Yahoo!ニュース

『ザ・セカンド』漫才時間の大きな差 ガクテンソク6分超とザ・パンチ4分台の衝撃

堀井憲一郎コラムニスト
『ザ・セカンド」スペシャルサポーター 博多華丸・大吉(写真:つのだよしお/アフロ)

『ザ・セカンド』は1ネタ6分

『ザ・セカンド(THE SECOND)』の漫才は「6分」である。

『M−1』よりも2分長い漫才が披露されるのも注目される。

では、2024年ことしの『ザ・セカンド』では実際に何分の漫才を演じていたのか。

計ってみた。

演芸(漫才)の時間というのは、どこからどこまでを指すのか、厳密に計りだすとなかなかむずかしい。

基本は、最初に頭をさげて喋り始めたところから、最後のセリフ(もうええわ、ええ加減にせえよ)を言って頭をさげるところまで、というのでいいとおもう。

『ザ・セカンド』はマイクまで15秒かかる

ただ『ザ・セカンド』や『M−1』の場合、マイクから10メートルほど離れているところに登場して音楽(出囃子)が掛かり、そこから歩いて、ときには駆け足でマイクまで近づいていく。

『ザ・セカンド』2024年では、だいたいここが15秒使われていた。

その最初の7秒ほどは漫才師2人ともが立ったままで(7秒経ったらゴーサインが出るのだろう)、そこから8秒で動いてマイクまでまでたどりつく。

早足できちんと時間通りにたどりつくコンビもいれば、走らないと間に合わないコンビがいたり、片方がマイクにまっすぐ向かわず、観客に愛想を振りまいているので1人だけがマイクに立って喋りだし、相方は遅れてやってくる、というパターンもある。

漫才時間は5分45秒が平均

頭下げてから頭下げるまでの純粋な漫才トーク時間は5分45秒前後がふつうだった。

ということは、演技6分、というのは、この「出囃子が鳴り始めてからマイク前に立つまでの15秒」も入れているのだろう。

8組の漫才14本

2024年の出演者は8組である。

そのうち3回漫才をやったのが2組、2回やったのが2組、1回だけのパフォーマンスが4組なので、合計14回の漫才が披露された。

それぞれの漫才パフォーマンス時間を並べてみる。

マイクの前で頭を下げたところから、喋り終わって頭下げたところまで、の時間である。

漫才タイトルは私が便宜的につけているものである。正式タイトルではない。

一回戦のパフォーマンス時間一覧

一回戦(以下すべて出演順)

5分55秒 ハンジロウ「もと嫁カフェ」

5分39秒 金属バット「大阪交通安全カルタ」

6分10秒 ラフ次元「隠しごと」

5分46秒 ガクテンソク「国分寺の豪邸」

6分05秒 ななまがり「ハニートラップ」

5分45秒 タモンズ「変身ベルト」

5分39秒 タイムマシーン3号「悪魔のドラえもん」

5分51秒 ザ・パンチ「カミナリおやじ」

一回戦で6分超えていたのはラフ次元とななまがりの2組

出囃子の15秒ほどを加えると、だいたい5分55秒から6分05秒におさめようとして、きっちりそこに入っている。

キャリア16年以上、ベテランらしい感覚である。

長かったのがラフ次元の6分10秒、ななまがりの6分5秒である。

惜しくも一回戦で負けたこの2組が、少し長かったというのは、なんとなくわかる気がする。

きちんと演じきろうとしてもがいた刻印のように見える。

準決勝は3組が同じような所要時間

パフォーマンス時間が6分30秒を超えると、減点対象になる、と説明されていたが、そこまで長いパフォーマンスはない。

準決勝の所要時間はこうである。

準決勝

5分49秒 ガクテンソク「儲かる仕組み」

5分46秒 金属バット「料理なんて」

5分44秒 タモンズ「誕生日プレゼント」

5分02秒 ザ・パンチ「サッカーのスカウト」

ガクテンソクのネタは名付けにくい

ガクテンソクの準決勝ネタは、名前がとてもつけにくかった。

求婚の歌から、儲かる仕組み、漢字の意味、秀吉の手相、ナポレオンの辞書、尾崎二人時代と、ころころ話題が変わって、まさにこれが漫才やなあと、私は痺れながら聞いていた。

ザ・パンチだけが短かった

所要時間でいえば、準決勝ではガクテンソクと金属バットとタモンズが、ほぼ同時間、だいた5分45秒あたりで、感心する。

時間通りに仕上げるという、このへんのこの人たちの技術というか、職人ワザと言ったほうがいいか、なかなかすごいものである。

そして、ザ・パンチは、ここから急に短くなるのである。

準決勝ではネタ時間は5分02秒だった。それで勝ち抜いた。

決勝での大きな時間差

そして決勝の所要時間。

決勝

4分56秒 ザ・パンチ

6分14秒 ガクテンソク

象徴的であった。

ガクテンソクの「6分14秒」はこの大会でもっとも長い漫才であり、ザ・パンチの「4分56秒」はもっとも短い(そして唯一の4分台の)漫才であった。(繰り返し断っておくが、出囃子の時間は含まれていない)

ネタ時間が1分15秒以上違っている、というのも珍しい。

決勝の決定的な差

ザ・パンチは実際に見ているときも、あ、ちょっと早いとはおもったが、きちんと計測したらおもった以上の時間差だった。

ガクテンソクの決勝ネタは「誕生日プレゼント」で、これはすでにこの日、繰り返し使われたネタだったのに、でもそのネタでブレずに押し通すその「力」が高く評価されていたようにおもう。

このパフォーマンス時間の差が、その採点の差(294点と243点というこの日の最高点と最低点)にも、なぜか反映されていたように見える。

まあ、ザ・パンチは準決勝では最後の4組目に出場し、決勝では直後の1組目に出たので、連続しての漫才パフォーマンスという圧倒的不利な条件であったのだが、まあ、しかたのないところだろう。

芸人の賞レースはまた、時間との闘いでもある。

コラムニスト

1958年生まれ。京都市出身。1984年早稲田大学卒業後より文筆業に入る。落語、ディズニーランド、テレビ番組などのポップカルチャーから社会現象の分析を行う。著書に、1970年代の世相と現代のつながりを解く『1971年の悪霊』(2019年)、日本のクリスマスの詳細な歴史『愛と狂瀾のメリークリスマス』(2017年)、落語や江戸風俗について『落語の国からのぞいてみれば』(2009年)、『落語論』(2009年)、いろんな疑問を徹底的に調べた『ホリイのずんずん調査 誰も調べなかった100の謎』(2013年)、ディズニーランドカルチャーに関して『恋するディズニー、別れるディズニー』(2017年)など。

堀井憲一郎の最近の記事