イスラエルが金融市場で注目=“コロナバブル”崩壊の引き金?
金融市場でイスラエルが注目されている。新型コロナウイルスのワクチン接種で先行する同国が感染収束に成功すると、主要国の大規模緩和の正常化が意識され、「“コロナバブル”とも言われる世界的な株高が大幅に修正されるリスクがある」(大手邦銀)ためだ。バブル崩壊の引き金となる可能性をはらむだけにイスラエル情勢からは目を離せない状況が続きそうだ。
世界最速でワクチン接種のイスラエル、高い有効性が事実なら…
イスラエルは現在、世界最速のペースで米ファイザー社の開発したワクチンを接種している(詳しくは、こちらとこちらを参照)。人口当たりの接種割合は57%超と大きく先行する。最速の接種が可能になったのは、国民の健康情報を管理する保健維持機構(HMO)に蓄積される接種者の健康状況などのデータをファイザーに提供。その見返りで優先供給を受けたからだ。
ワクチンの効果については、HMO関係者の話として、「92%の有効性を示した」と報じられている。市場関係者の間では「伝えられるワクチンの有効性が事実であるなら、向こう1、2カ月でイスラエルの集団免疫獲得と経済正常化が視野に入るだろう」(先の大手邦銀)との見方が浮上している。
イスラエルの収束成功で、次に焦点となるのは米国の動向
イスラエルが感染収束に成功すると、ワクチン接種でピッチを上げている欧米諸国の経済正常化も現実味を帯びる。焦点は、米国の動向だ。発足して間もないバイデン政権はコロナ対策に全力で取り組んでいる。大統領の首席医療顧問を務めるファウチ国立アレルギー感染症研究所長は「(社会生活が)秋ごろには正常化に近づく」との見通しを示している。
問題は、感染が収束することは経済に朗報ながらも、金融市場にとっては「かなりの波乱要因になる恐れがある」(大手運用機関のファンドマネージャー)ことだ。どういうことかと言えば、米国を中心に大規模に緩和された金融政策が正常化に向かい、「株高を支えた過剰流動性が縮小する」(同)と考えられるためだ。
株高もたらした過剰流動性。FRBが修正に動くと…
「過剰流動性」(詳しくはこちらを参照)とは、中央銀行が金融機関同士で資金が融通される短期金融市場で大量供給した資金を指す。今回のコロナ危機では、米国の中央銀行である連邦準備制度理事会(FRB)を筆頭に積極的な資金供給が行われた。こうした資金の一部が株式市場に流れ込み、米国を中心に主要な株式が高騰するに至った。
そうした中、イスラエルに続いて米国の感染収束が視野に入ると、FRBの大規模緩和も正常化(資金供給の縮小)する、との観測が浮上しやすい。現状、FRBは大規模緩和の堅持を強調するが、将来を先読みする金融市場は「資金供給の後退で過剰流動性も縮小する」(同)との見方を強めるだろう。その場合、まずは長期金利が上昇し、株価は下落するとの反応になりそうだ。
ワクチン、コロナを制圧すると同時に株のバブルも退治?
イスラエルの動向に注目する第一生命経済研究所の主任エコノミスト、藤代宏一氏は「感染収束によるイスラエル経済の正常化は、特に米経済の正常化時期を探る目安になる」と指摘。実際にイスラエルが正常化すると「(将来を先取りする金融市場では)FRBの緩和修正観測で長期金利に上昇圧力が生じ、株式の打撃になる可能性がある」との見方を示している。
昨年からの景気情勢と株価動向を振り返ると、景気は感染対策で企業や家計の活動が制約され、深刻な不況に陥った。ところが、株価は世界的に上昇の一途をたどった。景気が低迷するのに上昇を続ける株価は「実態からかい離したバブル」(日銀OB)と懸念されている。皮肉にもワクチンがコロナ感染を制圧すると、同時に“コロナバブル”も退治されかねないのだ。