住宅ローンが大きな重荷・年齢階層別の収入や負債の推移を検証する
年齢階層別に収入と貯蓄の推移を見ると
生活の安定感、ゆとりの指標となるのが、金銭的な出入りの大きさ。収入が大きければ心にゆとりも出来るし、負債が大きければストレスもたまる。総務省統計局の「家計調査」の公開データを用い、一般的な世帯構成となる「二人以上の世帯のうち勤労者世帯」を中心に、年齢階級別の動向を探る。
なお「勤労者世帯」とは、世帯主が勤め人の世帯を意味する。ただし社長などの役員は「勤労者以外」と定義されている。例えば世帯主が役員、個人営業世帯、無職世帯(年金生活を営み、世帯主が働いていない場合も含む)などは勘案されていない。
まずは年間収入の推移。
30歳未満の収入が少ないのは当然の話。そして世帯主の年齢が上がるにつれて収入も増加するのは、年功序列制度、そして実績・経験の積み重ねによるもの。一方で60歳以上では、定年退職をした後に(退職前と比べて安い賃金で)嘱託などで雇われた人、さらには前職とは関係の無い場所でアルバイトに従事し、年金・退職金の補てんをする人なども含まれるため、平均的な「収入」は落ちることになる(それでも30代よりは多い)(「「年金」「給料」「私的年金」…60代前半シニア層の三大主要収入」も参考のこと)。
一方、2002年以降の中期的動向として、各世代で右肩下がり、つまり収入の漸減傾向が見受けられる。直近となる2014年では40代で大きく減少する一方、30代など複数世代で増加の動きを示している。特に30代は2年連続して有意な形での上昇を示しており、喜ばしい状況ではある。
次に「現在貯蓄高」。これは負債を勘案せず、純粋な貯蓄の額(預貯金だけでなく、生保の掛け金、有価証券、さらには社内貯金、共済などの貯蓄の合算。そして世帯主個人では無く、世帯全体の貯蓄である)。借金がいくら多くても、貯蓄額だけの計上になる。例えば住宅ローンを有している世帯では数千万円単位の負債を抱えている場合もあるため、「貯蓄額数百万、負債総額数千万」との事例も多分に想定されるが、この事例でも「現在貯蓄額」は数百万となる。
60歳以上の値が2007年に急上昇しているが、いわゆる「団塊の世代」が定年退職を迎えるにあたり、退職金を手にした人が急増したことによるものと考えられる。他の世代と比較して2010年以降もこの世代が下降せずに横ばい、あるいは微増を続けているのも、原因は似たようなものだろう。
一方でその他の年齢層は横ばいから下降の傾向にある。これは年収と同じ動き。景気の低迷が収入や貯蓄にも微妙な影響を与えていることになる。他方、直近となる2014年では30代以下は微減、それ以上の世代では増加の動きを示している。特に60歳以上の増加が著しい。定年退職による退職金で貯蓄としてプールされた金額が反映されたのだろうか(60歳以上はすべてこの年齢階級に該当するため、定年退職者が多ければ平均値も底上げされる)。
全体像としては、上から順に世代が下がっている並びを見せていることから、経年による蓄財の結果が、そのまま数字に表れている。つまり「歳を重ねるに連れて歳の分だけ蓄財も増えていく」、言い換えれば「若年層ほど蓄財年数が少ないので、貯蓄額も小さい」となる。
単なる負債、そして住宅ローンによる負債
負債額の推移。こちらは2007年~2008年において複数の世代、特に30歳未満・30歳代が負債を大きく増やしている。
2007年の全体的な貯蓄の減少・負債の増加は、景気の急激な悪化(いわゆる「金融危機」)に対する影響が一端にある。そして2010年においては再び似たような状況が生じている。2011年には40代でやや改善されたが、2012年には30代と共に再び跳ねる形で上昇。これが全体平均値をも底上げしている。さらに2013年に入ると元々高額を維持していた40代以外で有意な上昇の動きが確認できる。
これは主に住宅ローンのプレッシャーによるもの。2013年は消費税率の引上げが2014年4月に開始されるため、それをひかえて住宅の駆け込み需要が発生している。その影響で住宅をローンで購入する人が増え、結果として平均的な負債も増えた次第である。
さらに2014年に限ると30歳未満で急激な負債額の増加がおきている。これは調査対象母集団における30歳未満の持ち家率が1年で約1.5倍に増加したのに伴い、住宅ローンによる負債額が増えたのが主要因。前年2013年と今年2014年における、世代別持ち家率を比較すると、その実態がよくわかる。
この持ち家率の急上昇について特に説明は無い。上記のように消費税率引き上げに伴い駆け込み需要なのか、景況感の回復によるものなのか、単なるイレギュラーな動きなのか。来年分以降の動向で再確認する必要はある。
その住宅ローンに該当する、住宅・土地のための負債額動向を示したのが次のグラフ。
「現負債推移」と「住宅・土地のための額推移」は、各年齢層毎の挙動がほぼ一致している(2011年~2013年の30代-40代の動き、そして2014年の30歳未満が顕著)。これらの動きから、30歳未満・40代の層が2007年から2008年に、少々背伸びをして住宅を購入したのが推測できる。
見方を変えると、各世帯における負債の大部分は住宅ローンで占められていると考えても間違いではない。例えば年齢的にほとんど住宅ローンを返済し終えた(あるいはいるはずの)60代以上世帯は、負債をあまり抱えていない。
純貯蓄額を算出してみよう
世帯による負債の大部分が住宅ローンであることを考えると、純貯蓄額(「単純貯蓄残高」から「負債現在高」を引いた結果)も、負債の負担が小さい、そして経年による蓄財の大きい高齢層の方が高い値を示す。
特に「背伸びで住宅を購入した30歳未満・30歳代」は2006年以降、純貯蓄額がマイナスに落ち込んでいるのが目立つ。住宅ローンは表現を変えれば「住宅に形を変化させた蓄財の証」で、一概に「負債だから良くない」との評価には違和感もあるが、それでも毎年一定額をローン返済に回されるのは、精神的・金銭的なプレッシャーとなるのには違いない。
2014年では30歳位未満が大きく下がっているが、これは上記の通り、住宅ローンの負担が増えた結果によるものである。
やや余談になるが、若年層の金銭的な余裕の減退が問題視されていることから、「二人以上の世帯のうち負債保有勤労者世帯」(≒住宅ローン保有者)から、全世代平均と若年層のみを抽出したのが次のグラフ。
2014年における30歳未満の動向のように一部イレギュラー的な流れはあるものの、「30歳未満…2007年~2008年以降は純貯蓄額は横ばい」「30代……純貯蓄額はさらにマイナス化」の動きを示している。30代時点での住宅取得において、ますます懐への負担が大きくなっている様子がうかがい知れるというものだ。
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