京都の女の子を、ご当地キャラ化して大人気。『地下鉄に乗るっ』の絵師・賀茂川に聞くヒットの理由。
京都伊勢丹でカフェ、京まふでイベントとひっぱりだこの、ご当地キャラクター
京都で市営地下鉄や市営バスに乗ると、ホームや車内に、かわいい女の子のイラストが描かれたポスターが目につく。
これは、「地下鉄に乗るっ」という地下鉄PR企画のキャラクターで、名前は太秦萌。
2013年から登場したこのキャラは、オタク過ぎない一般的な親しみやすさがあり、なおかつ適度にオタクにも好まれる魅力も持ち合わせて、幅広い人気を獲得、小説化されたり、ファンによるクラウドファウンディングで1000万円集めてアニメCMも作られたり、9月16、17日の京まふ(京都国際マンガ・アニメフェア2017)でもイベントを行うほどの盛り上がりを見せている。
京都伊勢丹では、京まふとコラボレーションした〈太秦萌カフェ〉が18日までオープン中。
こちらは、ジェイアール京都伊勢丹アシスタントバイヤーの伊勢京香と京都国際マンガミュージアムの烏丸ミユと、京都市営地下鉄の太秦萌 3人の女の子キャラが勢揃いしている。
地下鉄、デパート、美術館……これらのイメージキャラ絵を描いているのは、賀茂川という名のイラストレーターで、他にも、京都学園大学の太秦その、京都市選挙管理委員会 選挙投票啓発キャラクター・京野みく、生花の老舗・池坊が主宰する「Ikenobo花の甲子園2016」のイメージキャラ、ゲームアプリ『駅メモ!』の嵯峨野もみじ……と続々キャラクター化している。
京都が、賀茂川さんの描くキャラクターで埋め尽くされてしまいそうな勢いなのだが、賀茂川と名乗るくらいで、やっぱり京都の人だった。でも、年齢や性別は不詳。
どんどん京都をキャラクター化していく謎のイラストレーター・賀茂川さんに、京都に生きる人たちを絵にすること、それが広く受け入れられたことについて、実感を聞いてみた。
京都の空気をキャラクターに落とし込む
ーーそもそも「地下鉄に乗るっ」のイメージキャラを手がけることになったわけは?
賀茂川 「GK京都さんというデザイン会社の方に声をかけてもらいました。絵ももちろん気に入ってくださったのですが、京都の企画なので、京都の人間であることも理由だったようです」
ーー生まれも育ちも京都ですか?
賀茂川 「そうです。育ったのは上賀茂のほうで、賀茂川が常に傍らにありました。子供の頃は、絵が好きだったおばあちゃんに連れられて、京都府立植物園でスケッチしたりしていました」
ーー今は、東京で活動していらっしゃるんですね。
賀茂川「絵の仕事をはじめたのが2012年で、その前に、東京に出てきて、ゲーム雑誌のライターをやったり、古着屋さんに勤めたり……いろいろな仕事をしていました。京都には親が住んでいるので、1ヶ月に一回くらいは帰っています」
ーー京都のキャラを描く時、京都出身であることが役に立ちますか?
賀茂川「例えば、最近、高知に行ったのですが、暑さが独特なんですね。四国の風景にハマる女の子を描いてと言われたら、あの日差しを浴びたことがあるほうがいい絵が描けると思いました。絵を描くとき、触感とかニオイとか、五感を大事にしているので、その人物がいる場所の空気込みで絵にしたいという欲求があります。そういう意味で、京都で生まれ育った強みはあるはずです。名前に使わせてもらっている賀茂川もアイデンティティになっていますし。それから、イラストの色味も、京都らしさを意識しているところがあります。彩度を抑えた感じは、京風というか和風。また、情報量を削ぎ落としたシンプルな線画や平面的な構図は浮世絵にも通じるのではないかと思います」
ーー太秦萌とその仲間たちのイラストが人気を得たわけを、以前、GK京都と、アニメを制作している魚雷映蔵の方に伺ったら、オタク過ぎず、現代的なファッションをしているキャラだからというふうにおっしゃっていましたが、賀茂川さんの絵の原点を教えてください。
賀茂川「絵を描きはじめた時、いろいろな作家の絵を研究したのですが、江口寿史さんのファッションイラストのようなものには憧れていました。あとは、『宝石の国』の市川春子さんの線の細さ。アニメだと、平松禎史さんや吉田健一さんの柔らかいタッチは勉強させて頂いています。『地下鉄に乗るっ』のキャラクターのフォルムは、GK京都のディレクターの方が、とても細かくチェックしてくれていて、ずいぶん、所作がリアルになりました。でも、『地下鉄に乗るっ』が人気になったのは、絵の力だけではないと思っています。あくまでも、絵は、要素のひとつです」
ヒットの理由は、キャラクターにストーリーがあること
ーー売れた理由はどこにあると思いますか?
「キャラクターにストーリーがあったことですね。それによって支えたい気持ちになるというか……。太秦萌は、元々は、市営地下鉄の職員さんが描いた素朴な絵で、それが、賀茂川の絵になって、雰囲気がガラッとっ変わったというのが、最初の奇跡のストーリーです。ギャップがあったからこそ盛り上がったんですね。その後、アニメ制作を担当している魚雷映蔵の佐野リヨウタさんが率先して、アイドルでいうところのライブのようにイベントを行って、盛り上げて、そういうことを地道に積み重ねてきたことで今に至っている。アニメ化するに当って、選ばれた声優も十代の女の子たちばかりで、身近な感じが心をくすぐったと思うんです。絵だけではなく、色んな要素がからんで、ここまで来ることができた。ほかの自治体が真似してやろうと思っても、キャッチーなイラストを描いているだけでは、なかなかここまでいかないでしょうし、たぶん、うちらにとっても奇跡的な成功だったと思います」
ーーストーリーといえば、市営地下鉄の太秦萌と、京都学園大学の太秦そのと、京都国際マンガミュージアムの烏丸ミユなどは、経営母体の違いを超えて、みんな関係ある設定です。地下鉄では、男の子のキャラクターも増えました。今後も増えていきますか?
賀茂川「女性だけでなく、男性キャラも出したいと前から考えていて、交通局の女性陣に協力を得て、女性の視点を大切にして、ふたりの男の子を描きました。あとは、萌のお母さんとお父さん。すでに設定では存在しているんです。中でも、お父さんの太秦太はファンの方に期待されているんですよ。賀茂川絵でおじさんってどうなるんだ? って(笑)。でも、意外と、年配の人の絵を描くのも好きなんですよ」
賀茂川 profile
kamogawa 京都市出身 年齢性別不詳。2012年からイラストを描き始め、Pixiv×サントリー主催C.C.レモン擬人化イラストコンテストにて入賞、2013年、『かせきさいだぁのアニソング!! バケイション!』販促用イラスト、京都市営地下鉄のキャラクター太秦萌を担当し、注目される。その他、フェリシモ サマーセットアップ「三人のアリス」イメージイラスト、Avex わーすた グッズイラスト、リトルナース100周年プロジェクトひとりひとりのリトルナースなど。
今後は、漫画にも挑戦したいと思っている。
賀茂川さんの好きな京都
三条や寺町のアーケード商店街に昔からあるような喫茶店。お年寄りと若い人が混在している感じが心地よい。東京にはそういう喫茶店があまりないように思います。あとは、やっぱり賀茂川。
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