズニープラスにて配信中

『ホームタウン』 

1987年、ある小さな地方都市で、数百人の被害者を出した史上最悪の毒ガステロ事件。12年後、犯人ギョンホの妹としてかつて町を追われたヒョンジンは、母とギョンホの娘ジェヨンとともに帰郷、いまだテロの傷を引きずる町で疎まれながらも暮らし始める。そんな中、町では次々と殺人事件が起こり始め、その影に地域に巣食う怪しげなカルト宗教の存在が……。韓国には新興宗教やカルト宗教が多く存在し、宗教系のサスペンスドラマも多く作られている。駅で起こった毒ガステロ事件で始まる本作の下敷きには、オウム真理教と「地下鉄サリン事件」があることは間違いないのだが、宗教によるマインドコントロール、学校の七不思議を追っていたかつての同級生たちの死、見ると不気味な女の幻覚に取り憑かれる『リング』よろしくの呪いのテープ、虐待が横行する孤児院でおきた陰惨な事件など、スリラーらしい要素に加え、政治家からヤクザまで全て繋がっている地方都市の腐敗や、拷問が横行していた1987年という時代の暗さが加わり、多層的なスリラーに。他者を自在に操る「グル」を演じる俳優オム・テグの、不気味な静けさにもゾワゾワする。

NETFLIXにて配信中

『サムバディ』

出会い系アプリ「サムバディ」で通じて起こる連続殺人事件をモチーフに、アスペルガー症候群の開発者ソムと、彼女が突き止めた連続殺人鬼ユノの奇妙で危険な関係をスリリングに描く。ソムは自身の中の感情や他者への共感の欠如を自覚するがゆえに、それを表現する他者を真似ることでかろうじて社会生活を送っているのだが、アプリの中の疑惑の男ユノが、自分と全く同じ方法で女性たちに取り入っていることに気づく。マッチしたふりでユノと実際に会ったソムは、彼が殺人鬼であると確信するのだが、同時に「この人は自分を理解してくれる唯一の他者なのでは」と思い始めるのだ。ユノとソムは、目の前で「死にゆく何か」に対して微塵も感情が動かず、その点において互いを唯一無二の存在として欲し始める。だが最も興味深いのは、ユノはそんなソムを愛しつつも「スペシャルな獲物」とも思っているし、ソムはソムで、自分を殺すかもしれないユノを「この人なら愛せるかも」と感じていることだ。二人の性行為はいつ殺人の前戯ともなりかねない。エロティックでありながらクールで、静けさの中に張り詰めた緊張感が漂うスリラーである。

Netflixにて配信中

『豚の王』

無理心中で最愛の妻を殺し、消えた夫ギョンミン。現場には、疎遠になっていた中学時代の同級生で刑事ジョンソクへの「元気か?」というメッセージが残されていた。やがて始まった凄惨な連続殺人を追い始めたジョンソクは、被害者が中学時代にギョンミンとジョンソクを標的にしていたいじめっ子たちであることに気づく……。韓国には「いじめ」をテーマにした作品、特に大人になった被害者による復讐譚は多く作られているのだが、この作品は「いじめっ子を次々と血祭りにあげる」というストレートな作品とはかなり異なる。

復讐を主体として行っているギョンミンを駆り立てているのは、彼らを守ってくれたもう一人の親友、チョルの存在だ。いじめっ子たちに怯むことなく暴力によって対抗したチョルは、二人にとってヒーローであると同時に、「生き残りたいなら食い物にされるのを待つ豚でなく、手を血に染めた化け物になれ」と二人に迫る悪魔的な存在でもあった。ギョンミンにとっていじめ以上の強烈なトラウマとなっているその存在は、幻覚となって大人になったギョンミンをも苛んでいる。そしてその過去を完全に封印してきたジョンソクも、事件によってチョルの幻覚に悩まされるようになっていく。そこには人知れずに葬られた「ある事件」があり、徹底して容赦なく暴力的なギョンミンの復讐は、それをあぶり出すための布石でしかない。作品は人間の心の闇を描くスリラーと言っていい。

UNEXTにて配信中

映画ライター

TVドラマ脚本家を経てライターへ。映画、ドラマ、書籍を中心にカルチャー、社会全般のインタビュー、ライティング、コラムなどを手がける。mi-molle、ELLE Japon、Ginger、コスモポリタン日本版、現代ビジネス、デイリー新潮、女性の広場など、紙媒体、web媒体に幅広く執筆。特に韓国の映画、ドラマに多く取材し、釜山国際映画祭には20年以上足を運ぶ。韓国ドラマのポッドキャスト『ハマる韓ドラ』、著書に『大人もハマる韓国ドラマ 推しの50本』。お仕事の依頼は、フェイスブックまでご連絡下さい。

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