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習主席、アフリカをつかむ――ジブチの軍事拠点は一帯一路の一環

遠藤誉中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
かつてのシルクロード海の道__アデン湾と紅海をつなぐ要塞、ジブチ(写真:アフロ)

習主席は12月1日のジンバブエ訪問を皮切りに、南アフリカのヨハネスブルグで開催された「中国アフリカ協力フォーラム」サミットに参加し巨額の投資を約束。同時にジブチに中国海軍初の軍事拠点を建設すると公表した。

◆ジンバブエ公式訪問

習近平国家主席(以下、習主席と省略)は12月1日、ジンバブエの首都ハラレに特別機で到着し、同国の公式訪問を開始した。ジンバブエのムガベ大統領はアフリカ連合議長を務めており、アフリカを押さえるために重要な拠点の一つだ。

空港に着いた習主席は、赤絨毯を踏みながら、現地人の伝統的な踊りの歓迎を受けたが、一瞬、不快というか、警戒の表情を見せた。動画ではその心理を見逃さずに考察することができたが、静止画となると、習主席が何とか笑顔に戻った瞬間を捕えているので、警戒の痕跡しか見えないだろう。しかしそれでもそれを読み取ることに興味のある方は、この写真をクリックして頂きたい。

筆者は2014年11月25日付けの本コラム「第二列島線を狙ったのか、習近平――オセアニア諸国歴訪」でも、「現地先住民マオリ族の歯をむき出したり舌を出したりする勇猛な戦闘の踊りの際、矢(槍)先が習近平に向けられた時は、やや警戒の表情を示した」と書いたが、「運命共同体」と言いながら、なんというか一種の「軽蔑」に似た心理が垣間見える。

それでもその国の大統領はアフリカ連合議長なのだから、我慢、我慢。

「今回の訪問を通じてムガベ大統領と中国・ジンバブエ関係の深化および関心を共有する国際・地域問題について踏み込んで意見交換し、両国関係の素晴らしい未来について計画することを期待している」と表明した(人民網)。

そして、次の「中国アフリカ協力フォーラム」サミットにおける大盤振る舞いには叶わないが、それでも火力発電所に10億ドルの資金援助をすると発表した。

◆「中国アフリカ協力フォーラム」サミットでアフリカに600億ドルの支援

12月4日、習主席は南アフリカのヨハネスブルグで開催された「中国アフリカ協力フォーラム」サミット(中国と南アフリカの共催)の開幕式で演説をし、今後3年間の間にアフリカの「10大合作計画」推進のために600億ドル(7.38兆円)の資金を提供すると発表した。このときの一連の写真は多数あるが、「観察者」というウェブサイトが最も豊富に掲載しているので、興味のある方は、このページをご覧いただくといいかもしれない。

「10大合作分野」は「工業化、起訴設備、環境保護、農業の現代化、医療衛生、貧困撲滅、貿易投資、人的交流、平和安全」など、多岐にわたる。

2014年の中国アフリカ間の貿易高は2220億ドルに上っている。中国の報道によれば、そのアフリカ諸国、約50か国の首脳や代表がこのサミットに参加したという。中国だけを対象として提携するプロジェクトなので、中国はほぼアフリカ全域を掌握したと言っても過言ではないだろう。

特に「10大合作計画」の中に「平和安全」という項目があるのは注目に値する。

◆ジブチに中国海軍初の軍事拠点建設――「一帯一路」の一環

サミットの開幕式があった前日の12月3日、習近平国家主席はヨハネスブルグにおいて、ジブチ共和国(アフリカ東北部にある国)のゲレ大統領と会談した。この模様は中央テレビCCTVで大々的に報道されていた。

一方、11月26日には、中国外交部と国防部は北京で共同記者会見を開き、「中国とジブチは、ジブチに保障施設を建設することに関して協議している」ことを公表している。

実は今年3月末、中国とジブチの間には互いに助け合った事件が起きていた。内戦の続くイエメンで中国海軍の軍艦は3月29日と30日にイエメンに滞在する中国人571人を救出しイエメンから撤退させたのだが、4月2日にはパキスタン人、エチオピア人、イタリア人、ドイツ人、イギリス人…など合計225人の救助に関しても要請があったので、中国海軍の軍艦は外国人をも救助し、イエメンから撤去させることに成功した。

