ホリエモンよりグレタさんは「760万倍賢い」―温暖化防止「飛び恥」の衝撃
やれやれ、またか、である。グレタ・トゥーンベリさんについて謎の上から目線で、つまらない論評をする大人達。今度は、ホリエモンこと堀江貴文氏が加わったようだ。「私達の未来を奪うな」と温暖化防止を訴え、学校をストライキしたスウェーデンの少女は、今や世界で最も注目されている若者であろう。今年9月の国連気候行動サミットでのグレタさんの鬼気迫る演説は、日本でも大きな話題を呼んだ。
米誌「タイム」が、その年で最も活躍した人物とする「今年の人」に選ぶなど、超有名人であるグレタさんに便乗した炎上商法なのかどうかは知らないが、堀江氏は週刊プレイボーイ誌での元「2ちゃんねる」管理人のひろゆき氏との対談で、「飛行機が地球温暖化ガスを増やすとかいう話をするのは、人間が人間であることを否定することになると思う」とグレタさんに苦言を呈している。さも自身が賢いかのように振る舞っている堀江氏だが、実際には、グレタさんの方が「760万倍賢い」と言えるだろう。
◯ホリエモン、グレタさんに苦言
大量の燃料を燃やして飛ぶ飛行機から排出されるCO2は世界全体で年間8億トン以上(2017年統計)とされ、これは同年のドイツ一国の排出量とほぼ同等。つまり、航空業界のCO2排出は、世界第6位の温室効果ガス排出国に匹敵、しかも、今後はさらに増加するとみられている。そのため、グレタさんは、欧州での移動には鉄道を利用、米国と欧州の移動にすらヨットで海を渡るなど、徹底して飛行機に乗らずに、よりCO2排出が少ない交通手段を使っている。
これについて堀江氏は、「人間が人間であることを否定することになると思う」と週刊プレイボーイでの対談で論評。「堂々と飛行機に乗って、技術革新で地球温暖化ガス(原文ママ)*を減らす方向に動いたほうがいい」と語ったのだった(関連情報)。
*おそらく、温室効果ガスのことを言いたいのだと思われる。
◯グレタさんをきっかけに広まる「飛び恥」運動
だが、グレタさんは飛行機に乗らないことで、社会変革や技術革新を促している。グレタさんの行動をきっかけに欧州で広まっているのが、「Flygskam」(フリュグスカム:スウェーデン語で「飛び恥」の意味)という運動。これは、安易に飛行機に乗ることを「恥」とみなし、できるだけ鉄道など、より環境負荷の少ない移動方法を選択しよう、というものだ。米誌「タイム」によれば、「飛び恥」運動の影響で、スウェーデンの国内線の利用は空路によっては、今年第一四半期で前年比約1割減少、その一方で、長距離夜行列車のチケット売り上げは、今年前半で20%伸びた。また、スウェーデンでの世論調査では回答者の37%が「飛行機から鉄道へ乗り換えたい」と飛び恥を意識しているという。
◯「飛び恥」で航空業界も変革
さらに、航空会社自体も変わりつつある。KLMオランダ航空は、今年10月、500キロ以下の短距離路線を廃止、鉄道などに置き換えることを検討すると発表。さらに、使用済み食用油を原料とするバイオ燃料を利用拡大するというのだ。植物はその成長過程でCO2を吸収するため、植物由来のバイオ燃料は燃焼させてもCO2排出は実質ゼロとみなされる。KLMの他にも、英国ヴァージン航空、オーストラリアのカンタス航空は既にバイオ燃料によるフライトを実現。日本でもANA、JAL共に、バイオ燃料による商業フライトを目指している。
動画リンク https://youtu.be/6tp_NvMIHzg
また、バイオ燃料以外にも、カーボン・オフセット、つまり植林や太陽光パネル設置など、飛行機に乗ったことによるCO2排出を帳消しにすることをプレミアとして付加するサービスも、各航空会社が行っている。仏航空会社エール・フランスは、全国内線のCO2排出量を来年1月1日から全量カーボン・オフセットするという。
こうした航空業界の動きは、国際民間航空機関(ICAO)が主導する温室効果ガス削減の流れの中にあるものだが、16歳の少女が、大人達の助けを得ているとは言え、大西洋をヨットで渡ってまで飛行機に乗ることを拒絶していること、そしてそれを世界各国のメディアが報じていることのインパクトは大きい。つまり、グレタさんの飛び恥運動によって、航空業界は生き残りをかけ、より環境に負荷の少ないジェット燃料の技術革新やカーボン・オフセットを推し進めることになるというわけだ。
◯グレタさんに共感、世界760万人が行動
グレタさんはたった一人の、自分自身の直接の行動によって、世界の人々の共感を呼び、今年9月、国連総会にあわせた「グローバル気候ストライキ」では、世界各国で約760万人が温暖化防止を求め、デモや集会等に参加したという(関連情報)。
一方、堀江氏に限らず、グレタさんを批判する大人達は、さも自分は世の中の真理を理解しているかのように、やたら高飛車に物事を語るが、それらの言動は何の変革も起こしてない。本記事タイトルを"ホリエモンよりグレタさんは「760万倍賢い」"としたのは、つまりそういうことだ。ただ、堀江氏の発言をきっかけに、今回、筆者も本記事を配信し、飛び恥運動や航空業界の動向について読者の皆さんと共有できたのだから、同氏の発言も全く無駄というわけでもないのかもしれない。
グレタさんは一切の妥協のない、極端とも言える言動で、各国で温暖化防止について議論を呼び起こしている。そのこと自体が私達メディア関係者がなかなか出来なかったことだ。全く、大した、とんでもない16歳なのである。
(了)
*本記事は志葉玲公式ブログから転載・加筆したものである。