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持ち帰られたアメニティがメルカリやヤフオクで売られているのを見てホテルスタッフが複雑な心境になった話

瀧澤信秋ホテル評論家
(写真:アフロ)

多様化するホテルのアメニティ

ホテルに宿泊すると様々な楽しみがあります。ロビーをはじめとしたパブリックスペースの雰囲気やそこで働くスタッフのサービス提供、客室でいえば、部屋の広さからベッドの大きさにリネン類のクオリティなど…他のホテルと比べてみたり興味深いポイントが数多くあります。

中でもアメニティ類は、実際に使ってみるとその善し悪しがはっきりとわかる、すなわちホテルの格を露わしつつ個性が見える部分であり、気になる人も多いのではないでしょうか。アメニティといっても多種多様で、歯ブラシやカミソリにはじまり、シャンプー・リンス、シャワーキャップから綿棒に至るまでずらっと並んだ光景を目にすることがあります。

その他、部屋着やタオル類、スリッパなど、アメニティといえば直接肌に触れるものをイメージしますが、最近ではプラスチックゴミ削減に向けた取り組みから、有償化する動きや省略化する動きもあります(これらについての考察は別の機会に譲ることにします)。

アメニティはホテルの格や個性が見える、と前述しましたが、アメニティはホテルにとって差別化のアイテムとして取り組みやすいことから、それなりのホテルになると他のホテルにはないものをはじめ、一般には販売されていないような希少性が追求されることもあります。シャンプーやボディソープが海外ブランドということは、高級ホテルでは珍しくありません。

見事に価格が反映されるアメニティ

筆者個人の話をすると、ホテル評論家としてのミッションで、2014年に年間372ホテルへチェックインした際、ミッション終了後にホテル間比較すべく、持ち帰り可能なアメニティは使用せず持ち帰り、ホテル毎に透明なビニール袋を用いてパッキングし保管していました。

歯ブラシ・カミソリのみといったビジネスホテルから、高級ブランドのシャンプー・リンスのミニボトル、パックになった男性化粧品、入浴剤などパックしたビニール袋のサイズがホテル毎に大きく違うのは興味深い光景でした。アメニティを持ち帰ったと書きましたが、歯磨きセットやカミソリなど持ち帰りOKというアメニティがあれば、客室着やタオル類など持ち帰りNGのものもあります。

シャンプー・リンス等でいえば個包装されたタイプ(ブランドのものが多い)は持ち帰りOKですし、最近ではパイル地の使い捨てスリッパなども持ち帰りできる象徴的なアイテムです。余談ですが、この使い捨てスリッパにはクオリティの高いものも多く、1度使用しただけで捨てるのは勿体ないと思うシーンもあり、時に入っていた袋に戻し持ち帰り再利用することもあり(筆者個人として)“お持ち帰りスリッパ”と表現することもあります。

宿泊料金に含まれる?

時にホテルプロジェクトでアドバイザリーを請われるもありますが、アメニティの選定は開業後のランニングコストといった部分からもなかなかシビアな会議の場となります。アメニティを供給する専門の会社から提供された価格別のサンプルをチェックすることもありますが、これが見事に価格に反映されているのです。高いものはやっぱりイイ。予算との兼ね合いからどこまでクオリティを追求するのかというような、数円単位でのギリギリ感ある、ある種の攻防が繰り広げられます。

ゆえに先述したようなホテルの格や個性が露わになるのかもしれませんが、ホテル側としてはゲストに快適な滞在をしてほしいという真摯な思いから、予算ギリギリだけどあと10円上乗せしようなど、アメニティはまさにホテルのホスピタリティ・マインドの体現ともいえます。

別の角度からみると、ホテルの宿泊料金に反映されるのもまたアメニティです。概して高い宿泊料金の高級ホテルは充実する傾向については改めて触れるまでもないでしょう。そうしたアメニティ事情ですが、有償の動きもあることは冒頭で紹介しましたが基本無料で提供されます。無料とはいえ宿泊料金に転嫁されているので、間接的にしろゲストはアメニティを“買っている”ことになります。

ホテルスタッフの複雑な思い

先日、とあるリゾートホテルのスタッフと懇談の機会がありましたが、「最近、ホテルのアメニティがメルカリやヤフオクなどで個人販売されているよく見かけるのですが…」という話が出ました。スリッパにもかなりコストをかけているホテルといい、実際にそのホテルのスリッパが出品されていたのだといいます。

「客室に置いてあるアメニティは(持ち帰り可能なモノは)持ち帰って頂く分にはホテル側は何の抵抗もありませんが…いざ販売されるとなると何だか複雑な気持ちになります」と思いを吐露してくれました。同席した他のスタッフも「そうそう」と同じ思いだといいます。いろいろ思慮しつつ選んだ知人へのプレゼントがオークションに出品されていた、という思いとホテルスタッフの気持ちは似ているでしょうか。

これは、どちらがどっちなどと一刀両断できる話ではなく、持ち帰りOKとホテルが認めているということは、所有権移転という点からも何も問題ないという意見は当然でしょう。また、希少なものであればそのホテルのアメニティを使ってみたかったという人にはこうした個人販売は有り難いかもしれません(ホテルとしては泊まっていただくからこそ使ってもらえるという思いもあるといいますが)。

サスティナビリティといった点からもアメニティ削減の方向にあると書きましたが、今後削減が進んでいけばアメニティの価値がどう変わるのかも興味深い部分ではあります。

アメニティひとつとっても様々な人の思いが絡みます。今回はそんな気持ちを抱くホテルスタッフもいたという話を紹介しました。

みなさんならどう思われるでしょうか?

ホテル評論家

1971年生まれ。一般社団法人日本旅行作家協会正会員、財団法人宿泊施設活性化機構理事、一般社団法人宿泊施設関連協会アドバイザリーボード。ホテル評論の第一人者としてゲスト目線やコストパフォーマンスを重視する取材を徹底。人気バラエティ番組から報道番組のコメンテーター、新聞、雑誌など利用者目線のわかりやすい解説とメディアからの信頼も厚い。評論対象はラグジュアリー、ビジネス、カプセル、レジャー等の各ホテルから旅館、民泊など宿泊施設全般、多業態に渡る。著書に「ホテルに騙されるな」(光文社新書)「最強のホテル100」(イーストプレス)「辛口評論家 星野リゾートに泊まってみた」(光文社新書)など。

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忌憚なきホテル批評で知られる筆者が、日々のホテル取材で出合ったリアルな現場から発信する辛口コラム。時にとっておきのホテル情報も織り交ぜながらホテルを斬っていく。

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