軍艦が港を離れた直後にイエメンで武力衝突が起き内戦が勃発。間一髪だった。

このとき習主席は中央軍事委員会主席としての力を発揮し、自ら直接指揮を執って緊急行動に出たことは、内外に高く評価されている。

これが可能だったのは、ソマリア沖の海賊対策に対して、中国海軍の護衛部隊が常にアデン湾に待機していたからである。さらには胡錦濤政権時代と異なり、習近平政権においては、中央軍事委員会副主席および中央軍事委員会委員らを、習主席が掌握しているからでもある。2011年に同様のことが起きているが、当時の胡錦濤国家主席は中央軍事委員会の主席でありながら、実権を握っていなかったため、自ら指揮をしていない。胡錦濤が中央軍事委員会で実権を握ったのは、第18回党大会が近づいた2012年後半からで、この時にはすでに江沢民派の徐才厚や郭伯雄ら中央軍事委員会副主席が党大会前に降格させていた。

ところで12月3日にゲレ大統領と会った習主席は、まずは今年3月末から4月初めに起きたイエメンにおける救出劇において、ジブチ共和国が中国を支援してくれたことに関して謝意を述べた。同時に中国軍艦のソマリア沖海賊対策に対するジブチ共和国の日ごろからの支援に対しても感謝の意を表した。

さて、ここからが肝心だ。

習主席はゲレ大統領に、中国が提唱する「一帯一路」の中の、「21世紀の海のシルクロード」に協力を願いたいと申し出た。

そして港湾に「平和安全のための保障施設建設」を約束したのである。

もちろん「10大合作計画」を含む総計600億ドルの投資対象の中にジブチもあり、さらに港湾のインフラ建設も特に重視する。

12月4日、ジブチのユスフ外相は、ストレートに「中国海軍の軍事拠点がジブチに建設される」ことを明らかにしており、イエメン事件があった後の今年5月、ゲレ大統領は軍事基地建設に関して中国と話し合っていることを表明している。

ただし中国は決して「軍事拠点」とは言わずに、あくまでも「平和安全のための保障施設」としか言ってないが、中国海軍の保障施設なので、要は軍事拠点なのである。

ジブチはアデン湾と紅海を結ぶ中継点にあり、隣国にはソマリアやエチオピア、対岸にはイエメンがあるという重要な航路の要所だ。この位置に関しては毎日新聞が提供している地図が分かりやすい。

アメリカもフランスも日本の自衛隊もまた、ジブチには軍事拠点に近い存在の施設を持っている。そこに中国も加わろうというだけで、これを「中国の軍事覇権」と批判することはできない。イエメン事件で外国人の救助を間一髪で成し遂げたのだから、その功績が評価されるのは当然のことだろう。

ただ、何が違うのか――?

それはジブチが「一帯一路」の「海の新シルクロード」の中継地点であるということだ。 

中国より西側の西半球全てを覆うような一帯一路の地図をご覧いただきたい。

アデン湾から紅海へ、そしてスエズ運河を渡って地中海へとつなぐ「海の新シルクロード」。この重要な要塞の一つがジブチなのだ。

600億ドルの拠出金もジブチも、一帯一路に込められた「中国の夢」と「中華民族の偉大なる復興」という政権スローガンの具現化の一つなのである。アフリカは政治的な不安定から経済発展が遅れているが、しかし石油の埋蔵をはじめ、コバルト・白金(世界の90%)や金(50%)、クロム(98%)、コルタン(70%)、ダイヤモンド(70%)など、資源大陸だ。ここは実は宝の山。一帯一路戦略で安全保障を兼ねながら、この大陸を「つかむ」習近平政権の戦略を見逃してはならない。

たしかに日本も昨年から「日本アフリカ・ビジネスフォーラム」を開催し始め、アフリカのビジネスに乗り出してはいる。しかし「中国アフリカ協力フォーラム」は2006年から始まっており、さらには中国とアフリカの交流は1950年代から盛んに行なわれてきた。だから中国のあらゆる組織(大学や研究所あるいは行政省庁)に「アジア・アフリカ研究所」あるいは「アジア・アフリカ処」がある。このように中国とアフリカの関係は歴史が長く、一朝一夕で築いたものではない。

「習近平と安倍晋三」というアジアの二大巨頭は、さまざまな類似点を持っており、地球儀を俯瞰する外交でも常に競争しているが、中国の600億ドル拠出に対して、「それなら日本も」とばかりに「金額」で張り合うのはやめた方がいいだろう。日本国内の貧困問題や復興課題など、日本人の血税を注がなければならない優先課題は山積している。

中国はインフラ投資をする一方で、現地の企業や現地人の雇用を必ずしも優先しておらず、投資によって中国企業が儲かる例が多く、投資先国の国民とトラブルを起こすことが多い。また人材育成に関しては後進国だ。

まさに地球儀を俯瞰して中国情勢を正確に考察しながら、日本は量より質の政策で臨むべきだろう。

中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『中国「反日の闇」 浮かび上がる日本の闇』(11月1日出版、ビジネス社)、『嗤(わら)う習近平の白い牙』、『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』、『 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。

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